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ハーメルンの音楽祭  作者: NiO
101号室:紅鴉
11/46

情報共有 その2

 時刻は19時過ぎ、場所は浦野ハイツ、101号室。


「う、う、うううううう……」


 唸っているのは、【103】号室の小児です。


 ガタガタ震えながら、【201】号室の老女に膝枕してもらっています。


「……『ねずみ』君……」


 【101】号室の中年が呼びかけますが、小児は答えません。


 そんな小児を、老女は優しく撫でた後。



「ほら。

 『ねずみ』くん。


 ちょっとだけ、落ち着いたでしょう?」


 優しく話しかけるのでした。


「そうしたら。

 まずは、助けてくれた『ふえふき』のお兄ちゃんに、ありがとうしなさい」


「う……う?」


 老女の言葉を、小児は聞いていました。

 そういえば、自分が助かったのは。

 『ふえふき』の……【102】号室の壮年が助けてくれたからだ。

 そう、思い出したのでしょう。


「あいさつ、できる?」


「う、うん……」


 よろよろ、と立ち上がった【103】号室の小児は、よろよろと立ち上がると、【102】号室の壮年へ向き合いました。



「おじちゃん、助けてくれて、ありがとうございます」


 健気に、ぺこりと頭を下げました。


「……そんなことは、どうでもいい……。

 ……小僧……の、渡された情報を教え……ろ」


 【102】号室の壮年は、小児の発言を完全に無視して、そう言いました。


「ちょ……ちょっと『ふえふき』さん……その言い方は無いんじゃないですか?」


 【101】号室の中年は、壮年に苦言を呈します。

 

 が。



「だ、大丈夫だよ、『かたりべ』のおじさん。

 みんなのメール、教えてもらってもいい?


 俺の貰った情報、みんなに送るね」


 【103】号室の小児は、びくびくしながらも。

 自分がもらった情報を、他の皆さんに送ります。



 ……しかし。



「……ん?」


「エラー?」



 送られてきたメールは。




 白紙、でした。




「え、あれ?

 もう一回、送るね」



 【103】号室の小児は、再度メールを送りますが。



「……エラー、ですね」


「あれ、あれ、あれ?


 ご、ごめんなさい、直接、見せるね」


 小児が見せる携帯の画面は。




 やはり、真っ白、でした。



「え、え。

 あ、えーと、俺のもらった情報は、※※※※が重要っていう……」


 小児は自分でその言葉を言おうとしますが。

 どうやら上手くいかなかったようです。


「……もういい、重要すぎて他に喋れないん……だろう」


 【102】号室の、『ふえふき』の壮年は、ため息をついて小児から離れます。

 重要すぎる内容は、周囲に話すことが、できないようです。


 そりゃあ(・・・・)そうでしょう(・・・・・・)


 何しろここは、謎解きの空間です。



「まあ、丁度いいですので、皆さんの手に入れた情報について、教えてもらっていいですか?


 あ、私の情報も、送りますね」



 【101】号室の、『かたりべ』の中年が送ってきたメールの内容は。


 『どこかの誰かの噂話』というタイトルのメールで。


 要は、この町の7不思議について、でした。


「これは送れるみたい、ですね」


「……情報によって、軽重があるん……だろう」


 【101】号室の中年と、【102】号室の壮年が、2人で話を進めています。


「……じゃあたぶん、私の情報は伝わらないかもしれないねぇ」


 【201】号室の老女はそう呟きながら、自身のメールを送りますが。


「白紙、ですか……」


「おい、どういった内容……なんだ」


「あんたたち全員の、本名の情報、だよ」


 全員が、びくりと肩を震わせます。


「安心していいよ、名前以外の、それ以上の情報は乗っていないから」


「まあ、良いでしょう。

 それで、『ふえふき』のお兄さんは、どんな情報なんですか?」


「……ハッ。


 いうつもりは、ない」


 ……何故か、『ふえふき』の壮年は、自身の情報を晒すことを拒否しました。


「え……ちょっと……」


「……俺……の情報は、別に知らなくてもクリアできる類の、どうでも良いもの……だ」


「そ、そんなの、聞いてみないと実際はわからないじゃないですか!」



 中年は声をあげますが。

 壮年は、自身の情報開示を頑なに拒んでいます。


 しばらく同じようなやり取りを繰り返した後。

 中年は、あきらめたようで、今度は猫の少女に声をかけました。


「それじゃあ。

 えーと……『おとな』のお姉さんは、どんな情報を手に入れたんですか?」


 おとなのお姉さんという言葉に少し恥じらいを感じたのか。

 ややためらいがちに、中年は声をかけますが。


「あ、あたしも同じ。


 クリアに関係ないし、黙秘で!」


 ニコニコ笑いながら、少女はそう言いました。


「ちょ……ちょっと、それは……!」


 中年は、驚きを含んだ声を上げます。



 まあ、猫の少女としては、当たり前のことです。


 自分以外は、全員小説の登場人物。


 こいつらみんな(・・・・・・・)実在の人物では(・・・・・・・)ないのです(・・・・・)


 そんな彼らに、『あなたたちは、小説の中の人間ですよ』と伝えたところで、混乱しか生まれません。


 そして同時に、猫の少女は冷たい目で現実を見ていました。



 【101】号室の、『かたりべ』の中年と。

 【102】号室の、『ふえふき』の壮年。


 彼らは、使える(・・・)

 ボチボチ体力もあるだろうし。

 頭もそこそこ回る。


 問題は、老女と小児だ。

 彼らは頭も体力もない。


 彼らは、絶体絶命の危機に今後陥る可能性が高いが。


 絶対に助けてはいけない。


 ただの小説の中の人物・・・・・・・・・・・()命なんてかける必要は(・・・・・・・・・・)ない(・・)……と。



 こうして、とりあえず個別に渡された情報の共有は終わったのです。


 1人のみが情報共有に成功し。


 2人は、共有不能。

 後の2人は、共有拒否、という形で。

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