その11 盗人救出
『主、本当にいくのか? 確かに相手はチンピラかも知れんが、現実は物語のように都合はよくない。
主の腕では例えチンピラが相手であっても、3人ほどにでも囲まれれば勝ち目はないぞ』
「わかってるよ。だから“話し合い”に行くんだ。それならまだ目はあるだろ」
ベルゼのいると言う裏奴隷市へと歩きながら、リアと話す。
まあ、俺がやろうとしてることなんて、確かに無謀なのだ。何せ、相手はチンピラの寄せ集めとはいえ、日本で言うならヤクザ事務所に乗り込むようなもの。
違法奴隷なんて物を扱う以上、それなりの備えはしてるはずだ。
でも……
「子供を見捨てるのは、ちょっとなぁ」
まったく、我ながら度したがいよなぁ。こういうのは飛鳥のキャラクターなんだけど。あいつのこと言えないな、俺も。
◆ ◇ ◆
「ここか」
『の、ようじゃの。して主。どうやって入っていくのじゃ? まだ商売の時間には早いようじゃが』
扉はしまっており、鍵もかかってるように見える。裏口を探すのが礼儀なんだろうが……。
「あくまで俺は“話し合い”に来たんだ。正面から堂々とたずねないのは誠意がないってもんだろ」
『ふむ。道理じゃな』
こんこん、とまずは扉をノック。人の反応はあるようで、中で何かが動く気配がする。しかし、開ける気配はないようだ。ならば――
「すみません、先ほどこちらに赤髪のハーフエルフがつれてこられたときいてやってきたのですが、話し合いに応じていただけないでしょうか?」
ややあって、
「はっ。ここを尋ねてくる客にしては礼儀正しい奴だな。どうやら一人のようだし、いいだろう、開けてやるから入りな。確かにあのガキはここにいるぜ」
そう、返事があり、ガチャリと鍵の開く音がした。……って言うか、何でこっちが一人だってわかったんだ?
『主、先ほど2階の窓から覗いている輩がおったぞ。大方そやつが報告をしたのではないかの?』
あ、なるほど。
◆ ◇ ◆
中に入ると、そこは酒場のような場所だった。それなりに大きなホールの奥には、ダンサーが出てきて踊りだしそうな、一段高い舞台がある。おそらくはそこで奴隷を紹介し、客は席について酒でも飲みながら選ぶのだろう。
その舞台の前に十数人のそれなりに喧嘩に慣れてそうな雰囲気のチンピラが臨戦態勢で壁を作り、こちらを身構えている。やっぱり、警戒を崩したりはしないってことなんだろう。
舞台の上には檻があり、その中にエルフの少年がいる。俺の財布を掏った子だ。服の二の腕の部分は破られ、そこになにやら焼印が押してある。涙目でこっちを見つめる姿には何かそそるものが……っていかんいかん。相手は男の子だ。何やってるんだ、俺。そんな腐女子が喜びそうな趣味はないはずだ!
ベルゼと思しき人物は、その檻に寄りかかってニヤニヤしている。
「ようこそ、勇敢な戦士殿。で? わざわざ商談の前に店にやってきて、焼印を押しただけで検査もしてない奴隷を探してたのはどういうことかな?」
「そうだな。まず、その子に財布が盗まれたので、それを取り戻しに来たってのが理由の一つなんだが。それはそれとして、その子を解放してやってもらえないか?」
「はっ、お前、それ本気? どこの貴族のお坊ちゃんだよ、お前。世間知らずにもほどがあるだろ。冗談じゃないね。なんで折角手に入れた獲物をみすみす逃してやらないといけないわけ?
財布の件だって、証拠とかあるの? ないなら奴隷の持ち物だろ? なら、そんなのは仲介する俺のモノだっての」
うわ、すごいむかつく奴だ。ぶん殴りてぇ。
そんな、俺の感情に気づいたのか、
「ん? なに? やるのか? いいぜ、この人数相手にその御立派な剣だけで倒せると思ってるならやってみればいいじゃん?」
そんな挑発をしてくるベルゼ。
だが、確かに俺ではこいつらには勝てない。1対1なら、何とかなる。だけど、盾まで街中で持ってるわけじゃないし、両手剣1本では2体1の時点でまず勝てない。それが概算15対1だ。
「ん~、でもそれ、確かにいい剣だな。装飾も……ん? お前、それ……白竜騎士団の剣、か?」
ざわり。
そんな擬音が似合うほど、空気が動いた。……確かに、そんな剣だったな、これ。
「……間違いない。鍔に刻まれた紋章は白竜騎士団の正式紋だ。ってことは、偽者だったら身分詐称になる。お前、騎士か?」
…………ごめんなさい、そんなこと全然知らず使ってました。って言うかやべぇ。それじゃあこの剣持ってたら身分詐称じゃねえか。後で紋章隠さないと。
だが、ここではこれは武器になる可能性がある。申し訳ないが、ここは利用させてもらおう。
「……さてな。お前がそう思うならそうなんだろう。
で、そのあたりを踏まえて頼むんだが、あんたの意見はよくわかるが、ここはそれを捻じ曲げて交渉に乗ってもらえないか?
ただで譲れ、なんて虫のいいことは言う気はないが。尤も、十分な額が払える手持ちがあるわけもないのでね。そこらへんは手加減してほしい。何、元々ただで手に入れたあぶく銭だろう? 多少やすくても交渉の余地はあると思うのだが?」
「……ふん。話のわかる奴、ってことか。どんな条件で譲れって言うのさ」
ベルゼの言い分もわかる。公式の奴隷であれば、一人買うのに大金貨が2枚は必要なほどの大金がつく。
違法奴隷の場合、違法性の隠匿に費用がかかるものの、人攫いや今日を生きるのも厳しいどん底の家庭から買い取るので、コストがかなり安くなる。だが、それでも金貨8枚は必要なのだ。
それだけの高価な品を、どれだけ値切られるか。そこが交渉の焦点となる。
「――銀貨で50。それと、あんたらのことは誰にも言わない。これでどうだ?」
「……7割も値引きかよ……えげつねぇな。だが、ここでお前を潰して死体を埋める、って手もあるんだぜ?」
まあ、普通そうくるよな。だからこそ、はったりで切り抜ける……!
「当然だな。だが、何も対策をしないで来た、なんて本当に思ってるのか? そんな都合のいいことを?」
本当は何も対策なんてしてませんけどね! 深読みして交渉に応じてくれることを祈ろう。
「……ちっ。秘匿に関して、信用する根拠は?」
「念書の類を書こうか? 王宮に持っていけば、俺がお前から違法と知りながら奴隷を買った、と証明するような奴を。それが表に出れば、お前も俺も破滅する。お前のことを伝えたら、こっちも困る、って訳だ」
そして、向こうもそれを盾に脅すことはできない。なぜなら、向こうも共犯なので、それが表に出れば困るのは同じだからだ。
ちなみに、銀貨50枚って掏られた財布の中身ほとんど全部です。
「……ふん。それが落としどころだな。いいだろう、おい、お前。紙とペンを渡してやれ。念書を書いたら、それをこっちによこすんだ。そしたら奴隷を渡してやる。金はその後払え」
◆ ◇ ◆
「金ももらったし、契約は完了、だな。ああ、忘れてた。こいつも持っていきな」
ベルゼからエルフ少年を買い取った直後、なんか投げ渡された。
「あん? なんだこれ?」
「奴隷保護法用の首輪だよ。まあ、偽造だけどな。宮廷付きの専門鑑定官だってきちんと調べなけりゃ見抜けねえ自信はあるぜ。おかしな目をつけて調べられなけりゃあ安全だ」
ふむ。別に奴隷としてつれて歩きたかったんじゃないんだけど……。
「んぁ? なんだ、奴隷としてほしかったんじゃなかったのか? ただの人助けだってんなら、お前相当なあほだな」
うるさい、わかってるんだ、それは。
「まあ、焼印押した時点でどうしようもねえよ。開放したところで主なしの奴隷になるだけだ。そんなの、周りから見ればどうぞ手を出してくださいって言うようなものだろうに。
焼印隠せば身分詐称だしな。そいつの安全を考えるなら首輪は必須だろ」
う……。そんな風にしたのはどこのどいつだ、とも思うが、どうしようもないのは確かなので、こいつの言ってることは正論になってしまう。
「仕方がない……。これつけるから、首出して。……大丈夫。別に本当に主になる気はないから。首輪をつけておけば、ひどい目にもあわないはずだから」
そういって、首輪をつけようとしたのだが。
「あの……」
「ん?」
「どうして、助けてくれたんですか? ボクは、あなたの財布を掏ったのに……」
「どうして、って言われてもな。放っておけなかったから、かな? やっぱり子供が不幸になるのは気分が悪いよ。
まあ、どっちかって言うと気紛れみたいなものだ。今回助かったのは、ただ運がよかった、位に思ってくれればいいさ」
そう。残酷なようだが、これは本当に「運がよかった」なのだ。もちろん、捕まって奴隷になりそうになったことは不運だが、そこから助かったのは。
なぜなら、この子に特別な何かがあって、それで助けられる運命に選ばれたわけではない。子供だった、と言うくらいだろうか? まあ、女性でも助けた気はするけど。特に美人なら。
……この子が女の子なら、より助ける気にはなったかも。男なのにぐっと来る雰囲気があるし。
「あ、あの……。なら、ボクを本当に奴隷にしてくれません……か……?」
――――――――――――はい?
と、中途半端なところできってみる俺外道! ふぅーははははー!
PV2万オーバー、ユニーク4000オーバーありがとうございます。
うちの主人公は無双できるほど強くないので、今回は戦闘ではなく交渉で解決させてみました。
いつか無双できるほど強くなったら、ここを壊滅させに来たいな、とか思わなくもない筆者ですが、無双するようになったら啓太じゃないかも……(笑)
今回はデータなしかな? ……うん、特に思いつかない。
感想とかで「この辺の設定について聞いてみたい」とかあれば。ストーリーのネタバレにならない範囲でお答えいたします(笑)
ユーザー登録しなくても感想かけますので、是非ください。では。