第四話 実技試験の影 後編
義浄と別れ試験会場中央に向かった成咲は、他の試験者の動きを観察していた。
「ほとんどの人が気づいてないが、数人は何かしらの異変を感じとっているよう___ッ」
成咲は後方から聞こえてくる発砲音に一瞬身構えるが、すぐに自分に向けてでは無いと理解した。
「発砲音…想定より厄介そうだな」
実験試験のルールには銃火器の使用は禁止と説明があった。
理由は、主に身体能力と言うの部分にフォーカスを当てている為、銃火器よりも近づいて肉弾戦させるような試験内容になっている。
そのため、先程の様な発砲音がするはずがない。
いや、それを言うならば試験開始と同時に、手榴弾を使用する事も出来ないはず。
「……面倒臭い事になりそうだな、それより学園側の警備隊はまだ来ないのか? …居ないなんて言葉ないだろうし」
成咲は警戒を怠ること無く、会場中央へ向かおうとした時…ほかの試験者が目の前に立ちはだかった。
「どうした? 俺は点数パネルを持ってないぞ?」
点数パネルとは、試験会場にて悪さをしているという設定の偽テロリスト達が所持しているものだ。
偽テロリストの攻略難易度によって点数の大きさが変わる。
「嘘つけ! 俺はずっと見てたんだ、点数の高いテロリストをお前が次々に倒していくのを!」
成咲は目の前にいる試験者の狙いがなんとなくは分かっていたが、つい先程の発言で目的がはっきりした。
「点数の略奪か?」
「分かってるなら話が早い。今、ここで点数を渡すなら乱暴はしないでやる。おっと、抵抗するなんて言うなよ? こっちは五人、そっちは一人、あんたがいくら強くても数的有利は揺るがないのは分かるだろ?」
試験者達は成咲を脅すかのように、話しをするがその声は自信がなく震えているようだった。
偽テロリストを制圧した際にその人物が持つ点数パネルを控える必要があり、その控えの点数が試験試験の点数評価になる。
が、忘れてはいけないのは根本として生徒達から表を得られなければいくら点が良くても土台にすら立つことが出来ないということを。
成咲から見れば自身の前に立つ五人の試験者達のように点数のみに目がくれる人間など、鼻から敵では無いのだ。
「……そうか、しかし忘れてはいけない事がひとつある。五人と言う人数は消して多くはなく、そして争いの種にもなりやすいと言うことを」
成咲はドローンがやってくるのを待ってから話し出した。
「今から、君達五人には争ってもらう」
成咲の突然の言葉に困惑の表情を浮かべる。
「勝った者に、私が持つ点数の四分の三を渡してやる。もちろん、ほか四人の点数パネルも持っていくと良い」
誘惑の言葉に五人全員が生唾を飲む。
「やるか? ……返事が無いのは肯定の証。
私が手を叩いたらゲームスタートだ」
両手を構える成咲。
「……あっ、ひとつ忘れていた。合図と同時に私を倒そうとするのも別に構わないからな? ……まぁその場合私の点数は五等分になってしまうがね。……さぁ! スタートだ」
成咲は言いたいことを言い終えると、両手を合わせて音を鳴らした。
合図がなると、試験者達五人は成咲では無く自身と成咲を抜いた他の四人を狙いだした。
「……ふっ、醜いな」
成咲の作戦通りだった。
点数に固執し早急に作られたチームの崩壊は簡単。
本来の目的より、獲得できる点数が多くなる可能性が少しでもあるならそれを掴み取ろうとするのは、賭け心を持つものなら理に近い。
点数が欲しい、欲まみれの試験者達にはよく効く策だった。
「カメラは……あそこか」
ドローンに向かって、お辞儀をする成咲。
その行動に観戦していた学生は興奮し、教師達は困惑していた。
このお辞儀という行為は、成咲の"ゲームマスター"としての性なのだ。
「さて、こいつらは放置で良いか」
成咲は争っている試験者達を放置して、ようやく会場中央に向かう事ができた。
会場中央に到着すると、既に戦闘が激化していた。
偽テロリストと試験者達の戦闘、試験者同士の戦闘、そして、それを建物の上から眺めている黒い衣類を身にまとった謎の人物達。
「あれ、怪しすぎるだろ。さて目的にはあそこだな……っとその前に、隠してたパネルを回収しておこう」
ビルの中荒廃したオフィスの中に隠していた点数パネルを回収してから、成咲はビル屋上にいた。怪しい人影に接近する。
「いやぁ、今年の馬鹿はなかなか残酷ですね」
「あぁ、でも今回の方が人間らしくて俺は好きだな」
「ですね、でも良いんですか? 竜宮城を潰すなんてことして」
「知らないよ、俺達は言われた事を守るだけだ。それに指示に従う限り俺達の安全は保証されて___ッ!」
話していた黒ずくめの男達の一人が発砲音と同時に前に倒れ、下に落ちていった。
「___ッ! 襲撃だ!」
発砲した犯人は成咲だった。
ビルを登っている際中孤立した、一人の男を制圧し、スプレー缶から簡易的なサプレッサーを作成していた。
「竜宮城に危機が迫ってるのは、どうやら本当らしいな」
疑っていた訳では無いが、実際に見聞きするまではそれが正しいのか分からないのは事実。
「さて……一…二………七人か、弾は十発か。
なら行けるな」
成咲は敵の人数の一旦の配置、残打数を確認し待機する。
自分達の後ろから射撃された為、黒ずくめの奴ら七人のうち二人が成咲の方に向かって歩き出した。
タイミングを伺い、成咲は息を潜める。
「おい、確かこっちの方から弾が飛んできたはず」
「銃火器の使用が禁止されてるんだから……考えたくないが裏切り者がいるとしか」
「おい! 冗談でもそんなこと言う___ッか!」
十分な距離まで近づいてきたのを確認し、成咲は姿を表す。
次の瞬間には二人のうち一人の腹に膝を入れ、盾にする体制をとる。
「___ッ! 何者だ!」
「ただの試験者だよ。それより君達の目的は何かな?」
成咲がもう問いかけると、待機していた残りの五人のうちひとりが大きな声で指示を出した。
「バレてしまった以上仕方ない、そいつを排除しろ!」
「待ったく、血の気が多い人達だ」
お互いの弾がぶつかり合い開始の合図が上がる。
成咲VS六人の戦いが始まった。
黒ずくめの奴らは三、三。
前後衛に別れ即興で戦略を立てていた。
成咲は黒ずくめの一人を肉壁にし後衛の攻撃を防ぎながら近接戦闘を器用にこなした。
「なんだこいつッ! 全く隙がねぇ」
「それよりも、何だこの動き! ひとり盾にして出来る動きじゃないだろ!」
「無駄話をするな、今は集___ッ……」
守る事に徹底していた成咲は攻撃を捌く動きから、敵を仕留める動きにシフトした。
拳銃で相手の足を狙い、既に死体と化した肉壁を回転させその拳で攻撃させる。
成咲は回転している肉壁に身を隠しながら、後衛陣営に向かって発砲をし、三人のうち二人を殺害した。
残りのひとりは成咲の動きを真似て、仲間の死体を肉壁にし何とか生き残ることが出来ていた。
一人やられ、二人になった近接班はこのままでは全滅してしまうことを悟ったのか、身にまとっていたコートを脱ぎ捨て、体に巻き付けられた爆弾を露わにし成咲に向かって走る。
「おいおい、マジかよ」
決死の自爆特攻に成咲も動揺を隠せなかったが成咲はあえてひとつの賭け出た。
それは、自分の後ろに倒れている死体の爆弾を爆発させることだった。
「……今だ!」
爆発の影響が出るであろう推定ポイントに二人組がやって来るのを確認し、成咲は死体の爆弾を爆発させた。
会場全体に大きな爆発が轟いた。
「なんだ!」「これも、シナリオなのか」
「いや! 違う! 建物が崩壊するぞー! 避難しろー」
会場中央にそびえ立ついちばん大きく高い建物の頂上で大爆発が起き、落下してくる瓦礫から逃げ惑う試験者達。
「どういうことです」
「さっき言っただろ? とんでもないゲームマスターが居るって、きっと命をかけたゲームを開いてるんだろう」
この爆発音は義浄達にも届いていた。
「落下ポイント確認ッ! 合わせなきゃ死ぬ」
成咲は空中に投げ出されていた。
落下ポイントと称した場所には、藁が浮かんでいる池だった。
その池は事前に成咲がトンファーを使い水深を確かめ、藁を浮かばせていたのだ。
成咲はその池目掛けて落下するしか他なかった。
成咲は爆発を起こす直前に着用しているジャージの事を思い出した。
学園側が用意したジャージは、死人や怪我人が出ないよう、防火対策等がされていた。
その為、成咲はジャージで爆発と爆風を受け止め爆発上空まで飛び上がっていたという訳だ。
しかし問題は着水だった。
いくら藁を浮かばせているとは言えかなりの高さから水中に落下するというのは中々危険が伴うことでもある。
だが、成咲はそんな危機的状況で笑っていた。
そう、成咲の中に潜んでいた勝負師の精神が微笑んでいたのだ。
特に生死を掛けた命のやりとりが。
今の状況はまさにその生死を掛けた賭け。
成咲の賭け心が疼いていた。
空中でバランスを取り、なるべく直線になるようにする。
成咲が微笑む時、それは圧倒的自信を表しておりその笑みは敵味方関係なく死の微笑みと言われていた。
「行ける! この角度…勢い……死ぬ事はない」
勝ちを確信した成咲は最後まで油断はしないが、周囲の様子を確認出来るほどの余裕は生まれていた。
成咲も一人の人間だ、焦りや不安を感じる事はある、だがその感情を自信に変えられた時、成咲はどんな奴よりも強くなる。
今の成咲にはそれがあった。
「はぁ……はぁ……どうだ? ご自慢の舞台がなまくら一本しか持たない、試験者に負けた気分は」
「うぅぅ……こんな事が…聞いてないぞ」
「竜宮城を攻めてくるくらいなのにそこは知らないんだな。可哀想だ」
義浄は戦闘を終わらせ、死体を漁り出した。
支給品の刀はもはや刀としての機能を失っており、武器がない状態。
故に死体から武器を探し出すのは仕方がない事なのだ。
「死体から武器を取る事になるとは……普段なら証拠品として回収するべきなんだがなぁ。なんか…気が引ける」
義浄は警察としての立場、血が騒ぎだしそうになるが、自分に仕方ない事と言い聞かせていた。
「……まさか、こんな試験者がいるとは」
「今年は、過去最大の人数らしいからな、ひとりやふたりこういうのがいてもおかしくないだろう」
義浄はかろうじて意識を保っている、黒ずくめのリーダーと話しながら作業を進める。
「なぜ、すぐにトドメを刺さない……今、無線を入れる…事も出来るんだぞ」
「それをされてもいいように武器を探してるんだ。それに……できるなら人は殺したくない。あまり気持ちの良いものじゃないからな」
潜入捜査、侵入者、攻撃を仕掛けられた。
この事実はあるが義浄の中にある正義の心がストッパー担っていた。
「そうか…だか、後悔するぞ……殺さなくていいなら殺さない……それじゃダメだ……俺達に手を出したんだ、殺さなくていいとしても殺さざる得ない時が……」
最後の最後まで話続け、黒ずくめのリーダーは息を引き取った。
「ご忠告ありがとう。がだ、殺す事は出来るから安心しろ、俺は俺のやり方で、俺の正義を押し通す」
義浄は何処か覚悟を決めた表情を露わにし、成咲の元へ向かう準備をする。
拳銃にナイフを二セットづつ所持し、分け与えられるようにし、成咲が居るはずの実験試験会場中央に向かって足を動かした。
義浄は自分のかけていくその姿を監視している謎の影に気付くことはなかった。
会場中央に着くと、その悲惨な光景を目の当たりにする。
瓦礫によってぐしゃぐしゃにされた会場や偽テロリスト、試験者の死体……まるでここで本当の殺し合いが行われているのではと錯覚してしまいそうになるほど、酷く残酷な景色が広がっていた。
そして、最も義浄の目を奪ったのは、死体から点数プレートを盗む行為をしている、生き残りの試験者達だ。




