その6 魔装具
「はあ。わかったよ。
で、武装を持ってきたって言ってたけど?」
渋々負けを認め、気になることを言ってたので聞いてみる。
「あ、はい、こっちです」
ててて、と俺の手を引き走り出すエリー。近くの木陰に連れて行かれ、そこにあったのはいくつかの武装らしい品々。
「じゃーん! これが私の武器で、魔装具・風神の杖です!」
そういってエリーが掲げたのは、先端にエメラルドか何かだろうか? 緑色の宝石が嵌められた樫の杖だった。つーか、これ本物の宝石だよな? 俺の拳くらいの大きさなんだが。普通に売ったらすごい金になるんじゃねえ?
「この杖には風の精霊が封じられていて、風属性の私が使えば簡単なものに限りますが、本来習得してない風の契約魔術が使えるんです」
ほほう。そういえばエリーがどんな魔術が使えるのかもよく知らないな。
「それで、これがケイの分になるんですけど」
そういって取り出したのは……皮手袋? 色は漆黒で、手首の辺りが金属の腕輪になっている。ここに小さな赤い石が嵌められているのがちょっと魔法の品(マジックアイテム)っぽい。
「なにこれ?」
「さあ? 実はよくわかってません」
おい。
てへっ、見たいな顔してんな! 可愛いから許……すかあ! 説明しやがれ!
「ええと~、これは反転属性専用の魔装具です。探すの苦労したんですよ? ただ、どんな能力を秘めているのかはわからないんですよ。持ち主がいたと言う記録がないので、起動時の記録もないんです」
「記録がないからわからない、と言うのはまあ、いいとして。魔装具って何? 後は属性専用とか」
基本的な知識が欠けていた。
「あ、はい。いわゆるマジックアイテムと呼ばれるものにはいくつかの分類があるんです。
マジックアイテムと言う言葉自体が広義としてこれらの品々全てを指すのですが、狭義としてのマジックアイテムが、これから説明する分類のどれにも入らない“その他”の品々になります。
格としては一番低い品ばかりになるんですよね。ちょっと切れ味がいいだけの剣とか。世間で手に入るマジックアイテムの大半がこれになります。
で、魔装具ですが、精霊や英霊、果ては神霊や悪魔の欠片を封じ込め、意思を持たせたものを指します。まあ、意思といっても、会話ができるほどきちんとしたものではなく、漠然としたものなのですが。
ただ、意思があるからか、通常のマジックアイテムと比べて強大な力を持ってることが多いです。たとえ力は弱くても、使えない魔術が使えるなど、通常のアイテムでは作れないほど複雑な技術を要するような効果が使えたり、ですね」
まてまてまてまて。今さらっとすごい気になることを言わなかったか?
「英霊? 英霊ってなんだ? 死んだ兵士の霊? それともF○teか、Fa○eなのか!?」
オラなんだかワクワクしてきたぞ!
「○ateってなんですか? それはともかく、英霊と言うのは、過去に伝説を残すほどの偉業を達した英雄の霊を指します。彼らが死ぬ前に彼らの協力を得て、その魂の一欠けらを武具に封じ込めるわけです。
存在としての格は神霊や悪魔はもとより、精霊にもはるかに劣るのですが、人であるがゆえに蓄積された経験や技術を流用できるわけです。ただ、この技能は文字通り魂の一部を奪うことになりますから、英雄と呼ばれるほどの存在でないと耐えられません」
ふむふむ。
「それで話を戻しますが、他の分類には、魔法装置と言うのと神具と言うのがあります。
魔法装置は名前のとおり、アイテムと言う個人で持ち歩く規格を超えて、塔や部屋などそのものがマジックアイテムであると言う巨大な“装置”です。
システムとしては魔装具と同じなんですが、巨大な分大きな力を持ちます。
最後に神具ですが、やはり高位存在を封じ込めた武具であることに変わりはありません。しかし、その意思は強大で、主との会話も可能とし、時にはその姿さえ顕現できるといいます。
当然、秘められた力は最大で、魔装具レベルでは似た結果すら出せない、とすら言われています。さらに言えば、神具は完全に人格があるため、主と神具の相性が重要になります」
なるほど。そういえば飛鳥のエクスカリバーも神具とか言われてたな。確かに綺麗な天使のお姉さんが現れてた。羨ましくなんてないもんねっ!
「最後に、属性専用の話ですが、魔装具以上の品の中には、特定の属性を持つもののみが使えるものがあります。
これは主を選ぶ分、使える品を見つけるのが大変ですが、その分自分の属性に合わせて効果的な力を行使できるわけですね」
「で、エリーの杖と、この手袋が」
「はい、それぞれ属性専用の品です」
しかしまあ、よくレア属性の反転属性なんて見つけたものだ。
「まあ、ありがたく使わせてもらうよ。で、そっちにある剣は?」
「あ、これもケイのです。ケイが剣の訓練をしてると聞きまして」
渡されたのは、質素な、しかし、よく見ると細部にわたって細やかな装飾のされた比較的小ぶりな両手剣。抜いてみると、その刀身は決して質の悪くないものだと思い知らされる。……うん、こんなの訓練で剣振り回してなかったらわからなかったと思うけどな。
「これは我が白竜騎士団の騎士が叙勲される際に渡される正式な剣です。まあ、騎士は盾を使うので儀礼で使われることが一番多いのですが、盾を持たないときに使うことを想定し、実戦でも十分以上に使えるよう作られています。
さすがに、実際に叙勲に使われた物はその騎士の剣なので、これは予備の物を持ち出してきたんですけど、ケイは私を守る騎士です、……なんてね。冗談です。でも、それくらい信用してますよ?」
ナイト、か。はっきり言うと、柄じゃない。そういうのは飛鳥の役割で、俺はせいぜい傭兵だろう。だが、この子を守るための、と言うなら悪くはない。色々世話にもなってるし。
「そっか。騎士なんていうのは過分な扱いだと思うけど、気持ちと剣はありがたくいただくよ」
微笑を浮かべ、剣を受け取る。その後、他の荷物を見渡してみるが、豪華な装飾品らしきものはあれど武装っぽいものはない。
「ところでこっちは?」
「あ、それは私の要らない装飾品です。売れば路銀になると思うので」
なるほど。ならばさっさと行ってしまおう。まさか一国の姫ともあろうものが書置きもなしに旅立つとは思えないが、出る前にばれてしまえば引きとめられるのは目に見えてるし、それは俺も同様。貴族にせよなんにせよ利用し尽くしてやろう、ってのがみえみえだったからなあ。
「なら、さっさといくか。エリーも何時までもそんな格好でいたくないだろうけど、さすがに俺も女の子の着替えなんて持ってないからとりあえずはそのままで。
明日適当な服屋で買おう」
「そうですね」
◆ ◇ ◆
城下町の片隅にある小さな宿に部屋を取り一泊。朝食の前に服を買ってしまおう、と言うことで服屋で買い物をし、その足で武具屋に向かう。
武器はあるのだが、予備の武器も持て、とグスタフ隊長に言われてたので、物色開始。それに防具は必須だ。取り合えず武器はブロードソードを選んだ。質は……騎士の剣ほどの名剣ならばともかく、一般の剣の目利きができるほどの訓練は受けてない。安物ではないことを祈るのみだ。
防具はさてどうするか。エリーは第二王女で肖像画とかにもなったことがあるから、顔がばれて騒ぎになる可能性がある。そうでなくても、エリーは器量よしなので揉め事の種になる。なので、顔ごと隠せるフード付きの黒いローブにした。
俺は、ローブではなく鎧だ。ただ、金属鎧は高い。その上板金鎧などになればもう特注するしかない。当然、時間がかかる。しかし、皮鎧は防御力に不安があるし、そこそこ硬い硬革鎧はやはり成型が必要だ。と、言うわけで、俺は急所のみを守るポイントアーマーを買うことにした。金と時間ができたらもっといい鎧買ってやる。
最後に盾。これは悩んだ。盾には大まかに分けて、グリップを手で持つだけのタイプとベルトで腕に固定するタイプがある。後者のほうが防御力は高いのだが、前者のほうが武器の持ち替えが楽なのだ。これは30分くらいその場で頭抱えて悩んだ挙句、グリップ型の円形盾にした。
と、そういえば。
「ものすごい今更だけど、この手袋ってどうやって使うの?」
魔装具だという手袋の存在を忘れていた。一度も身につけちゃいねえ。
「基本的に、魔装具は装備すれば魔装具のほうから語りかけてくれるはずですよ」
「なるほど。では早速装備してみるか」
すちゃ、っと装備。ただの手袋だし、気負うものは何もない。そして、装備した途端、
『ふむ。おぬしが今代の主か。よろしく頼むぞ』
そんなことを言う、妖精さんが現れたのだった。
……ふっ……気がつくと説明だけで話のほぼ全てを使った気がするんだぜ……
そしてようやく主人公補正的なアイテム登場。ただし説明は次回、実用化はまだまだ先になると思います。
作中に登場した白竜騎士団は、エルメンライヒ王国の花形騎士団です。戦争における主力は全軍最大数を誇る鉄の槍騎士団なのですが、白竜騎士団は少数精鋭で、少なくても個人の武勇、という点ではエルメンライヒ王国最強といわれています。
このため、彼らは主に大人数を動員できない近衛騎士として普段を過ごし、戦時には少数の投入で戦局が決まる、という局面に投入する切り札として扱われています。
グスタフ隊長をすごい強い人という描写をしておりますが、実際問題として、白竜騎士団最強の騎士とタイマンしたらどっちが勝つか、は作者も「運次第」と設定しています。これは、一回の兵士と互角の白竜騎士団微妙、ではなく、国一番の騎士と互角に戦えるグスタフがすごい例外的存在なのだ、と受け取っていただければ幸いです。