へいげん
はじめのたびびとがしんだ。
おだやかなねむりだった。こころのこりは、たくさんあっただろう。だがそれでも、かれのねむりは、ほんとうに、ほんとうにおだやかだったのだ。
かれは、むらのえいゆうだった。だれよりもさきに、ふたつのこやまをみつけたたびびとだった。むらにすむものたちはみな、かれのしをかなしんだ。
せいだいなそうしきをだすべきだ。たびびとたちのおおくが、そうおもっていた。きらびやかなそうしきが、とりおこなわれた。
ひつぎをまいそうするときに、もんだいがもちあがった。
「かれがすきだった、やま。あそこに、かれをまいそうしよう」
そのいけんに、みながさんせいした。だが、それがいけなかったのだ。
「それで、どちらのやまにうめるのだね」
みぎのやまをあがめるものと、ひだりのやまをあがめるものが、ぜひじぶんたちのやまにと、はじめのたびびとのひつぎをとりあう。いいあらそいはいちにちつづいたが、どちらも、いっぽもゆずらなかった。
じゅうせいが、とどろいた。ひだりのやまのものが、ピストルをうったのだ。
みぎのやまのリーダーがたおれた。それが、はじまりだった。
ピストルやライフル、ナイフやゆみやをてに、たびびとたちがあらそいはじめた。それは、これまであったいいあらそいやけんかとは、まったくちがったものだった。
おおくのたびびとがちをながし、たおれる。しろいだいちが、あかぐろく、そまった。はじめのたびびとのひつぎは、けられ、ふみやぶられ、バラバラになって、へいげんにちらばった。
「やめろ、やめてくれ」
はじめのたびびとのともだちだった、にばんめのたびびとが、おおごえをはりあげる。そのあたまを、とんできたじゅうだんがうちぬいた。
「なんで……なんで、こんなことに」
わかいたびびとが、じめんをはいながら、だれにともなくいう。
かおだけをおこして、さけんだ。
「みんな! あらそいはよくない! いままで、なにごともなくやってきたじゃないか! もうやめよう、こんなことは!」
じゅうをてにしたたびびとが、みおろしながら、はきすてた。
「ばかか、おまえは」
「なんだと」
「おこったな。じゃあ、いまおれが、おまえはばかでどうしようもないやつだ、っていったら、どうする」
「そんなこといったら、ぶんなぐってやる」
じゅうをてにしたたびびとが、えみをうかべた。
「そうだろう。それが、おれたちの、ほんしょうだ。じぶんひとりのきもちすら、おさえられない。そのおんなじくちで、きれいごとをかたるなよ」
わかいたびびとはなぐられ、きをうしなった。
にしからやってきたたびびとがもちこんだたいほうが、ひをふいた。ひだりのやまを、たびびとたちもろとも、ふきとばした。
べつのたいほうが、うちかえされた。こんどは、みぎのやまが、ふきとばされた。
たいほうと、たくさんのじゅうだんが、たがいをうちあい、ころしあった。むらも、やまも、なくなっていた。
しろいへいげんのなかに、あかぐろいだいちだけが、ぽっかりとあなのように、できていた。
うごくものも、おとをならすものも、もはやどこにも、いなかった。
しずかなだいちのうえを、ただ、かぜだけが、ふきすぎていった。