赤い竜の勇者
ミソギ…
ごめんね、ミソギ……
「おい、いい加減起きろ、ミソギ」
「う……」
眠い。
夢を見ていたのか。
「ミソギーご飯冷めるわよ~」
「いまいくよ……母さん」
母さんの得意な卵料理の匂いがする。
「ライコウ、手伝って」
「おう」
ライコウさんは母さんの弟だ。
「痛っ…」
「大丈夫か?」
「あ、大丈夫少し切っただけだからすぐ治るわ」
母さんの言ったとおり、傷はすぐにふさがって元に戻る。
僕の傷はこんな風には治らない。
これは母さんとライコウさんだけが持っている力、なのだそうだ。
二人はクラレット族の最後の生き残りらしいが、
この時の僕にはすべてを理解することはできなかった。
「母さん、いつになったら僕の父さん帰ってくるの?」
母さんがいるんだから父さんがいる。
勉強したからそれぐらいの知識はある。
「ミソギ……」
「そろそろ、頃合いじゃないのか?」
ライコウはミソギの頭をなでる。
「ミソギ、よく聞きなさい。あなたは……」
「……二段構え、かよ」
どうやら夢中夢を見ていたらしい。
どっかのバカが覇王を復活させてから5年が経とうとしていた。
雑草隊、なんて組織は機能を失い、世界は混乱していた。
覇王はその名の通り世界を制覇しようと奔走している。
全てを手に入れた覇王が何をしたいのかは知らんが、
オレは残った雑草隊を集めて復興支援に走り回っていた。
覇王もバカじゃないらしく、利用できるものは利用していく方針らしく、
一面焼け野原、という事態は避けられているらしい。
悔しいが、ラーマの技術は覇王と相性がよいらしく、
通信手段、兵器とどんどんと進化を遂げていった。
「ミソギ様~」
「ミソギ隊長~」
背の高い女性と幼さの残る少女がこちらに向かってくる。
「御苦労様、マキ、アサミ」
背の高い女性がマキ、幼さ残る少女がアサミだ。
二人とも雑草隊の出で機能していたころは諜報活動のプロとして活躍していた。
「で、状況は?」
「芳しくないですね。このラーダ大陸はともかく、
ラーマ、ラージャは陥落したと考えていいでしょう」
「ガルシネア様も自国の防衛で動けないって」
「…母さんとライコウさんは?」
「レイニーゴット島の調査をするそうです」
「……今さらか?」
覇王復活の地の調査……気になるな。
「二人は状況把握に務めてくれ」
「ミソギ様はどうするんです?」
「会ってくる。母さんに」
レイニーゴット島……
昔と違って竜で入れるようにはなったが、
なんというか……禍々しい空気が漂っている気がする。
「……来たか」
ガレキの山に佇んでいる二人組はこちらに気づいたらしい。
「久しぶりです、母さん、ライコウさん」
「ミソギ、『あなた』はこれをどう見る?」
「残念、俺じゃなく『オレ』に用事か」
ミソギは一瞬目を伏せるが次の瞬間、赤い炎に包まれる。
炎が消えた時、そこにミソギの姿はなく、赤色の竜がそこにいた。
『……ラーマの技術、兵器の試作品、といったところか』
「俎上の時には見つかってなかったわよね、この技術』
『物質の創造者、ラーマの技術は危険だ。
本気でこの世界が死に絶えるかもしれん」
「そのための『あなた』でしょ」
『手厳しいな』
「母親は時に厳しく。定石だわ」
『違いない。……?』
「どうしたの?
『気のせいか。東に何かの波動を感じたのだが不死の民は二人しかいないはず。』
「いないはずの不死の民の波動……気に留めておくわ。ありがとう」
そう言い終える前に赤竜はミソギの姿に戻っていた。
「人使い、つーか竜使い荒いよ、母さん」
俺はミソギ=ガルロードという名はあるが、あくまでも仮の姿。
正体は邪竜デッドルビー。
どっかに封印されてたのを母さんたちが起こしたらしい。
しかもデッドルビーでいるときの俺の記憶はない。
だから母さんたちが何を話していたのか俺は知らない。
これは一部の人しか知らない。最近家庭を持った義理の弟にも
詳しくは話していない。
「……で、話はついたのか?」
「ラーマの技術が私以上のものを作りだしそうな勢い、ということぐらいかしらね」
「母さん以上の……大量破壊兵器ってことかよ」
「……覇王がそれを願えば、出来ちゃうかもね」
「させるかよ」
「ならまず東へ行きなさい。デットルビーが気になる事を言ってたから」
「東か……覇王の居城とは反対方向だな」
覇王は西……ラーマ大陸に居を構えているらしい。噂では、だが。
「近くまで送るわ。せっかくだし」
「ライコウさんが、だろ」
「まあそうぼやくな、ミソギよ」
言うが早いか、ライコウは竜に姿を変える。
「原理は俺と同じはずなのになぁ」
『さあ、行くぞ』
その頃……東のとある地。
「ここは……」
大きな杖を持った少女が佇んでいた。
「会わなきゃ『あの人』に」
少女は杖を背負うとその場をかけ出した。
役者は揃った。
今こそすべて話す時が来た。
終わりの始まりの物語を。