再会と旅の始まり
超ライフワークをさらしてみる。
かなり長編なので、ちまちま追加していきます。
「魔物だぁ!」
頭から二本の角を生やし、大型の狼に似た魔物の集団が
不気味な雄叫びをあげながら村の周りを取り囲んでいる。
四方を山に囲まれているこの村では、
このようにたびたび魔物が現れて村の資金源である作物を荒らし、
家畜たちは姿の見えない外法使いによって魔物へと姿を変えられていた。
警戒用の鐘がなり、人々は避難用に作ったシェルターへと逃げ込んでいく。
襲われることに慣れてしまっているのか、彼らは特に混乱する様子もない。
「おい、早く避難しろよ」
鐘をついていた男が、立ち止まっていた茶髪の剣士姿の女に声をかけた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
しかし、彼女は動こうとはしない。
ただ魔物の集団をじっと見つめている。
「さ、先に行くからな」
男は魔物に怯えながら足早に去っていった。
「……さて、片付けますか」
そうつぶやくと、女は腰に差していた剣を抜いた。
普通の剣とは違い、刃には古代文字のようなものが彫りこまれている。
これは魔法剣士が持つ魔法剣の特徴で、
彼らは魔法力というこの世界の魔法を使うための精神エネルギーをこの剣に注ぎ込み、
技を使うのだ。
『風牙』
彼女が剣を振り下ろすと、突然無数の竜巻が魔物たちに向かって放たれた。
その攻撃で魔物たちの大半は吹き飛ばされ、
竜巻による真空の刃でかなりの深手を負っている。
しかし、残った数匹が彼女めがけて飛びかかってきた。
『陽炎』
すぐさま技を繰り出す。
剣のから炎が飛び出し、魔物たちは一瞬で灰になった。
「いい加減、出てきたらどう。……そこにいるんでしょ」
近くの建物で様子を見ていた男は一瞬ビクリとした。
しかし、彼ではなく女は空を睨みつけている。
「フッ・・・まさか私のいる位置がわかる人がいたとは思いませんでしたよ」
空が一瞬ゆがみ、黒いローブ姿の男が現れた。
彼の持っているロッドは外法使い特有の深緑色をしている。
「あれだけの数だもの、近くにいないと思う方がおかしいわよ」
魔物自体に意思はない。
外法使いが自分の魔法力で意のままに操るのだ。
「……名を聞いておきましょうか」
「そういう時はそっちから名乗るんじゃないの?」
「それもそうですね」
黒ローブの男は女の前に降り立つと不気味に笑う。
「雷撃のゼファンと申します。あなたは?」
「エヴァリア。エヴァリア=ラキニエル。……魔物退治屋よ」
不機嫌そうに名乗ると、エヴァリアは剣先をゼファンの目の前に突きつけた。
「退きなさい。そうすれば命まではとらないわ」
「ほう……」
ゼファンはまた不気味な笑い声を上げた。
「あの程度の技で私が臆するとでも思っているのですか」
「……退く気はないわけね」
剣を握る手に力が入る。
「無論です、『超電撃』!」
ゼファンがロッドをかざすと、突然空に暗雲が立ち込め、
けたたましい音とともに白い閃光が地面めがけて無数に降ってきた。
その衝撃で地面が高い煙を上げ、村の建物が崩れていく。
「ふう・・・」
様子を見ていた男は防御魔法で自分の安全を確保していた。
しかし、ここからでは煙が濃くてエヴァリアの安否は確認できない。
「所詮、我々に歯向かおうというのがすべての間違いなのです」
ゼファンはすでに空へと逃げていた。
「間違っているのは、あなたたちの方よ」
「なっ……」
一瞬にして煙が晴れ、そこには怪我ひとつ負っていないエヴァリアの姿があった。
「どうしてだ、あの電撃を食らって無傷でいられるはずが・・・」
女の剣は銀色に光り、その周りを無数の光の筋が走っている。
さっきの電撃をこの剣が受け止め、吸収したのだ。
「まさか……魔法剣にそんな力などないはず……」
「この剣はちょっと特別なの」
エヴァリアが剣を振ると包んでいた光が放たれ、ゼファンに直撃した。
「くっ……」
ゼファンは衝撃をまともに喰らって体制を崩したが、何とか空を飛んでいる。
「まだ退く気にならない?」
「…………」
ゼファンはエヴァリアを睨みつけると、ふらふらと山の方へと消えていった。
「……とりあえず攻撃対象はかえられたみたいね」
エヴァリアは剣を鞘に納めた。
「いやあ、流石ですね」
背後からパチパチと手をたたきながら、
近くで見ていた男はエヴァリアに近寄っていった。
「特任が何の用?ずっと見てたみたいだけど」
彼の鎧には青い竜の絵が描かれている。
これは彼が特任と呼ばれる者であることを表す。
特任とは、特別権限を持ったこの世界の秩序を守る部隊のことだ。
……という説明では仰々しいが、
平たく言えば警察と裁判官のいいとこ取りしたもの、
と思ってくれればいい。
この村に来る数日前から、誰かが自分を見張っているのには気づいていた。
悪意は感じられなかったので、そのまま知らぬ振りを通していたのだが。
「気配消すのは得意だったんですけど・・・」
そう言って、バーツと名乗った男は苦笑する。
「それだけの力を持ちながら、どうして特任にならないんです?」
「いろいろ事情があるのよ・・・それにあの爺さん苦手だし」
エヴァリアはうんざりした表情で答えた。
ガルネシアはエヴァリアの名付け親であり、遠い親戚でもある。
とはいえ、ラーニアの魔法使いたちの育成に努め、
一国の王である彼を爺さん呼ばわりするのは彼女くらいのものである。
「そんな無駄話がしたいわけじゃないんでしょ」
参りましたね、とバーツは頭をかきながら笑う。
「南にあるエイランの宿屋でキグナスの竜騎士団長と合流するはずだったのですが、
村がこんな状態でしょう。だから代わりにこれを渡してくれないかと思ったんですよ」
そう言って彼が差し出したのは、直径10cmほどの黒い水晶玉だった。
「これは?」
「鬼門です。さっきの外法使いが落としたのを見つけました」
古の王のひとり、転王の使用した58の鬼門。
戦争終結のために、その元凶となった者を封印するのに使われ、
それぞれの国の王たちがそれを守っている。
……しかし、現在では混乱に乗じて窃盗団などに盗まれ、高値で外法使いたちと取引されることも少なくはない。
話には何度か聞いていたが、実物を見るのは初めてだ。
「そんな大事なものをわたしなんかに預けていいの?」
「あなたがこれを外法使いに渡すわけがないでしょう。キグナス傭兵時代の話はいろいろ聞いていますから」
エヴァリアは怪訝そうな顔をする。
この男……ただの特任ではない。
ならば余計な波風は立てないほうがよさそうだ。
エヴァリアは鬼門を受け取る。
「・・・でも、団長がどうしてエイランへ?」
東方のキグナスからエイランまでは、最速の移動手段である竜でも5日はかかる。
自国を守る竜騎士団、しかもその上に立つ人間が国を離れていてよいのだろうか。
「会ってみればわかりますよ、多分」
悪意のない笑顔がどこか胡散臭い。
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エイランの都に着くと、エヴァリアは都の中心にある宿屋へ向かった。
「キグナスの竜騎士団長? ……ああ、それならあの部屋だよ」
宿屋の女主人はそう言って、2階の一室を指した。
エヴァリアは一礼すると、階段を昇り部屋のドアをノックした。
「……誰だ」
ドアの向こうから無愛想な若い男の声がした。
……どうやらしばらくキグナスに行かない間に団長が変わったらしい。
エヴァリアがキグナスにいた頃は老人だった。
「バーツって人から届け物を預かってるの」
エヴァリアの声を聞いたとたん、部屋の中で何かが落ちる音がした。
「……宿屋の主人に預けてくれ」
男はまた無愛想にそう言い放つ。
「そこにいるなら開けてくれればいいじゃない」
警戒でもしているのだろうか。
届け物の内容が内容だけに人に預けるわけにもいかない。
「わたしはエヴァリア=ラキニエル。怪しいものじゃないわ」
しかし、向こうからの返事は返ってこなかった。
どうやら開けてくれる気はないらしい。
「……やな感じ」
エヴァリアはふてくされた表情で部屋の前を後にした。
「わざわざ来てくれたっていうのに、いやな奴だねぇ」
カウンターから様子を見ていた女主人が声をかけてきた。
「あの兄ちゃん、食事以外は一歩も部屋出ないんだよ。いっつも機嫌悪そうにしててさぁ。
キグナスのエリートって、みんなあんな感じなのかねぇ」
「エリート……まあ、そういう意識はあるかも」
一国の騎士団というのは下級兵士たちがあこがれ、目指すものである。
キグナスは世界58カ国の王が一同に会する会議が行われる国でもあるので、
騎士団の中でもこの国にしか組織されていない竜騎士団の採用試験はかなりの難関なのだ。
「そういえば、あんた今日の宿は?」
「いえ……すぐにエイランを出るつもりなので……」
エヴァリアはエイランの都から北西にあるエルロイという町へ向かう予定なのだ。
ガルネシアから手紙を預かっていると連絡があり、
彼女はそれを受け取りに行く途中だったのだ。
バーツから頼みごとをされなければすぐに向かえたのだが。
「急ぐ旅なのかい? 安くするから泊まっていきなよ」
「気持ちはうれしいですけど、エルロイで知り合いが待っているので」
鬼門を入れた袋を預けて宿屋を出ると、エヴァリアは都の出入り口である門へ向かった。
「…………見つけましたよ」
怪しげな人影が自分を追っていることにも気づかないぐらい急いで。
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門の前の広場は物々しい雰囲気に包まれていた。
さっきまでは自由に出入りできたのだが、今は兵士たちが門の周りの守りを固め、
人々の通行を制限している。
「何かあったんですか?」
エヴァリアは兵士の一人に声をかけた
「街道に魔物の集団が現れて、こっちに向かっているらしい」
「魔物・・・」
「特任が到着する明朝まで、ここは封鎖する」
「急いでるの。通してもらえないかしら」
「例外は認められん。今日は宿をとるといい。今は有事割引になっている」
兵士は冷たく言い放つと自分の持ち場に戻っていった。
「直属の人たちってどうしてこう頭固いかなぁ」
傭兵をやめたのはそのあたりが原因だった。
キグナスの傭兵は直属の兵士がリーダーとなり3〜4人でチームを組む。
エヴァリアは活躍はしても意見の相違から兵士たちともめる事が多く、
このままギスギスした状態を続けるのも面倒だったので、
3年前に辞表をたたきつけたのだ。
「強行突破して、ここの守りを崩すわけにもいかないし・・・」
かといって、ガルネシアの遠縁というコネは使いたくない。
エヴァリアが何かよい方法がないかと思案を始めたときである。
ドーンと大きな音を立てながら、雷がエヴァリアに向かって落ちた。
「あっぶないわねぇー」
威力が弱くとっさに剣で受け止めたため、周りへの被害は最小限で済んだ。
「鬼門を取り返しに来たのかしら。……ゼファンさんだっけ?」
エヴァリアが見上げた先には、先日の外法使い……ゼファンがいた。
「今日は手加減しませんよ」
ゼファンは間髪なしに雷を放つ。
今回はあの村と違って人が避難していない。
下手な反撃は都の人々を巻き込みかねない。
エヴァリアは攻撃を受け止めながら、
少しでも人のいないところへ逃げるので精一杯だった。
「いつまで逃げ回るんです」
ゼファンは苛立ちながらロッドを振り上げる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
エヴァリアの足元が勢いよくせり上がった。
数秒もしないうちに地上がとても遠くなる。
「しまった……」
揺れた衝撃で剣を落としてしまった。
取りにいこうにもこの高さでは飛び降りるのも難しい。
『超電撃』
避けようもない雷がエヴァリアに襲いかかろうとしたそのとき、空から竜が現れた。
エヴァリアは迷うことなく竜に飛び乗る。
「危なかった・・・」
さっきまで立っていた場所は跡形もなく崩れ去っていた。
「ありがと。助かったわキャメル」
エヴァリアは竜の背を撫でた。キャメルと呼ばれた竜はうれしそうにキュゥと鳴く。
「・・・反撃できないことには変わりないでしょう」
ゼファンは顔を引きつらせながら再びロッドに力を込める。
「なにっ・・・!」
しかし雷を作り出す前に氷の塊に手を弾かれ、ロッドは地上へと落ちていく。
「・・・あなた、運が悪かったわね」
エヴァリアは地上にいる人影を確認すると、ゼファンの方に向き直る。
「魔法剣の奥義をすべて会得した男に出くわすなんて」
魔法剣の技は魔法の属性と同じ6種類に分類され、
それぞれの属性の技の中でも特に威力の高い技は奥義と呼ばれる。
その威力は『風牙』や『陽炎』などより遥かに大きい。
幼少の頃から修行していたエヴァリアですら、
6つある奥義のうち2つしか会得できなかったほど、その難度は高い。
「彼は敵に容赦ないわ。下手すれば死ぬわよ」
「そんな脅し怖くありませんよ」
ゼファンはゆっくりと地上に向かっていく。
「……あんたのご主人様は手加減すると思う?」
エヴァリアの質問にキャメルはキュー、と困ったように一声鳴いた。
「うっ・・・」
地上に着くと、ゼファンは金髪の若い男に痛めつけられていた。
男の手にはエヴァリアが落とした剣が握られている。
「あ〜あ、だから言ったのに」
エヴァリアはキャメルから降り、憐れむように言った。
この男の名はジン=ランスロッド。キグナスの竜騎士団に所属している。
彼とは魔法剣の修行の時からの付き合いで、
エヴァリアの傭兵時代のチームリーダーだったことも何度かある。
『雹』
ジンは冷徹に剣を振り下ろす。
「ウッ・・・」
無数の氷の塊が体を打ちのめし、ゼファンは地に倒れる。
彼の周り以外に被害を与えてないのはさすがだ。エヴァリアではこうはいかない。
「私が倒れても・・・他の者が・・・おまえたちを・・・」
なけなしの力でそう言い残すと、ゼファンは意識を失った。
「・・・・・・・・・・・」
ジンはゼファンを睨みつけると、剣をエヴァリアに返す。
「とどめは刺さないの?」
いつもの彼ならば、迷わず敵に剣を突き立てている。
「放っておいてもいずれ死ぬ」
無愛想にそう言うと、ジンは足早に宿屋の方へ歩いていく。
「・・・ジン、もしかして昇進したの?」
思い返してみれば、宿屋での竜騎士団長の声はジンに似ていた。
「冷たいなぁ、そうならそうって言ってくれればいいのに。夢だったものね」
エヴァリアはジンに追いつくと背中をポンポンと叩いた。
「おまえにいちいち報告する義務はない」
表情には出さないが、ジンの口調はどことなく照れているようだった。
「でも、団長が自分の国を離れてていいの?」
「ここで待機命令が出ている」
「待機命令って……正規軍は自国での防衛活動が基本でしょ」
キグナス……いや、ガルネシアは何を考えているのか。
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「やあ、遅かったね。お二人さん」
「まちくたびれましたぁ〜」
宿屋に入ると、カウンターの前で手を振っている2人組がいた。
「アリナ……それに……」
そこにいるのは紛れもなくエルロイで待ち合わせをしていた小さな少女、アリナだった。
その隣にはバーツもいる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ジンは状況がわからない苛立ちをぶつけるかのように2人を睨み付ける。
「こわいですぅ……」
怯えた表情でアリナがエヴァリアにしがみつく。
アリナは戦渦に巻き込まれていた所をエヴァリアに助けられ、
その後若干9歳で特任になった天才児である。
実力があるとはいえ、エヴァリアにとってはただの甘えん坊の子供にしか見えない。
「アリナ、わかるように説明してくれるかな」
エヴァリアはアリナの頭を撫でながら優しい口調で聞いた。
「あのね、バーツのおじ……おにいちゃんがね、
エヴァリアさまがこられないからってむかえにきたの〜」
助けてもらった恩を感じているらしく、アリナはエヴァリアを様付けで呼ぶ。
「あの村の復興処理が早く済んだので先回りしたんですよ。
エイランに行くより近かったので」
ずっと見張られていたのだ。
エヴァリアがエルロイへ行く予定だったことを知っていてもおかしくはない。
「それでね、それでね、これガルネシアさまからのおてがみなの〜」
アリナは懐から二つ折りの紙を取り出すと、エヴァリアに渡した。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
エヴァリアは紙に書かれた文面を読みながら、苦い表情になる。
「……アリナ、これ手紙じゃなくて命令書だよ」
「めいれいしょ〜?おてがみだっていってたよぉ?」
アリナは不思議そうな顔をしている。
「バーツさん、ちょっと」
エヴァリアはバーツの腕を引っ張ってジンから少し離れ、背を向けた。
「キグナスで何かあったの?」
ジンに聞こえないようにバーツに命令書を見せ小声でささやく。
「僕も噂でしか聞いたことないですけど・・・正規軍内部で疎まれてたみたいですよ。
生意気だとか、態度が気にくわないとか・・・」
「……何をコソコソやっている」
ジンが不機嫌そうにこちらを睨んでいる。
「ハハハ……」
言葉が見つからず、エヴァリアは笑ってごまかした。
「エヴァリアさまぁ、おてがみかして〜」
「えっ・・・あっ」
アリナはエヴァリアから命令書を奪っておそるおそるジンに渡すと、
エヴァリアの後ろに隠れた。
「・・・・・・・・・・・なんだと!」
文面を見たジンは怒声をあげた。
"エヴァリア=ラキニエル、ジン=ランスロッド以上2名に鬼門探索・守護を命ず。
なお、両名には特任の同等の権限を与える"
事実上団長のクビである。
竜騎士団に入れたのはいいが、ずっと傭兵のチームリーダーばかりさせられていた彼が
苦労して掴んだ団長のイスだったのだ。怒るのは無理もない。
「爺さんは他に何か言ってなかった?」
アリナは首を横に振る。
「あの〜いいんですか、あの人放っておいて」
バーツが指差したのは命令書を破り捨て、
周りの物にあたりちらしているジンの姿だった。
「命令書は絶対じゃないもの。不服なら断ることができるわ」
できるなら自分だって断りたい。
しかし、エヴァリアには断れない事情があるのだ。
「わたしはあなたたちの目的の方が知りたいわ」
エヴァリアは上目遣いでバーツを見上げた。
「別に目的なんて……そんな……」
バーツは口を濁していたが目が泳いでいる。
「爺さんの本当の目的、って方が正しいかしら。
おそらくアリナには言えない情報を持ってきたってところでしょう」
「・・・そこまで気づいてたんですか」
バーツの顔つきが真剣なものに変わる。
「……半年が限界だそうです」
「……意外と早いわね」
エヴァリアは苦笑する。これは個人的なことで、鬼門を集める期限のことではない。
「ジンを連れてきたのはなぜ? 鬼門探索ならわたし一人でもいいと思うけど」
「そこまでは知りませんよ。僕だって隊長に頼まれただけですから」
「・・・雑草隊も大変ね」
「いや、ハハハ・・・」
特任は基本的に個人行動だが、情報収集のための諜報部隊が存在する。
その中でもガルネシアが深く関わっているのが雑草隊である。
警戒心の強いアリナが懐いている様子から、彼は雑草隊に間違いはないだろう。
「連絡係として僕が定期的に来ますから、決心がついたらいつでも言ってください」
「それは絶対ないわ」
エヴァリアは冷ややかに即答した。
******************************
「じゃ〜ねぇ〜エヴァリアさまぁ〜」
次の日アリナは別の任務があるらしく、
バーツと共にエイランを去ることになり、エヴァリアは宿屋の前でそれを見送った。
「・・・・・・・・・・・・」
その隣でジンが不機嫌そうに立っている。
「ジンは文句言いに帰らないの?」
エヴァリアはジンの顔を覗き込む。
「おまえはどうなんだ」
「わたし? う〜ん……特任と同じ権限ってことは出入国料免除になるから
旅はしやすくなるわね」
エヴァリアの左手首に昨日にはなかった青龍の刺繍が入った腕輪がはめられている。
これはさっきアリナから貰ったのだ。
「それにキグナスに行ってもわたしに何の得もないもの」
エヴァリアは微笑んだ。
しかしその表情はなんだか悲しげで、無理して笑っているようにも見える。
「……貸せ」
ジンは舌打ちすると、エヴァリアが手に持っていたバンダナを取り上げると頭に巻いた。
これもアリナから貰ったもので、腕輪と同じく青龍の絵が描かれている。
「ジン?」
エヴァリアはそのすばやい行動にきょとんとしている。
「……文句あるのか」
ジンはぶっきらぼうに言う。
「別に……ないけど」
昨日の様子から彼は断るだろうと思っていただけに、エヴァリアは少し驚いていた。
「でも……いいの?そんな簡単に辞めちゃって」
「……あいつがやる気だから」
バザバサと羽音が聞こえたかと思うと、2人の頭上が暗くなった。
キャメルが上空を飛んでいるのだ。
「なるほど」
エヴァリアは納得した。
竜は気まぐれで、一度機嫌を損ねると意思の疎通ができなくだけではなく、
機嫌が直るまでどこかへ身を隠してしまうのだ。
ジンはキャメルに高い信頼を置いているだけに、その事態は避けたいらしい。
「……行くぞ」
「了解」
2人は都の外へ向かって走り出した。