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周りを見渡せば田園風景が広がる。そんな田舎のとある高等学校に、学校中の男子をメロメロにする女子がいた。
彼女にとって告白は日常茶飯事。ラブレターだって読まずにポイ。
そんな毎日をおくる彼女であったが、一つ気になるラブレターがあった。
それは薄い水色の封筒のラブレター。
大抵のラブレターっていうのは、よく分からんおまじないが流行っているらしく白に赤いハートマークのシール。
その中で唯一、これだけが水色だった。だからつい気にとめてしまったのだ。久しぶりに開けて読んでみた。
谷口 文佳さんへ
初めまして、小坂 悠 といいます。 登校初日、僕はあなた を見て恋に落ちました 。
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中は何の変哲もないラブレターだった。
「なんだ、つまんないの。」
小阪 悠といえば、ひきこもりじゃない。登校初日にあたしに恋して、その熱でひきこもったって噂、本当だったんだ。
こう見えて素敵な恋に憧れている文佳は、つまらなかったのか、それを捨てた。
下駄箱を開ける。いつも通り、朝っぱらから下駄箱は手紙であふれていた。全部そばのゴミ箱に捨てていく。廊下のかどを曲がった時、
「谷口、好きだ。付き合ってくれ!!」
急に大声を出され、文佳は驚いてしまった。これが合図とばかりに、見ていただけの男子たちが次々によってきた。
「僕も!」
「俺と!」
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どんどん集まってきて、教室に入れそうにない。大群の勢いに負けて、あたしは壁に背をつけることとなった。
早く先生たち来ないかな。
こんな状況で助けといえば教師だけ。女子はあきれた顔で去っていく。誰も助けなんてしない。決まっていうのは、
「男に囲まれて楽しそうね。」
別に囲まれたくて囲まれてるわけじゃない。それに、あたしだって最初は怖かった、こんなに風に囲まれて、逃げ場も助けもなくて。そう言えば、一度だけ助けが来たっけ…。 あれは文佳が一年の、入学したての頃だった。学校に文佳の噂が広まり、男子たちがこんな風に文佳を囲ったのだった。まだ自分がモテるだなんて思ってもいない時だ。部活で遅くなって、下駄箱に向かっていた。急に現れた他学年の男子十人くらいに詰め寄られて困っていた。だけど、そんな時、
「谷口さんが困ってますよ、先輩。」
あたしの前に彼が(後に文佳の中で運命の人と言われることとなる)立ちはだかり、守ってくれたのだ。彼はあたしを下駄箱まで連れて行ってくれた。
「気をつけて。」
そう言って彼は去って行った。あの笑顔が今でも忘れられなかった。これを運命と言うのだろうか、せれともただの片想い…?
あの後学年中捜したけど見つからなくて、二年の方まで捜しに行った。けれど結局見つからなくて。名前も知らないあの人。お礼だって言ってない。
「こら!お前らさっさと教室戻れ!!」
怖い顔した体育教師が大群を散らかした。