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ハーメルンの音楽祭  作者: NiO
103号室:身駅
20/46

読み方

 時刻は23時過ぎ。


 場所は『身駅』、その改札口。


 全員が、老女に視線を向けています。


「……まあ、詳細は省くけど。


 私も、デスゲームの首謀者がどういう奴かは、知ってる」


「え、マジで?」


 『こども』の老女のカミングアウトに『おとな』の少女は、思わず驚きの声をあげます。

 どうやら老女は、ニッケルさんを知っている、というのです。


「……んん?

 ああ……、わかった」


 メールの問題を見ていた老女は、少女の言葉に応えることなく、呟きます。


「"秋"は漢字と言っているのに。

 "畑"は、漢字とは言っていない(・・・・・・・・・・)


「「「「え」」」」」


 皆が、再度問題文を確認します。

 ……確かに、漢字で書け、とは言っていません。


「畑の漢字を作るのであれば、マッチ棒5本が正解でしょう。


 でも(・・)畑を(・・)


 ただの(・・・)畑を作りたいのならば(・・・・・・・・・・)


 老女は、とても自然に、『ねずみ』の小児からマッチを取ると。


 そこから1本を取り出し、擦って、火をつけました。



焼き畑をすれば(・・・・・・・)


 大地を焼けばいい(・・・・・・・・)



 そのために必要な(・・・・・・・・)マッチ棒は(・・・・・)……。






 ……一本(・・)



 老女は、火の灯るマッチを、改札口の向こうに指で弾き飛ばします。


 マッチの火は消えることなく、改札口の向こうの、草木の1本に当たって。





 ……まるで(・・・)紙のように(・・・・・)燃え始めました(・・・・・・・)




「う、うおおおお!?」



 炎はあっという間に、美しい景色の奥の奥まで嘗め尽くしてしまいました。



 ……村が(・・)燃えています(・・・・・・)



 もみじも(・・・・)

 稲穂も(・・・)

 村人たちも(・・・・・)



 笑顔を浮かべながら、何かの冗談のように、炎に飲まれていきます。



「……ああ(・・)


 偽物(・・)だったんですね(・・・・・・・)全部(・・)


 『かたりべ』の中年が、ぼそりと声をあげました。


「たぶん、身駅って、食虫植物みたいな生態なんでしょう、ね。

 人の感動に付け込んで人を誘い込み、食っていく(・・・・・)


 そして。


 食った人間の(・・・・・・)姿を模して(・・・・・)、『村人(・・)を作って疑似餌にする(・・・・・・・・・・)


 中年の言葉を、誰もが黙って聞いていました。


 作り物の様に炎を上げた村は。


 あっという間にその姿を燃やし尽くしたのでした。




 残ったのは。



 稲穂の畑のあった場所に残る。





 大量の、骸骨(しゃれこうべ)でした。



「改札を抜けたら……食われてたん……だろう、な……」


 『ふえふき』の壮年が、そう付け加えます。


「あ、ドア、あったよ!」


 空気を読まないような、小児の声が響き渡ります。


 出口のドアは、駅のプラットホーム側にあるみたいです。


 皆は、よたよたと駅の中へと歩いて行きました。

 足取りは、非常に重たいです。

 そりゃあ、そうです。

 さすがに皆さん、精神的にやられたのでしょう。


「あ、『かたりべ』のおじさん」


 『おとな』の少女が、声をかけました。


「さっきは、本当に有難う。

 ごめんね!」


「いえいえ。

 正直、あんな景色を見せられては仕方ないですよ……」


 少女の謝罪の言葉に、中年は笑って手を振ります。

 あれほどの風景を見せられたら。

 正直周りの静止を振り切って村の方へ進んでも、不思議では無かったからでしょう。


「……なんであんなあからさまな罠に突っ込んでいったのか、理解に苦し……む」


 話しかけてもいないのに、壮年が少女を非難しました。


「……は?

 あからさま?


 なにが(・・・)あからさまなの(・・・・・・・)


 ねえねえ(・・・・)教えてよ(・・・・)


 少女が謝ったのは、中年に、のみ。


 横で聞いていた壮年の、よくわからない台詞に、イラついたような声をあげました。


「……駅の名前……だよ。


 あからさま……だろう」


「……は?

 駅の、名前?」


 『おとな』の少女が頭の上に『?』を浮かべていると。

 『ふえふき』の壮年は、あきれたように溜息をつきました。


「……おい、『おとな』の。


 お前(・・)この駅の名前(・・・・・・)分かってなかった(・・・・・・・・)……のか(・・)?」


 驚いたように、『ふえふき』の壮年が、語りかけました。


「え、いや、えーっと。


 ……『みえき(・・・)




 ……でしょ(・・・)?」


 あれ、『しんえき』なのかな?とでも言うように。

 少女は自信無さ気に答えます。


 ()




「……全然違う(・・・・)



 看板を見ろ(・・・・・)

 


 『おとな』の少女は、駅の看板へ振り返ります。


 そこには。


 少女が(・・・)思っていたのとは(・・・・・・・・)違う読みが(・・・・・)書かれていました(・・・・・・・・)


 でも、仕方ないでしょう。


 それは、『身』の、『み』ではない。

 難読の方の読み(・・・・・・・・)、だったのですから。




 駅の名は。


 ……(むくろ)駅。




 その意味は(・・・・・)





 ……死体(・・)もしくは(・・・・)亡骸(なきがら)

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