60/88
久我山桔梗
久我山桔梗、男、魔法師。
紫月の兄だ。久我山流糸術は妹が継いでる。あちこちの訛りが酷いお袋に連れられて、各地を出歩いていた妹と違って、俺は一人で生活することが多かった。
まあ、凪ノ宮の厄介になっていたのも事実だ。
予兆、みたいなものはあった。
確信が得られない曖昧なものとして、確実に俺の中に存在していたことは確かだ。であればこそ、俺は人を遠ざけ、できるだけ一人でいるようにしていた――けれど、まあ、察しの悪い風華なんかは、その限りじゃなかったってわけだ。
咲真は、どうだったんだろう。あいつのことだ、見えていなかったんじゃないかとも思う。
はっきり言って、俺には鷺ノ宮事件発生直後から、俺という認識がもうなかった。どうなったのかもわからないくらいに、俺が俺じゃなくなっていた。
だからまあ――なんというか。
助かった。
それで良かったんだろうと、その時に俺のままだったら、そう思っていたに違いない。




