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ハーメルンの音楽祭  作者: NiO
103号室:身駅
19/46

7不思議その3:身駅

 時刻は23時過ぎ、場所は『身駅』。


 その、改札口。



「落ち着きなさい、行っちゃダメに決まっているでしょ!」


 必死に『おとな』の少女を羽交い絞めにする『こども』の老女。


「いい、もう、死んでもいい!

 パパ、ママぁ!!」


 少女は、気が動転しているのか、子供還りしているのか。

 


 男性陣が改札口に向かうと、そこから見えるのは、少女の見ていた風景。


 すなわち。

 ずっと遠くまで続く、金色の稲穂の田んぼでした。

 綺麗に区画整理された幻想的な風景の中で、村人と思われる人たちが作物の収穫をしています。


 村人の1人が田んぼの中から顔を上げます。

 5人に気付いたのでしょうか。

 楽しそうにこちらへ向かって大きく手を振っています。

 それは、どこかで見たような(・・・・・・・・・)、スーツを着た女性でした。

 緩いウェーブのかかった髪に、ばっちりメイク、高いヒールをはいています。

 キャリアウーマン風ですね。

 ……なんとなくですが。

 お酒を飲むと(・・・・・・)絡み上戸に(・・・・・)なりそうな人です(・・・・・・・・)


 その、あまりにも幸せそうな表情につられて。

 猫の少女は、身を捩って老女の制止を解こうとします。


「ちょっと、『おとな』ちゃん、落ち着いて!」


「う、う、ううう……いやだ、いやだ、いやだああああ!」


「……『おとな』さん、すみません!!」


 『かたりべ』の中年が、そう謝ると。

 少女の足を刈って地面に転ばせ、押さえつけました。


「ぐべっ」


 顔面からダイブした少女は、カエルのように一鳴きして沈黙しました。


「そ、それにしても、この風景は、流石にキますね……」


 先ほどの光景にはあまり関心をひかれなかった『かたりべ』の中年ですが。

 長閑な田園風景を前に涙目でそんな言葉をこぼしました。


「……このけしき、おかしいよ」


 ぼそり、と『ねずみ』の小児が呟きました。

 ……どうやら彼は、この景色にも特に心を動かされなかったようです。

 冷静に観察して。


「あそこで畑仕事をしている人たち。


 なんで半分くらい(・・・・・・・・)スーツをきているの(・・・・・・・・・)?」


 そして、発言しました。



「「「「……え?」」」」


「……このまえ、ようちえんの、いもほり遠足があったときに。

 新しく入った先生の何人かが、とってもオシャレして、ばっちりメイクしてきたけど。

 遠足がえりはみんな、オバケみたいになってたよ」


「「「「……」」」」


「あんなかっこうで、のうぎょうなんてできないよ」


「そ、そんなの、出来るかもしれないじゃ……」


それに(・・・)あの人たち(・・・・・)


 少女の言葉を、小児は打ち消して、続けます。



「……なんでみんな(・・・・・・)かげがないの(・・・・・・)?」


 小児の言葉に驚いた面々は、再度改札口の向こうに目を移します。


 ……畑の中から楽しそうに手を振る村人達。


 そのほとんどがスーツ姿で。




 ……そして、全員。



 影が(・・)ありませんでした(・・・・・・・・)



######################################


「本当にごめんなさい」


 猫の少女が、全員に向かって土下座します。

 影のない村人たちに、流石に我に返ったようです。 


「いえ、私の方こそ、無理やり地面に叩きつけてしまい、大変申し訳ありませんでした……」


 中年も、深々と頭を下げます。


「マッチ、あったよー!」


 小児がどこからか、マッチを発見してきたみたいです。


「……たぶん、これで『畑』の文字を作れば、クリアなん……だろう」


 早速、壮年がマッチ棒で先ほどの答えを作ろうとします。




 ……()



「……ちょっと、待って。

 もう少し、考えない?」



 その手を制したのは。


 ……『こども』の老女でした。



「皆の『5本』の答えだけど。

 なんだか、違う気がする……なぞなぞ、ぽくない、ていうか」


「……そうは言っても、これ以上少ない本数で『畑』の文字なんて、不可能……だぞ」


「それは、そうなんだけど……」


 老女は、ごにょごにょと呟きながら、なぞなぞを読み直しています。


「お婆ちゃん。

 制限時間は指定されていないとは言え、もしかしたらあるかもしれない状況で。


 そんな曖昧な理由でこれ以上回答を待つのは、どうかと思うけど」


 先ほど助けられた分際で、少女は老女に正論を投げつけます。


「曖昧、じゃないよ」


「……え?」


「私も、『おとな』ちゃんと一緒」



 老女は、静かに、告白しました。


「私も小さい頃。



 ……同じようなデスゲーム(・・・・・・・・・・)に巻き込まれたの(・・・・・・・・)

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