表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラーニア異聞伝  作者: 紗雅巳 瞭
4/9

赤き邪竜

 ラーダ大陸でキグナスに次いで大きいといわれる国、クロイル。

 その王都クロイルの酒場のカウンターで、エヴァリアたちはバーツに会っていた。


「この国の鬼門は王城の宝物庫に安置されて大事にされてます。今のところ外法使いも現れてません」

「じゃあこの国ではやることはないわね」


 不機嫌そうな顔をするエヴァリアとは対照にジンは無表情である。

 その様子を気にもとめず、バーツは話を続けた。


「そう言いたい所ですが、

クロイル王は隣国との国境で暴れている邪竜を退治した者に鬼門を譲る、

と御触れが出ているようです」


 邪竜、という言葉にジンの表情が変わった。


「……その邪竜について詳しく聞かせろ」

「詳しくって……ただの邪竜ですよ。まあ普通の竜と違って赤いそうですが」


 ジンの表情が一層複雑になる。


「珍しいわね、ジンが魔物退治に躊躇するなんて」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 からかい気味に声をかけても心ここにあらずなのか、

ジンは腕を組んであさっての方向を見ている。

 しばらくその様子が続いたかと思うと、


「お前のところの隊長は元気か」


 とバーツの方を向いた。


「元気ですけど、それが何か?」

「……ならいい」


 ジンはグラスに入ってた酒を一気に飲み干した。


「今日のジンさんちょっと変じゃないですか」


 宿屋への帰り道、バーツが小声でエヴァリアに声をかけた。

 当のジンはというと、

 若干ふらつきながら2人よりも先を歩いている。

 そんなに酒に強くもないくせに一気飲みなんかするからだ。


「ジンが変なのは今に始まったことじゃないと思うけど」

「でもおかしいですよ、うちの隊長の調子を聞くなんて・・・」


 確かに、他人に興味なさそうな彼にしては珍しいことではあるが。


「それはそうと、例の件考えてくれました?」


 バーツも抜け目がない。自然に本題を突きつけてくる。


「この前も言ったはずよ、そのつもりはないと」

「そうは言ってもですね……ガルネシア様もこれ以上は待てないと……」

「……じゃあ爺さんに伝えておくのね、『自分のことは自分で始末をつける』って」


 そういって、エヴァリアはジンの腕をつかんで足早に宿屋に入っていった。


「やっぱり僕には重荷ですよ……隊長……ガルネシア様……」


 バーツは空を見上げた。





「赤い邪竜?ここでは見ないなぁ」

「誰かが倒しちまったって話も聞かないし、いることはいるんだろうけど……」

「邪竜? ああ、あの竜か。別に近づかなければうちの街に悪さしないし」


 国境に一番近い街で、エヴァリアたちは情報収集をしていた。


「……なんか緊張感ないわね、バーツさんの話と違うし」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ」


 ジンは生返事で空を見上げている。

 上空ではキャメルが邪竜の気配を探っていた。

 種類は違えど、同じ竜なので、こういう芸当もできるのだ。


「……なんか訳あり?この前邪竜に過敏に反応してたけど」


 エヴァリアの質問にジンは、


「……大した事じゃない」

 

 と一度はエヴァリアの方を向いたが、また上空を見上げた。


「十分訳ありに見えるけど……」


 エヴァリアは小声で愚痴ると、情報収集を再開した。



「しっかし、聞けば聞くほど話が違うなんて」


 エヴァリアは首をかしげていた。どう考えてもバーツの話とは様子が違う。


「これはもう一度バーツさんか雑草隊に話を聞くべきかしら……」



キュウ〜キュウ〜



 そのとき、キャメルが慌てるように鳴いた。


 空を見上げると、キャメルの2倍ぐらい大きな赤い竜が姿を現した。

 ジンが笛を吹くとキャメルは低く高度を落とし、ジンを乗せてふたたび上空へと

 飛んでいった。


「竜には竜騎士を。まあセオリーだけど・・・早い話おいていかれたわけね」


 エヴァリアは拗ねるようにキャメルたちのあとを追った。

 邪竜はキャメルの幾度かの体当たりにもビクともしなかった。

 しかし、邪竜の方から攻撃してくる様子もない。


 ……やはりお前なのか?


 ジンはキャメルに乗せていた荷物から伸縮式の槍を取り出し、身構えた。


「……天かける電撃……『雷槍らいそう』」


 ジンたちのいる真上の空に雷雲が発生し、ジンの槍先に雷が落ちた。

 そのエネルギーは槍先で渦を巻くように帯電している。


「・・・・・・・・・・・・・」


 しかし、その雷をジンは放つことができず、槍は元に戻ってしまった。


「ジンさ〜ん隊長から伝言です〜」


 高台からバーツが叫んでいた。隣りにはエヴァリアの姿もある。


「そいつはクロイルが御触れを出してる邪竜じゃないそうです〜」


 ジンはキャメルを高台の方へ向けた。


「その邪竜は外法で変化はしたけど、ちゃんと意思があるそうよ」

「暴れていた邪竜は他の特任が倒したそうです。さっきそう伝令が着ました」


 バーツは何度も頭を下げた。


「……隊長からの伝言というのは? 」

「あ、はい。【俺は大丈夫だから、邪竜に一喜一憂するのは止めろ】だそうです。

……なんか僕にはよくわからないんですけど」

 バーツの言葉に反応したのかしないのか、

赤竜はこちらをじっと見つめた後、飛び立っていった。


「……そうか……」


 ジンがキャメルの頭をなでると、そのまま街の外れへ飛んでいってしまった。


「あ、何? また置いてけぼりなのぉ〜」


 エヴァリアは不機嫌そうにため息をついた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ