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ハーメルンの音楽祭  作者: NiO
102号室:スイム
12/46

雑談 その1

 時刻は20時前、場所は浦野ハイツ【101】号室。


 【103】号室・『ねずみ』の小児は、【201】号室・『こども』の老女にもたれ掛かって、うとうとしています。


 仕方ないことでしょう。

 突然のシチュエーションに。

 目の前に現れた死の恐怖。


 おまけに、恐らく普段はもう寝ているであろう時間帯。


「……『ねずみ』君。

 今は、取り敢えず寝ておきなさい」


 【101】号室の、『かたりべ』の中年はそう優しく切り出しましたが。


 『ねずみ』の小児は、首を振ります。


「ううん、大丈夫……。

 俺、強い子、だから」


 この言葉には、流石の猫の少女も、一瞬だけジワッと来たみたいです。


「……『ねずみ』くんは、本当に強くて、かっこいいねぇ。


 死んだ私の旦那にそっくりだよぉ」


 老女が、これではいけないと思ったのでしょう。

 小児に優しく撫でるように。

 そんな言葉を送りました。


「……あ、そうだ!」


 『こども』の老女は、ポケットを探ると、小さな金属の笛を取り出しました。


「これは私の旦那が持っていた、かっこいい人の証だよ。


 大事なものだけど、かっこいい『ねずみ』くんに、あげる」


「かっこいい、俺に?」


 老女の発言を聞いて、小児は笑顔を見せます。


「うん。

 だから、『ねずみ』くん、今は、寝ておいて。


 ……いざという時に、私たちを助けておくれよ」


「ね、寝ても大丈夫?


 寝ても、かっこいい?」


「寝ても、かっこいいよ。

 おばあちゃんが、保証する。


 老女の太鼓判を見た後、周りを見渡す小児。


「ええ、時間が来たら起こしますから」


「あ~、うん、良いんじゃないかな、問題ないよ」


 『かたりべ』の中年と、猫の少女も、そう言います。


「……これだけは、覚えてお……け」


 【102】号室の、『ふえふき』の壮年は、小児を圧迫するように、言葉を続けました。


「さっきの敵の名前は『紅鴉(べにがらす)』。

 今度同じことがあっても、決して近づ……くな」


「う、うん。

 分かった!」


 『ねずみ』の小児が笑顔で答えると。

 『ふえふき』の壮年は「ちッ……、調子が狂……うな……」などと独り語ちました。


##########################################


「ばあちゃんは、子供の扱いが上手だねぇ」


 猫の、『おとな』の少女が、『こども』の老女に声をかけます。

 小説のキャラクターとはいえ、可愛くて意地らしい小児に。

 可愛くて優しい老女。

 如何に現実主義な猫の少女とはいえ。

 少しだけ、興味が湧いたのでしょう。

 老女の膝の上には『ねずみ』の小児がすやすや寝息を立てていたので、小さな声で、ですが。


「まあね。

 伊達に子育て、孫育てはしていないしね。

 それにね、この子、私の孫に、ちょっとだけ似ているんだ」


 そう言って笑う老女。

 そういえば。

 【201】号室の老女は、お孫さんのボロボロの写真を大事に持っている、なんていう設定があったな。

 猫の少女はそんなことを思い出し、老女に聞いてみました。


「ばあちゃん、お孫さんの写真、あるなら見せてよ~」


「ん~?

 どうしても?


 仕方ないね~」


 全然仕方なくなさそうに。

 というかむしろ嬉しそうに、老女は猫の少女に写真を見せました。


「……ッ!!」


「どう?

 可愛いでしょ?


 自慢の孫なんだよ~」


 猫の少女は、驚いて目を見開きます。


 なぜなら(・・・・)



 だって(・・・)



 写真の小児は、どう見ても(・・・・・)



 ……今膝の上に寝ている、『ねずみ』の小児に。




 瓜二つ(・・・)、だったからです。




「ば、ばあちゃん、こ、これって……」


「みなさん、歓談中のところ申し訳ありませんが。


 そろそろ、21時です」


 猫の少女が疑問の声を上げようとしましたが。

 【101】号室の『かたりべ』の中年に邪魔されます。


「……ホントだ、もう9時、か。

 今度は、【102】号室、だね。


 次は、どんな怪異だろう」


「スイム……」


「え?」


 【102】号室の、『ふえふき』の壮年の発言を、猫の少女が思わず大きな大な声で聞き返してしまいました。


「……むにゃ……」


「あ、起きちゃった?


 もう少し寝てても、良いんだよ?」


 声が大きかったためか、小児が目を覚ましました。

 『こども』の老女が、気を使ってそんな言葉をかけますが。


「だ、だいじょぶ。


 俺は、強い子……」


 小児の戦う姿勢に。

 他のメンツは、少しだけ、戦闘意欲の高まりを見せたみたいです。


 皆が【102】号室の前へ行くと。

 タイミングよく、柱時計が21時の鐘を鳴らし。


 そして、扉が、緑色に染まります(・・・・・・・・)


「それでは。


 いきましょう、みなさん!」


 【101】号室の、『かたりべ』の中年の号令とともに。


 5人は、【102】号室の扉を、くぐるのでした。

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