表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の幻想、白き刃  作者: 腐れ紳士
第一章 ~召喚篇~
11/15

その10 盗人探し

「うがー! どこ行ったあいつうううぅぅぅぅぅ!」


 ずしずしと大股で裏路地を歩き回る俺。不機嫌さがわかるのか、皆そそくさと逃げていく。


(あるじ)、主。そのように構えていては聞き込みもできんぞ。怒りはわかるがまずは落ち着くのじゃ』


 少し落ち着いた。

 何で俺がこうなってるかと言うと、まあわかると思うけど、人の財布をすりやがったハーフエルフの少年を探しているのだ。


『誰に向かって言っておるのだ?』

「……さあ?」



 とりあえず、落ち着いて深呼吸。吸ってー、吐いてー。吸ってー、吐いてー。


『……吸ってー、吐いてー。吸ってー、吸ってー。吸ってー、吸ってー』

「……すぅー、はぁー。すぅー、すぅー。すぅー、すぅー……って苦しいわボケっ!?」


 お約束のボケをしてきたリアにツッコんだ。うし、落ち着いたぞっと。


『いや、それで落ち着く主もどうなんじゃ』

「言うな」


 さて、そろそろいい加減に探すとしよう。


「すいません。先ほど、この辺を赤い髪のハーフエルフが通りませんでしたか?」





 ◆ ◇ ◆





 見かける人に片っ端から聞き込みをして、すりを追っていく。

 やはり赤髪のエルフと言うのは珍しいのか、覚えてる人は多かった。だが。


「……こっから先は、大通りだな」


 そう、被差別種族のすりだからスラムにいると思ったのだが、どうも大通りのほうに向かったらしい。

 困ったな。俺、お尋ねものなんだが。まだ染め粉も買ってないし。


『おそらく、別のスラムがあるのじゃろ。それなりに大きな町じゃし』


 ふむ。そうすると、どうしたものかな。


 ……よし。


 決断をすると、大通りには出ず、近くの人に声をかける。


「すいません、この辺に、ここ以外のスラムって近いのはどこいら辺にありますか?」

「ん? あんた旅人かい? スラムに用があるってことは、アレかな? 裏の情報とか、裏の商品とか?」

「ええ、まあ。そんな感じです」

「ここで駄目ってことは、商品のほうか。モノはなんだい、人か物か」

「……人?」


 人ってことは、話に聞いた違法奴隷、か? 虫唾が走る話だが、今の俺がどうにかできることでもないのもまた事実。


「人が欲しいなら、近くにそういうの扱う店があるな。別のスラムなんだけどよ。

 ああ、法のほうは、きちんと首輪つけておけば大丈夫。奴隷保護法が適用される正規の首輪も取り扱ってるって聞くぜ」


 取りあえず、なんだな。


 ふざけるな。


 ……


 …………


 ………………



『で、結局どうするのだ?』


 気がつけば、奴隷をかる~く語ってたあんちゃんはボコボコにされて倒れていた。不思議不思議。


「どうするかな。とりあえずさっき聞いた、奴隷位置のあるスラムは近いらしいからいってみるか」


 奴隷市なんて反吐が出るけど、その近くにいる可能性はあるし。





 ◆ ◇ ◆





Side:???


「ふう、ここまで逃げれば安全かな」


 そうつぶやき、スラムを歩く。歩きながら、懐の財布の重さを確かめた。財布――掏り取ったその財布はかなり重く、今のボクなら半年くらいは暮らしていけそうだ。

 神の恵みに感謝すべきだろうか? そうは思えない。だって、神が本当に恵みを与えてくれるなら、母さんを不幸にしたりはしなかったはずだから。


 母さんは美しかった。腰まですらりと伸びる銀の髪、絵に描いたような眉、華奢で繊細な体格。まあ、胸はちょっと残念だったけど、それはエルフだから仕方がない。そんな母さんは集落でも自慢の美エルフだったらしい。

 その母さんが、森の外周に出かけたときに、折悪く複数の人間の男たちに捕まり、暴行の果てに僕が生まれた。だから、父親が誰かはわからない。知ったところで殺意しか湧かないだろう。

 こうして、集落の自慢だった美しい母は、人間との間に子供を設けた、と言う理由で集落から追い出された。母さんは被害者なのに。

 それでも、母さんはボクを愛してくれた。お前なんか生まれなければよかったのに。そんな言葉は一度も聴いたことが無い。……自分ではたまにそう思うけど。

 ――その母さんも、半年前に死んだ。流行り病で、最期までボクのことを案じていた。


 ―――あなたは、生きて。そして、幸せになって。


 それが母さんの最後の言葉。

 だからボクは生きる。そして、必ず幸せを見つけてやるんだ。



 と、考えていたのが悪かったのだろう。どん、と、思いっきり人にぶつかってしまった。


「ああん? ガキぃ、てめえ何しやがるんだ? この俺が誰だかわかってやってるんだろうな、ああん?」


 げ。こいつ確か、このあたりで奴隷市開いてる親玉だ。名前は知らないけど。

 とっさに逃げようとしたが、取り巻きもいたらしい、すぐにつかまってしまった。


「ふん、この俺にぶつかるたぁ、いい度胸だ。ちょうどきれいな顔をしてるガキだし、この詫びはお前を奴隷として売り飛ばすことで払ってもらおうか、ん?」


 ……母さん、助けて……





 ◆ ◇ ◆





 大通りを横切り、人目を避けるように別の裏路地へ。

 さらに歩いて周囲はだんだんと貧民層的な雰囲気をかもし出す薄汚れた通りへと変化していく。

 話に聞いた、もう一つのスラム。多分、ここにあのすり小僧がいる可能性が高いのだろう。


「すいません、赤い髪をしたエルフを探しているのですが、見かけませんでしたか?」

「あら? いい男ね、どう? うちで一杯」

「それはまたの機会に。それよりもエルフのほうなんですが……」

「ああ、ごめんなさい。赤い髪のエルフ、ねえ……。ちょっと見てないわ。

 ただ、さっきあっちのほうで揉め事があったみたいよ。人が集まってたから見た人がいるかも」

「ありがとうございます」


 取り合えず、手近にいた女性に話しかけるが、微妙な返事。つーか、あなたのお店に行こうにもお金がすられてます。

 後お酒は二十歳(はたち)になってから。異世界だけど。


『で、行くのかの?』

「まあ、いかないよりましだろ。途中で聞き込みしながらさ」

『なるほどの。ところで、気になってたんじゃが、あのすりを見つけてどうするのじゃ?』

「どうするって? 財布返してもらうんだけど?」

『盗みは犯罪じゃ。故に、大人しく返せといっても返すわけがなかろう。

 盗人は、その規模にもよるが、捕まれば鞭打ちの上追放じゃ。特に、相手は被差別種族のハーフエルフ。誰も助けんじゃろうな。

 さらに盗む、と言うことは、それなりに理由があるから盗むのじゃろう。他に生きていく手がない、とかの。

 さて、主。これらを踏まえて聞くぞ。見つけて、どうするのじゃ?』

「う……」


 そういわれると、どうすればいいのかわからない。

 子供が鞭打ちの上追放などされれば、生きていけるはずがない。つうか、突き出したらこっちも捕まる。何せ天下ごめんのお尋ね者だ。

 なら、返してくれれば突き出さない、と交渉するべきか? それはいい気がする。(もっと)も、これはこの先彼がまたすりを働くことを許容し、また捕まるリスクを負うと言うことだ。

 ではどうするか? 盗まないと生活できないと言うのなら、いっそ引き取って面倒を見ると言う手がある。

 これならば、盗まずに生活ができるんだから、罪を犯したりはしないはずだ……って、そんな金もないし、一人くらいならどうにかなるとしても、この先似た様な境遇の人にあったら全部引き取る気か!? 絶対に無理!


「どうしよう」

『……決まっておらんのか』

「ああ」


 そうしようもないと思うが、決まってないのだから仕方がないのだ。


「取り合えず、見つけよう、それから考える。突き出さないって言うか、突き出せないんだから、それを説明すれば相談くらいはできるかもしれない」

『……甘いのう。ま、主がそう決めたのなら従うだけじゃ』





 ◆ ◇ ◆





「それで、そのエルフなんですが」

「ああ、見た見た。可哀想に、ベルゼっていうこのあたりのまとめ役ともめちゃってねぇ。連れて行かれちゃったんだよ」

「それは、どういう」

「ベルゼは裏奴隷商なんだ。だからあの子も今頃は奴隷の焼印を押されてるんじゃないかな。まあ、ハーフエルフみたいだし、仕方ないっちゃ仕方ないけどね。

 君も、アレとどんな縁があるかは知らないけど、身が惜しいなら関わらないほうがいいよ。じゃ」


 男性はそそくさと去って言った。多分、話したことで誰かに目をつけられたくなかったのだろう。

 だが、俺は。


「見捨てられるわけ、ないだろ……!」


 ただぶつかっただけで奴隷? ふざけるな。

 ぐあー、スランプだー! って早っ!? スランプに陥るの早っ!?


 あ、PV18000オーバー、ユニークアクセス3000オーバーありがとうございます。お気に入りも40件を超えていてびっくりです。

 よし、この声援を受けて、スランプから脱出するんだ俺……!


 取り合えず、この話に奴隷や暴行と言う存在がピックアップされています。読者様によっては、気分が悪くなるかもしれません。

 が、こういう闇の部分も扱ってこそのファンタジーだと思いますので、出来れば御了承いただきたく思います。


 以下いつもの。


●奴隷

 人権のない人々。主に仕え、主の道具として仕事を押し付けられる。

 大抵は戦犯や重犯罪者への刑罰として使われる。公において、これを認めている国、いない国がある。エルメンライヒ王国は認めている。

 道具であり、人権なんてないから、どのように扱われても文句はいえないが、そもそも奴隷の購入はとても高いので、その意味ではそれなりに大切に扱われることが多い。

 車を買ったから、その車をどんだけ乱暴に扱おうが壊そうが、そんなのは持ち主の自由だけど、普通やらないっしょ?っていうのと同じ。

 奴隷は、その証明として二の腕に焼印を押され、これを隠すことが許されない。隠していたことが発覚した場合、身分査証で重罪となる。


 ちなみに、違法奴隷も存在する。

 違法奴隷は、本来特殊な立場の人間を除いて奴隷にされないはずなのに、そこいらの人間を捕まえ、無理やり奴隷にしている。明確に違法なのだが、焼印を押されてしまえば区別がつかないので訴えるのが難しい。



●奴隷保護法

 奴隷を守る法律。といっても、人権を守るものではない。

 要は、「この奴隷はきちんと主がいるので、主じゃない人が傷つけたら器物破損で裁きますよ」と言う法律。

 元々人権がない奴隷なので、この法律があることで、主以外からの暴力を回避できるようになる。そのため、奴隷制がない国でも制定されている。

 主のいる証明に、奴隷は専用の首輪をつけることになっている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ