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黒の幻想、白き刃  作者: 腐れ紳士
第一章 ~召喚篇~
6/15

その5 お城脱走

 時の流れは早いもので、あれから2週間が経った。

 毎日エリーの勉強と、グスタフ隊長の特訓を受け続ける毎日だ。午前中に脳みそが死んで、午後は体が死ぬ。ボスケテ。

 取り合えず日常会話は完璧。専門用語とかでてくるとついていけないけど。文化や風習、地理に関しても、ある程度はいけると思う。

 で、肝心の戦闘訓練だが、取り合えず剣、槍、弓、馬術、いざと言うときの素手での格闘技は何とか形になるようになって来た。とはいっても、正規兵の方々相手ではタイマンで何とかしばらく五分に渡り合えるけど、最後には負けてしまう、と言うレベルだ。それでも正規兵と言うのは、本来なかなかに強い。その正規兵相手にここまで戦えるなら、取り合えず冒険者や傭兵になっても戦力としては十分あり、とのお墨付きをいただいた。

 無論、一番格下のランクとしては、だが。


「よし! 次! 両手剣だ、行くぞ!」

「はい!」


 手に持っていた盾を捨て、右手にあった片手半剣(バスタードソード)を両手で構える。それを正眼に構え、全力で隊長に打ち込む。

 まあ、当然捌かれて倒されてしまうのだが。


 しばらくして、今日の訓練が終わった。


「よし、今日はここまでだ」

「ありがとうございました」


 うん、最近は何とか終わった後も倒れずについていけるようになって来た。……これならいけるかな。


「おう、ケイ。ちょっと付き合え」

「隊長? なんですか?」


 グスタフ隊長に連れて行かれ、廊下を歩く。適当な小道を曲がり、人気のない道に入ってから隊長はつぶやいた。


「おまえ、そろそろ城を出る気だろう?」

「……わかるんですか?」


 びっくりだ。ひそかに準備してたのに。まあ、でる前に隊長とエリーには挨拶していくつもりだったけどさ。飛鳥? あいつにゃいらん。役割分担は話し合ってるんだし。


「2,3日前から旅に必要なものとか聞いてたじゃねえか。準備もしてたみたいだしな。まあ、元々長い間この城にいられる身分じゃないから、出て行くのは不思議じゃねえ。だが、なぜ今なんだ? 陛下はまだ放り出すつもりはないようだし、勝手に飛び出す必要はないと思うんだが?」

「そうですね……。ひとつには、この国の内輪もめに巻き込まれる前に出て行きたい、と言うのがあるんです」


 3週間も城で暮らしていれば。この国の大まかな派閥は理解できる。

 この国は封建制で、王様とそれを支える貴族たちで国を運営しているのだが、封建制の常として国王が絶対権力を持つわけではない。国王は貴族の意向を無視できないし、時には貴族と国王の力バランスが逆転することもある。

 で、この境遇を変えて、中央集権システムを作り上げ、絶対王政にしようとたくらむ王室派。ここの筆頭は国王陛下だが、実は第2王妃が黒幕と言う噂。

 次に、そんな横暴な王室に対抗し、貴族中心の議会運営を行おうという貴族派。

 単純に持ってる力の総量でいえば貴族派がダントツで一位なのだが、何せ一枚岩にはなれない。貴族派の中でも、さらに少なくても3つの派閥に分裂しているらしい。

 3つ目が、王室派、貴族派の間に食い込みながら、虎視眈々と軍事クーデターを起こして軍事政権を握ろうと画策する騎士派。いーのか、騎士がそんなんで。

 4つ目が、横暴なる王侯貴族を打ち倒し(そう、基本的に貴族はやりたい放題なのだ)、民中心の国を作ろうとする革命派。

 俺が聞いただけでもこれだけの勢力が争っているらしい。

 現状の勢力図としては、4つの派閥がそれぞれ一致団結して正面激突するなら最強は貴族派だが、貴族派は内部分裂してるため付け込む隙が多く、結果として王室派、貴族派、騎士派の睨み合い。

 革命派は勢力としては弱小だが、地下深くにもぐっているため摘発はできず。

 ついでに一般兵や民衆は心情的には革命派。保身があるから表には出さないが、彼らの人数が一番多いのは間違いない。よって、保身を考えずに爆発すると一気にひっくり返る可能性がある。


 もうやだ、こんなとこいたくない。

 俺自身に各派閥から求められる力はないが、飛鳥を引き込む手段として目をつけられている。マジ勘弁。

 余談だが、エリーの立場は血統上王室派になる。ただ、本人は特に政治に関わる気はなく、「皆が仲良く運営してくれればいいのに」とかいってた。それがいいことか悪いことなのかは判断つかないが、おかげで気兼ねなく話せるのが救いだ。


「なるほどな。まあ、それならわからんでもない」

「それに、最初の謁見時の件で、多分王様に嫌われてますからね、俺」


 たまに王様を見かけて目が合うと、「さっさと消えろこのゴミがッ!」みたいな目でみられるんだよな。そのうち王室子飼いの暗殺者とか仕向けられそうで怖い。


「あー。それはあれだ。多分エリシエル殿下と仲がいいからじゃないか?」

「はい? エリー姫と? 仲がいいって言えばいいですけど、それは彼女が俺を召喚したからですよ」

「その辺の理由はわからんさ。だが、彼女は末っ子で陛下は溺愛してる。それから見たら、お前さんは“可愛い娘に近づく馬の骨”そのものじゃないか」


 げ。マジか。そんなつもりは全然なかったんだけどなー。


「まあなんにせよ、敢えて止める理由もないしな。これは餞別だ、取っとけ」


 と、渡されたのは中にお金がぎっしりと詰まった小さな袋。多分だけどこれで一月は暮らせると思う。


「こ、こんなのもらえませんよ!?」

「いいから取っとけ。これまで訓練かねてこっちの仕事も手伝わせてきたんだからな。その報酬だ。どうしても嫌だって言うなら、働いて稼いで返しに来い。そしたら兵士たちも連れてその金で飲みに行こうや」


 それがこれからの俺の苦労を慮る彼の好意と優しさであると気づき、不覚にも目頭が熱くなった。


「ありがとうございます。必ず返しに来ますから」




 ◆ ◇ ◆




 そして深夜。事前に準備しておいた荷物を持ち、そろりそろりと城を出る。

 この日のために見張りや巡回警備をかいくぐるための調査をしていたのだ。ちょっと危ないタイミングもあったが、何とか城の裏口から脱出。

 ちなみに、エリーへの挨拶はできなかった。公務で忙しかったし、何とか暇になったであろう時間はもう夜遅く。こんな時間に訪ねていったら夜這いと勘違いされかねない。残念だがそんなことするわけにはいかないので仕方がない。

 さらば王城。さて町へ繰り出すか、と思ったら。


「あ、待ってましたよ」


 なんて笑顔で立ってるお子ちゃまお姫様発見。……Why?


「で、何で、君が、こんな夜遅くに、こんなところにいるのかな~?」

「い、いひゃいいひゃい、いひゃいでふよふぇい~!」


 ほっぺをむにっと摘まんで問いただす俺、答えるエリー。ははは、何言ってるかわからんぞ~?

 しばし柔らかくて気持ちのいいほっぺを堪能してから話してやる。エリーが「ひろいれす……」などと涙目でつぶやいているが、いや、それ普通に萌えるだけだから。……うん、おかしいな。なんで俺この子に対してこんなにSなんだろう?


「で、本当になんでこんなところにいるんだよ? 夜中だぞ、子供が出歩く時間じゃないぞ」

「私は成人です! そりゃ見てくれはちっちゃいかもしれませんけど、もう15なんですから!」

「……ちょっとマテ。この世界っていくつで成人なんだ?」

「え? 大体15歳ですよ。農村とかは13くらいで結婚する子も多いって聞きますけど。貴族は逆に結婚なんて全部政略結婚ですからね。生まれる前から婚約者が決まっていることもあれば売り時を見計らってって言うパターンもあります」


 さすが異世界。ぱねぇ。つーかそうか。俺ももう大人で結婚ができる年なんだ。


「まあ、故郷と異世界の常識の差はおいておこう。

 で、な・ん・で、こんな時間にこんなところにいるんだ? いくらお城の敷地内とはいえ、真夜中、しかもこんな後2歩で城の外、みたいな場所にお姫様がいるのは物騒にもほどがあるぞ。

 どっかの王室派の敵が放った暗殺者とか誘拐魔とか来たらどうするんだ。エリーは可愛いんだから、お姫様とか関係なしに攫いに来る奴も多いと思うぞ」


 そして奴隷市に売り飛ばされるのだ。この世界、いまだに奴隷制が残ってるらしい。奴隷のいない常識の中で育った俺にはふざけたシステムそのものだが、そういう世界なのだ、と言われてしまえば、所詮部外者でしかない俺に何かできるわけもない。

 辛うじて救いがあるのは、(おおやけ)には奴隷は犯罪者の刑罰の一種として存在するのみである、と言ったところか。ただ、どこにも救いようのない連中と言うのはいるもので、人攫いをしては奴隷に売り飛ばす下種(げす)もいるらしい。なのでまあ、注意するに越したことはない。

 さてここまで余談っつーか脱線。そろそろお姫様に答えてほしいものである。


「え、えっとですね。ケイはもう城を出ちゃうんですよね?」


 ばれてるし。ってことは見送りか?


「まあ、そうだけど」

「私も連れて行ってください! って言うかついて行きますから!」


 ばばーん! ……いやいやいやいや!? ないから! お姫様が外にあこがれて冒険にでるのは百歩譲ってありえる話だって認めよう!

 だけど!


 パジャマで出かけるとかないから!


 パジャマ、と言うと語弊があるかもしれない。彼女が着てるのはネグリジェ。しかも結構薄い。透けて全裸が見える、と言うほどではないが、ボディラインくらいは透けてわかるレベルだ。


「……お前、自分がどんな格好して言ってるかわかってる?」

「え? え、あ、ひゃあ!?」


 自覚してなかったんかい。仕方がないので城で暮らすようになってからもらった服の中から外套を取り出し、着せてやる。


「で? 何でまた寝巻きで冒険なんぞを」

「ね、寝巻きは間違いです! なんでも何もありません! ケイは私が召喚したんですよ!? 最後まで責任を持つのは当然じゃないですか! これでも私は、攻撃魔法を習得していますから、ちゃんとケイのことを守ってあげられますよ?」


 ……想像してみる。ピンチになる二十歳(はたち)少し前の熊と呼ばれるような大男。男を殺さんと襲い掛かる化け物。颯爽と現れるぱっと見10歳から高く見ても10代前半の女の子。振るわれる華奢な拳。鉄拳一発、数十mも吹っ飛ぶ化け物。……ないな、うん。


「ははは。なかなかに面白い冗談だな、さ、そろそろ夜遅いから部屋に戻りなさい。そうでないとこわ~いお兄さんが狼になっちゃうぞ」

「? ケイは獣人(ワーウルフ)だったんですか? それよりも冗談じゃありません! ちゃんと武装だって用意してきたんですから! ケイの分もあるんですよ。駄目だって言っても勝手について行っちゃうんですからね!」


 お姫様は純情無垢かつ無知だったようです。そして説得失敗。どうすりゃいいんだ、これ。


「……駄目ですか……?」


 う゛。そんな涙目で上目使いで迫られると……


「……お城の生活と比べれば、びっくりするくらいいやなことがたくさんあるぞ? ……それでもいいのか?」


 こう、最後のダメ押しみたいな台詞を言ってしまう時点で多分俺の負けです。


「はい! がんばります!」


 ですよね。

 今回は特に設定集で書くことはなさそうなんだよなあ。などと思う作者です。

 エリーの寝巻きはどうするかで悩みました。異世界イメージを中世ヨーロッパ“風”と定義してるのですが、時代や地域によりけりですが裸で寝た時代もあるんですよね。ネグリジェ自体は17世紀だったかな?

 専門知識はないので、たまにふらりとネットで調べて使う程度で、基本は作者の脳内イメージ優先なんですが。


追記:

 そういえばこれまで明言してませんでしたが、感想にユーザー登録制限はしてませんので、一見さんでも何かあったらお願いします。

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