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「ちょっと待て、今左手で何か隠したろ」

「ちょっと待て、今左手で何か隠したろ」

 放課後、電気もついていない薄暗い教室で。扉が開いたままの出入り口の先に奴が見えた瞬間に隠したにも関わらず、なんて目ざとい。

「気のせいじゃない? 隠すって何のこと?」

 自分でもうさんくさいと思わずにはいられない笑みを顔に貼り付けて、体の位置を少しずらす。そうして左手で隠したものを、今度は自分の体で隠した。

「白々しいにもほどがある」

 奴は少し眉間に皺を寄せた。


 うむ。どうしたものか。


「お前、ちょいそこをどいてみ?」

 奴の手が肩に触れる。手に少し力を入れて、私の体をどかそうとするのがわかった。あくまでも、そう促すだけの手の力はたいして強くもなく。私は小さな抵抗を見せ、意地でも動かなかった。

 だって、見られたら恥ずかしいじゃないか。

 特に奴に見られるのが一番恥ずかしい。


 だから、なんとしてでも隠す。


「いや、あのね。何も隠してないから」

「じゃ、そこをどいてくれよ」

「いやいや、私は、今! ここに! 立っていたいのよ」

 どうしたら、奴から隠しきれるのか。内心で目まぐるしく考えていた。


「あ……あれ?」

 自分の思考に溺れている最中、奴の不思議そうな声が聞こえて。一瞬、油断してしまった。

 しかも奴は、その一瞬を見逃しはしなかった。

「あ」

 っと言う間に、彼に腕を引っ張られて、私の体は奴の腕の中。


「え?」

 なぜ私は彼に抱き込まれているのか。

 思考が停止し、なんとか隠そうとしていたものの存在がすっぽりと頭から抜け落ちた。


「ふーん、お前、かわいいことすんのな」

 奴のからかうような声に、奴の視線の先にあるものを思い出す。

「うぎゃぁあああ!!」

 黒板の右下に小さく描いた相合い傘。

 描いてみたかっただけ。描いて眺めて満足したら、消すつもりだった。

 奴に知られないように隠してきた気持ちを、ちょっと描いてみたくなっただけなのに。


「お前と俺の名前だな?」

 笑みを含んだその声に、恥ずかしさが全身を駆け巡った。

「俺もお前のこと、好きだよ」

 耳元でそっと囁かれた、今度は真剣な声に。


 もっかい、恋に落ちた。

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