第4話 実技試験の影 前編
カウンドダウンが始まる。
「さぁ、行こうかな」
義浄は腰に刀を携えながら扉が開くのを待つ。
「……五……四……三……二……一……開始です」
放送と同時に扉が開き、一斉に試験者達が飛び出す。
「うぉぉぉお!」「行くぞー!」
「やっちまうぞ!」「全員俺の得点だー!」
野蛮な声が聞こえるのと同時に、また別の声が響き渡った。
「死ねぇぇぇぇ!」
一人の試験者が叫びながら他の試験者達に向かって、手榴弾を投げる姿が確認できた。
「マジかよ……!」
義浄は瞬時に方向転換し、手榴弾の元へ走り出す。
その行動に気づいた成咲は手榴弾を投げた試験者の確保に向かった。
「星霧……龍の並木!」
刀を構え、独自の流派 願星流の技を繰り出す。
願星流は義浄の愛刀、願星刀に合わせて生み出した型である。
元々は宮津家の流派、ツバメを主に使っていたが師匠の死と愛刀の存在により今は、義浄よ中にも世の中からも忘れ去られた流派になってしまった。
「___ッ! 何ッ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
義浄の技により反された手榴弾は見事に投げた本人に当たり血まみれのまま脱落していった。
「……これマイナスになったりしないよな? …急いで挽回しよう」
義浄は早くもグレーだと思われる行動をし、急いでステージ中央に向かって走り出した。
それを見ていた学生、教員の反応はと言うとそれはそれは歓喜の声に包まれていた。
「あの人かっこいいね」「うん、危険を顧みず他の試験者さん達を守る……かっこいい」
「おいおい、見たかアレ!」「当たり前だろ、見たことない剣術だったぞ」
生徒の中ではこんな声が、
「……確かに、他の試験者達への妨害行為等についてルールや規則はないが、まさかこんな動きをする奴がいるとは」
「正直想定外ですね」
「それに、試験者番号 二万八千がいなかったらもっと被害が大きくなるところでした」
「あぁ、だがあの二万八千一番の動きもなかなか良かったぞ」
「えっ、そうなんですか?」
「二万八千番が手榴弾を跳ね返す前に、八十七番の試験者を取り押さえに行ったんだ。
そして手榴弾の跳ね返し先を確認して、場を離れた……判断能力と危機察知能力に相当長けた人なのだろう」
教員室ではこんな会話が成されていた。
そんな会話がされている事も知らない義浄は、マイナス点分を取り返そうと試験に望んでいた。
「はぁ…はぁ、さすがに広い土地を走り回るのは骨が折れるな……」
義浄は試験用の偽テロリストを制圧し、少し休憩をしている時に……事件は起こった。
実技試験会場の至る所から爆発音が響いたのだ。
ビルや山、道等至る所が一斉に破壊された。
他の試験者達はステージ変更だ! と騒いでいたが、観戦用のドローンの動きが明らかに不自然だった。
「……何が起こってる…」
義浄は何か嫌な予感を察知する。
「……おい、このドローンは人を一人持ち上げる事は出来るのか? 出来るならカメラを一回下に下げろ」
近くを通りかかったドローンを掴みカメラに向かって、話しかける義浄。
その思わぬ行動に、教員や生徒達は困惑の表情を浮かべつつ、カメラは一回下に下がった。
「わかった、なら俺を持ち上げろ。島全体を見渡せる位置までだ。Noは無し、YESだけだ」
義浄の発している圧により従う事しが出来なくなっていた。
ドローンは義浄を下に吊るしながら上空へ飛んで行く。
その異様な光景に他の試験者、観戦していた生徒、教員達は不思議に思っていた。
生徒達は歓喜の声を再びあげていた。
島全体を見渡せる位置まで上がると、何やら不審な影が迫っているのが確認できた。
「島に向かって侵入者が……あの位置にカメラをズームして」
義浄は海を指して指示を出す。
ズームしたカメラの映像に映った物を見た教員達は、驚愕していた。
「なんだアレは、こんなシナリオは無いぞ!」
「分かりませんよ、この試験番号 二万八千の人が言うように襲撃者の可能性が高いですよ」
「……そんな事あるはずがない。竜宮城に手を出せば、世界各国から標的の的だぞ…そんな危険を犯す奴らがいるか」
「ですが、今島に入っていってる人達は私たちは一切知らないんですよ!」
教員室にて言い争いをしていると、映像から義浄の声が響き渡った。
「これ、誰が見てるんだ? まぁいい、見てる奴が誰かに伝えてくれ。放送で侵入者が入ったと、あくまでもそういう予定だったと……そうすれば余計な騒ぎを起こす事はないだろう」
その後も義浄の的確な指示を教員達は聞き、渋々指示通りに動かざる得なかった。
「さて、ドローンを下げてくれ」
義浄は下に降りる真っ先に侵入者達が居た位置まで走って移動しだした。
ドローンはその姿を逃さまいと最高速度で空を飛び出した。
だが、義浄の異常の身体能力能力に追いつく事が出来なかった。
義浄はドローンが着いてきている事に気づき、あえて撒く形で動いていた。
義浄が目的地に到着すると既にそこには成咲の姿があった。
「成咲! どうしてここに」
「あんな堂々と空飛ぶやつなんてお前しかいないだろ」
成咲は空に上がった義浄が指をさしていたのが確認できた為その方向に向かったとの事だった。
「それで、何があったんだ」
「この島に侵入者が現れたんだ。さっきの会場での爆発も想定外のことっぽいぞ」
「なるほどな……ならむしろ好機かもな」
「どういうことだ?」
「襲撃者を捕らえれば、点数にはならないが別の所でポイントになるだろ?」
成咲は含みのある笑みを浮かべていた。
「とりあえず、俺達は点数を稼ぎつつメインは襲撃者の対応に当たろう」
「あぁ、でもそれ大丈夫なのか?」
「臨機応変に対応するのも、またポイントになるだろう」
「なるほどな、わかった。とりあえず、俺はこの先野良奴らを対応する。成咲は中を頼めるか?」
「了解、一応で言うが気をつけろよ」
「誰に言ってる」
義浄はその場を後にして、海岸線まで向かいだした。
「___ッ!」
発砲音と同時に抜刀し飛んでくる無数の弾丸を切り落としていた。
「なるほど、話し合いの余地は無いって事ね」
姿が確認できない敵を前に義浄は刀を構えた。
「迷彩か……厄介な」
義浄は相手が動くまで何もすることが出来ない。
たが、気配を感じると複数人が自信を囲んでいるのがわかる。
ゆっくりと義浄の周りを囲んでいく。
ドローンは何とか義浄を発見してその上空を飛んでいた。
「何してるの?」「わかんない、突然刀を振るったと思ったら急に大人しくなるんだもん」
観戦している生徒は頭に疑問符を浮かべていた。
「私たちの邪魔を鋭いのかい?」
突然、何処かから声をかけられる。
「姿が確認できないと誰かも分からないけどね」
「そんなことは関係ない、邪魔してるという事実は変わらないからな」
「先に邪魔してるのはどっちだい? こっちは大事な試験途中なんだが?」
義浄は落ち着いた様子で話す。
「確かにそうかもしれないな。でも、もし私たちの計画に合わせてこの試験が行われていたとしたらどうする?」
「……仮にそうだとしても、俺達には何関係はない」
義浄の言葉を聞いた誰かは、声高らかに笑い声をあげ、言い放った。
「なら、ここで誰にも知られず死んで行ったとしても何も問題はないな!」
その言葉を皮切りに無数の発砲音が響いた
「お前ら!急げ!」
義浄が潜入捜査をしている間義浄が所属している、特殊事件対策科本部では何やら混沌に包まれていた。
「一体どういうことなんだ……なんで、システムが何も機能しないんだ!」
「佐々木さん、落ち着いてください」
「落ち着いてられるか、何もかも使えないんだぞ! 監視カメラの映像も今までのデータも何も確認できなんだ! それだけならまだしも……今の状況を考えると……」
佐々木警部がこんなに必死になっているのには理由があった。
義浄達が竜宮城に到着した時から起こっていた。
内容はシンプルなものだった、同僚の汚職とギャングによる襲撃が重なった事だった。
汚職も襲撃も全くない訳ではない為それだけはここまで慌てる事はないが、汚職をしたのは一人の警官……だけではなく、"警察全体"で起こっていたと言うのが問題だった。
特殊事件対策科は、様々な情報を取り扱っている事から外部の科や部署から全くの接触を絶ってる特殊な部署。
だからこそ、警察全体の汚職に気づく事が出来なかったのと同時に、汚職をする者が居なかったという救いがあった。
「システムの完全遮断……扉も開かず監禁状態…………黒そのものじゃないか」
特殊事件対策科に属する全ての人達は監禁されてしまっていた。
食料も着々と減っていく些細な変化といえど、その光景は少しづつ、精神を減らす材料にはもってこいだった。
「みんな、まだまだシステムロックの解除には時間が掛かると思うが耐えてくれ」
これが昨日の出来事。
次の日になると、より精神はすり減らされていた。
「はぁ……どうすればいいんだ」
「……扉を破壊するというのはどうでしょうか!」
「馬鹿言え、そんなの無理だ。あの扉を壊せる道具は一つだけだ」
「なら、それを使えばいいのでは?」
「願星刀をか?」
「あっ……先輩…ちょっとタイミングが悪いですよ」
願星刀でしか壊せない扉。
願星刀は特殊事件対策科の一番奥の部屋にしまってある。
その部屋は、義浄にしか開ける事が出来ない。
そして、願星刀を鞘から抜く事が出来るのは義浄だけだという事。
様々な要因が重なり、ゆういつの脱出方法は無に帰る。
「いや、むしろタイミングは良かったんだ」
「どういう事ですか?」
「正義陣営で一番強い男が居なくなるのを、分かっていたんだ……そして、その隙を突いてきたんだ」
「そんな…なんでそんな」
「知るかよ、警察全体が黒なんだから理由なんて分かるわけないだろ」
佐々木警部はコーヒーを一気飲みして、カップを机に叩きつけた。
「願星刀があれば、こんなヤツら一瞬なのにな……」
「いいですね、他の試験者に比べて遥かに骨かあるじゃないか」
義浄は支給されたなまくらの刀一本で無数の弾丸を切り落とし、その発砲位置から何とか敵の位置を割り出し着々と切り伏せていくが、それでも限界がある。
言い方を変えよう、義浄が使っている支給品の刀に限界が来ていた。
刀身にはヒビが入り、切れ味も落ちてきている。
相手の攻撃が当たる事は無いが義浄の攻撃も意味を成してなかった。
「流石に数が多いんじゃないか?」
「当たり前でしょ? それに、既に中に部下が侵入してますからここを乗り越えても意味はないですよ?」
「そうか……ならそいつらは気の毒だな」
「どういう事___ッ!」
義浄は相手の一瞬の油断を突き、迷彩装置を破壊する。
「ようやく、姿を表したか」
「痛ってぇな…………何しやがる」
「言葉遣いがブレてるぞ。それに、さっきの発言はそのままだぞ?」
相手はなまくらとは言え、刀で肩を突き刺された事により失血していた。
「どういう事でしょう?」
「会場の中央には、俺よりも慈悲は無い。とっても凶暴なゲームマスターがいるんだ……下手すれば俺も手に負えないかもしれない程にね」
不敵な笑顔を浮かべる義浄。
「何を言って___っ!」
姿を表した男が話し切る前に、会場中央から今日一大きな爆発が起こった。
「あらら、また派手にやってやがる」
「どういうことです」
「さっき言っただろ? とんでもないゲームマスターが居るって、きっと命をかけたゲームを開いてるんだろう」
「……時間をかけている暇はないようですね」
「うーん、俺としてはもう少し時間を稼ぎたいところなんだけどねぇ」
義浄は壊れかけの刀を構えて言う。
「……あっちは大丈夫そうだな。まぁ、あいつが負ける事なんてそうそう無いか……というか、
俺以外に殺されるなんて…"絶対に許さない"」




