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ハーメルンの音楽祭  作者: NiO
プロローグ
2/46

某寺にて、前編

 8月某日、某寺院にて。


 今年の夏も、老婆は墓参りにやってきました。

 よぼよぼに曲がった腰で、よたよたと頼りなさ気な足取りで。

 それでも彼女は、友人や伴侶の墓の周りに生えた雑草を手際よく抜いていき、持っていた桶から柄杓で水をかけたりしています。

 手馴れた動作。

 まるで、もう何年も、同じことを繰り返しているかのように。


「友達も旦那さんも、みんないなくなって、流石に寂しいですか?」


 私がいることに気づいていなかった彼女は、少しだけ驚いたように此方を振り向き。

 そして、またお墓の掃除に戻りました。


「……まあ、寂しくないっていったら、嘘になるけどねぇ。

 こればっかりは、どうしようも無いでしょ。

 時間は誰にでも、平等。

 子供や孫が大勢いるし、私は恵まれている方だ」


 私の問いに、老婆は小さな声で、しかしはっきりと、そう答えます。

 なんだか、自分自身を納得させようとして発しているような言葉。

 此方からは見えませんが、苦笑いしているであろう彼女の顔が手に取るように分かりました。

 老婆がお墓へ向かってゆっくり手を合わせるのを、私は黙って見ていました。

 線香の煙がゆらりと揺れて、静かに時間が過ぎていきます。


「……よし、じゃあいろいろと準備しよう。

 あ、貴方はいっつも甘いものばっかり飲んでいたから、お供え物はお菓子抜きだからね」


 お墓の伴侶に向かって小言をクドクドと続けながらも、準備していたであろうお弁当や花束などを、てきぱきと備えていく老婆。

 一通り準備ができたのか、彼女は石段に腰掛けると、水筒からコップにお茶を注ぎ始めました。

 ……お墓の真中でお昼を食べるつもり、なのでしょう。


「さてと……あなたも食べる?」


「いいえ、大丈夫です。

 有難う御座います」


 あ、そう。と老婆は静かに頷くと、お弁当からお握りを1つ取り出して、もぐもぐと頬張ります。

 海苔が巻かれていないのは、入れ歯対策でしょうか。


「……それで、あなたは何の用?

 お墓参りにでも来たの?」


「いえ。

 ちょっとした、お知らせを持ってきたんですよ」


「お知らせ?」


「ええ」


私はもったいぶった様に頷くと、彼女へ答えるのでした。


「残念ながら良い知らせで。

 嬉しい事に悪い知らせです」

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