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黒の幻想、白き刃  作者: 腐れ紳士
第一章 ~召喚篇~
13/15

その12 奴隷契約

「あー、えーと。ナニユエニデショウカオボッチャン?」


 思わずカタコトで聞いてしまう。いや、助けたと思ったらいきなり「奴隷にして」は誰だってそう思うって。

 少年はその言葉に、一瞬なんか悲しそうな顔をするが、すぐに表情を戻して答えた。……何故に悲しそうな?


「ええと。いくら首輪があっても、それを証明するご主人様がいないと、やっぱり身分詐称になっちゃうんです。

 それに、ボク、これじゃあやっぱり今まで動揺に財布掏っていくしか生活手段ないですし……。

 それでもし捕まったら、窃盗に加えて身分詐称まで加わって、今のボクの立場奴隷ですから、死刑を避けるほうが難しいと思うんです……」


 ふむ。

 確かに、そういう理由なら俺の奴隷になりたい、と言うのもわからなくもない。

 向こうからすれば、買い叩いたとは言え自分の財布で奴隷を買えるようなお金持ちで、社会的地位のある王国の花形騎士に見えることだろう。

 衣食住。その全てを与えてくれ、しかもお人よしの主、に見えるはずだ。そこまでお人好しのつもりはないんだが……。エリーといいこの子と言い、どうも俺は年下に困ったような目で見られるのに弱いらしい。……そういえば、元の世界でも志保ちゃんにそんな目で見られてはわがままを聞いてた気がする。

 ……はあ、仕方がない。最後の手段にいこう。

 でも、その前に。


「と、取り合えず、ここを出て話そう」


 そういって、背中を押して店を後にするのだった。





 ◆ ◇ ◆





 で、店を出てしばらく歩き、スラム自体も出てしまう。

 とはいえ、賞金首になってる今、大通りを歩くわけにも行かないので、別の――俺らの宿があり、彼に財布を掏られた――スラムまで移動する。このあいだ無言。


「あ、あの……? ダメでしょうか? ボク、がんばって働きます。だから……」


 さすがに無言が不安になってきたのだろう。少年はそんなことを言ってきた。


「まあ、この辺ならいいか。

 それじゃあ、さっきの続きを話そうか」

「あ、はい!」


 話をする、と言うことに希望を感じたのだろうか? いきなり元気になる少年。


「えーと。まずはこっちの話を聞いてくれないか?

 全部聞いて、それでも俺の奴隷になりたい、って言うなら何も言わない。俺も覚悟を決めよう」

「あ、はい。わかりました」


 そして、俺は全て話した。

 騎士ではないこと。

 異世界から勇者のおまけで召喚されたこと。

 勇者と協力して魔王を倒さない、と言ったために余り国の連中によく見られてないこと。

 城を抜け出すときに、お姫様がついてきて、そのせいで逆に国から賞金をかけられていること。

 今はそれなりにまとまった金があったが、別に裕福な旅ではなく、冒険者として稼いでいること、など。


「以上だ。どうする? 俺についてくれば、まず間違いなくお尋ね者の仲間入りだ。

 かといって、安定した暮らしも保証できない。何せ俺達は根無し草の冒険者だからな。

 あるいは俺たちの情報を国に売れば報奨金が貰えるだろうし、うまく交渉できれば奴隷の立場も直してもらえるかもしれない。

 まあ、さすがにこれは希望的観測だけどな。それでも俺らについてくるよりは安定した立場や生活が手に入る可能性は高い。俺以上のお人好しがあの城で勇者やってるしな。



 それでも――俺の奴隷になることを望むのか?」





 ◆ ◇ ◆




Side:???


 ボクを助けてくれた青年が言ったことは、どこまでも荒唐無稽で、少しだけ夢見た甘くて平和な生活への希望なんてものはなかった。

 そう。確かに、彼の言葉を信じれば、今すぐにでもお城に行き、情報を渡してお金を貰うなり生活の保証を貰うなりするのが一番いいのだろう。

 裏奴隷商との契約に、ボクのことは入ってない。ボクはその点において、完全な被害者で。全てをぶちまけたところで、困るのは彼と奴隷商だ。

 だから、打算で未来を選ぶなら、答えなんて決まっている。

 けれど。


「それでも――俺の奴隷になることを望むのか?」


 それでも。それでもと望むなら、受け入れようと。彼は言った。


 ――その姿が、ボクにはとても荘厳に。あるいは神聖に見えたのから。


「それでも。我が身はあなたの下に。この命が消えるその日まで、あなたとともに歩みたい」


 そう、返していた。

 あるいはこの選択を後悔する日がくるのだろうか?

 それでもかまわない。

 たとえ後悔するとしても、打算だけじゃなく、自分がそのとき納得できる選択を。

 そんな彼のあり方に憧れた。

 だから、神と言うものが、運命の出会いを与えてくれると言うのなら。ボクはこれが運命の出会いだと信じよう。





 ◆ ◇ ◆





 ……いや、なんか、ものすっごく気合の入った返事が返ってきた。

 この気合たるや、ただの奴隷と主なんてものじゃない。

 むしろ神に仕える聖職者。

 あるいは、この子が女の子だったら結婚の告白にすら聞こえかねない。


 ……まあ、いいや。それなら。


「なら、これからよろしくな。

 俺は山岸啓太。前が苗字で後ろが名前なんだ。……そうだな。こっち風に名乗るなら、ケイタ・ハルカ・ゲンヤ・ヤマギシってところか?

 まあ、気軽にケイって読んでくれ」


 まあ、まずは名前の交換からだよね。


「あ、はい。わかりました。ボクはクリスって言います。苗字とかは名乗ってないんですけど。

 よろしくお願いします、ご主人様」


 うん。君の忠誠心はよくわかった。でもな?


「ご主人様、は止めてくれ。ケイでいいよ、ケイで」

「え、いえ、ダメですよ! ご主人様を敬称で呼ばないとか奴隷失格です! そりゃあ、ボクは奴隷なり立てですけど、それでもこのくらいの常識はあります!」


 え。常識なんだ、それ。嫌って訳じゃなくて、背筋がめっちゃむず痒いんだけど……まあ、常識なら仕方ない、のか?


「まあ……。常識じゃあ仕方ないか。それじゃあよろしく。クリス」

「はい!」





 ◆ ◇ ◆





「で? 分割したお金全部使って、違法奴隷を買ってきた、と?」


 帰ったら般若が仁王立ちしてました。

 かくかくしかじか説明したけど収まりません。誰かボスケテー!


「いや、だ、だから、これはっ、人助けで!

 事情は今話しただろ……!?」


 とにかく話し合おうぜお姫様。出ないと俺の命がただいまライブで大ピンチだ。


「はぁ……。まあ、人助けはいいことですけど。ケイは無茶しすぎです!

 裏組織に単身乗り込むとか何を考えてるんですか! 今度やったら本気で許さないですからね!?」

「ご、ごめん」



 こうして、(俺の精神的なものを除き)特に問題なく、クリスの存在はエリーにも受け入れられたのだった。





おまけ。


「あ。そういえば、俺らの部屋シングルルームだったな。エリーがベッドで寝るとして、毛布もひとつだし。クリスどうするか」

「いえ、ボクは別に何もなくてもいいですよ、奴隷ですし。その毛布はご主人様が使ってください」

「奴隷ですし、とか言うな。もう俺たちは仲間だろ?

 んー。まあ、男同士だし、一緒に寝ればいいか。ちと狭いけど、それは我慢してくれ。エリーとなら広さは大丈夫なんだろうけど、男と女だし、さすがにな」

「うぇえええええええ!? い、いえ、ほんとに! いいですよボク! ご主人様と同衾なんてそんな恐れ多い……」

「遠慮するなって言ってるだろ? それに、かける物もなしで寝るとか認めないからな、絶対! これ、ご主人様命令な」

「ぁぅ……そういう言い方は卑怯です」

「卑怯でも何でも。子供を毛布すらかけずに寝させる趣味はないからな。今度そんなこと言ったら、無理やり毛布で包んで寝かせて俺が何もなしで寝るからそのつもりで」


 その日、クリスはなかなか寝付けなかったみたいだけど、何でだろうな?


 1ヶ月もお待たせして申し訳ありませんでした!(陳謝)


 更新前に確認したらPV3万弱、ユニーク5600とかいって、もうなんて読者様に不敬を……!

 がんばりますので、見捨てないでね?(願


 おまけに関しては、もう色々、そろそろ読者レベルならネタバレしてもいいよね、位の気分で書きました。わけわからねーって方いましたら、そのうち明言するのでお待ちください。

 なんとなくそーだろーなーって方いましたら、そのうち答えを明言するので、そのときまで待って答えあわせをしてください(笑)


 今日の設定のお話。

 クリスの言った、奴隷の常識、は、ほんとに常識です。なのでエリーもご主人様呼ばわりに違和感を感じません。

 ただ、別に法でそうしろ、と言うのはないので、変えても問題はないんですけどね。非常識と貶される事のほどでもありません。


追記:

 設定を思いっきり勘違いしてたのでおまけ修正しました。うん、ばらしますが、こいつらの部屋はツインルームじゃなくてシングルだったんだわ。

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