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ラーニア異聞伝  作者: 紗雅巳 瞭
3/9

うごめく陰謀

「ひゃ〜絶景ね〜」


 エヴァリアは子供のようにはしゃいでいる。

 ここはキャメルの背の上。今2人はエイラン地方の上空にいる。


「・・・あまり身を乗り出すな」


 ジンはいたって冷静である。

 まあ、竜騎士はいつでも竜に乗っているから当たり前だろう。


「あ、見えてきた。ジン、あそこで降ろして」


 エヴァリアの指差した方向には湖があり、その中央に大きな屋敷が建っていた。

 バーツの情報によると、この屋敷の主人が鬼門を持っているのだという。


「なんでわざわざあんな所に住んでるのかな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ジンは何も応えずキャメルを湖の屋敷に向かわせた。



「こんな所までよくいらっしゃいましたね」


 屋敷の主人は快く2人を屋敷の中に招きいれてくれた。

 彼はラグドリフといって貿易で成功し、儲けた巨万の富で湖を含むこの一体を買い取ったのだという。


「いやぁ、今は商売はすべて部下に任せてここで指示だけ出しているだけなんですがね」

「はぁ・・・」


 その後も、


「これは東の海で手に入れた黄金像なんです」

「これなんて見てくださいよ、南の島の秘宝・・・」


などと延々と彼のコレクション自慢が続いた。

 機嫌を損ねてはいけない、とエヴァリアは当たり障りのないように受け答えていた。


「・・・そうだ、確かラグドリフさんは鬼門をお持ちなんですよね」


 あくまで自然にエヴァリアは本題を投げかけた。

 これ以上自慢話に付き合っていたら何日かかるかわからない。


「おお、そうだった。君らは鬼門を見に来たのだったな」


 ラグドリフはポンと手をたたくと部屋にあった木箱から黒い水晶玉を取り出した。


「よく見せてもらっていいですか?」


 エヴァリアは水晶玉を覗き込んだ。

 玉の中では黒い霧がうごめいている。・・・鬼門に間違いない。


「この鬼門、譲ってもらうわけには行きませんか」

「いくら特任さんの頼みでも、タダというわけにはいきませんな」


 さすがに商人。簡単にはいかないようだ。


「それにこの鬼門、実はもう買い手がついているんですよ。10万ニアで」

「・・・その倍払う」


 驚いてエヴァリアはジンの方を見る。

 一介の特任に20万ニアなんて大金払えるはずない。


「ならばこちらは25万ニア払いましょう」


 いつの間にいたのか、2人の背後に黒いローブ姿の男が立っていた。

 おそらくこの部屋の窓から入ってきたのだろう。


「外法使い・・・!」


 エヴァリアは剣に手をかけ、ジンも手に持っていた槍を構える。


「ちょ、ちょっとこんな所で物騒なことしないでくださいよ」


 ラグドリフはあわてて止めに入った。


「ここは平和的にお金で・・・」

「こいつらにそういう理屈は通らないわ」

「心外ですね、血も涙もないように言われるのは」


 クククッと不気味に笑うと、外法使いはラグドリフににじり寄った。


「では平和的に25万ニアで手を打ちませんか?」

「騙されないで!」


 必死で止めに入ったエヴァリアを外法使いは突き飛ばした。


「外野は黙っていてもらいましょうか。・・・さあ、どうです?」

「・・・わ、わかった・・・それで手を打とう」


 ラグドリフは外法使いから金を受け取ると、鬼門を渡した。


「確かに受け取りましたよ。では、ごきげんよう」


 外法使いは窓から出て行こうとして、足を止めた。


「そうそう、忘れてましたがこの湖には魔物がいるようですからお気をつけて」

「は、話が違うじゃないか」


 ラグドリフは外法使いに詰め寄る。


「だから25万ニア出したでしょう。だから『私は』何もしませんよ」


 外法使いはそう言い残して窓から飛び降りた。


「そ、そんな・・・こんな孤立したところでは魔物の餌食ではないか・・・」


 落胆するラグドリフを見て、エヴァリアはため息をついた。


「だから止めたのに・・・」

「頼む。いくらでも払う。魔物を、魔物を退治してくれ・・・」


 自業自得、といいたいところだが、ここはジンの意見も聞いた方がいいだろう。


「・・・どうする?」

「このままにはしておけないだろう」


 ジンは首にかけている笛を吹いた。

 この笛は竜角笛といって、竜騎士が遠くにいる自分の竜を呼ぶときに使う。

常人には聞き分けられないが、その音色は個々によって違うらしい。


「ラグドリフさん、この屋敷に地下室とかあります?」

「は、はい」

「じゃあ、そこに隠れててください。そこが一番安全だと思うので」

「で、でも・・・」


 心配そうに見上げるラグドリフにエヴァリアは微笑むと、窓の外で待っているキャメルの背に飛び乗った。



湖は渦を巻いていた。

 そしてだんだんとその渦はひとつに集まり、その中から蛙のような魔物が姿を現した。

 魔物のしるしである角が生え、通常の蛙の10倍以上の大きさはある。


「・・・わたしああいうの苦手かも」


 エヴァリアは気味悪そうに顔をしかめた。

 ジンはいたって冷静に懐にしまっていたロッドを取り出す。


・・・『氷河の洗礼』・・・


 大蛙を氷が包む。

 しかし、渦を巻いた湖が表面の氷を剥ぎ取り、たいした時間も経たずに元に戻ってしまった。

 ジンはもう一度呪文を唱えたが、やはり結果は同じだった。


「どうしよう・・・ここじゃ魔法剣は使いにくいし・・・かといって魔法は・・・」


 と言いかけて、エヴァリアは言葉を詰まらせた。

 ジンはそれを気にすることなく、


「・・・風の奥義」


 とボソリとつぶやいた。


「風の・・・って、『鎌鼬ヴァキューム』じゃ逆効果なんじゃ・・・」


 放ったところですぐに渦に飲まれるのがおちだ。

 一体ジンは何を考えているのだろう。


「数秒持てばいい。早くしろ」

「わ、わかった・・・」


 エヴァリアはジンの肩を支えにして、剣を構えた。

 やはり竜の上では安定感に欠けるが、どうにかいけそうだ。


・・・『鎌鼬』・・・


 剣の周りに『風牙』とはけた違いに風が渦を巻きはじめた。

 ある程度溜め込んで風の渦を大きくすると、それを思いっきり湖に向かって剣を振り下ろした。


 大蛙を中心に湖に大きな風の渦が湖に大穴をあけた。 

 それと同時にジンが呪文を唱える。


・・・凍れる刃よ、『氷槍アイスランス


 湖の一部が氷の柱をつくり、上空へと浮かび上がると風の渦のちょうど中心に向かって突き刺さる。

 

 グキャァーと大蛙はけたたましい声をあげた。

 湖は大蛙を飲み込むと、何事もなかったように静けさを取り戻していった。


「・・・やったの?」


 ジンはしばらく黙って湖を見つめていたが、キャメルを屋敷に向かわせているところを見ると、

 一応危機は去ったようだ。





 屋敷の中は水浸しになっていた。

 おそらく湖に大穴をあけたときにえぐられた水が屋敷に入ったのだろう。


「も、もう大丈夫なんですか・・・」


 ラグドリフはコレクションの一部を握り締めて震えていた。

 地下室へ行くよりも自分のお宝が大事だったようだ。


「とりあえず湖の魔物は片付きました」


 その言葉に安心したのか、ラグドリフは胸をなでおろした。


「じゃ、じゃあ早くあなた方も出て行ってください」

「出てけ・・・って礼金は・・・」


 そう言いかけたエヴァリアをラグドリフは睨みつけた。


「私のコレクションをこんなにして金まで獲るつもりですか」

「それは・・・でもさっきいくらでも礼金を払うって・・・」

「・・・行くぞ」


 エヴァリアの腕をジンは引っ張った。


「ちょ、ちょっと・・・」

「・・・もうここに用事はない」

「それはそうだけど・・・」


 腑には落ちないが、このままでは屋敷の弁償代を払わされかねない。

 ここは素直にジンに従うことにした。





 2人がラグドリフの屋敷をあとにした頃・・・

 湖に魔物を放った外法使いは古い教会跡へと入っていった。


紫玉シギョク様、またひとつ鬼門が手に入りましてございます」


 教会の奥にいた白いローブ男に外法使いは跪き、鬼門を差し出した。

 紫玉と呼ばれたその男は鬼門を受け取ると、今まで奪ってきた鬼門が集まった台座に

 それを加えた。


「特任どもの動きはどうだ」

「相変わらず我々の崇高な使命の邪魔を」

「ふん、おおかたキグナスのボケ老人めが手引きしているのだろう」


 紫玉は台座を眺めながら悦に入っている。


「しかし、先ほどの特任は見かけない顔でした。若い女魔法剣士と竜騎士のようでしたが」


「女魔法剣士・・・名はなんという」


 紫玉が急に真剣な顔になる。


「いえ、そこまでは・・・何なら調べてまいりますが」

「・・・いや、その必要はない」


 そう言ってまた紫玉は台座の方を向いた。


「まさか・・・な」


 ローブからわずかに見える紫玉の目はその名の通り紫色に光っていた。


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