第3話 立場とは 後編
朝日が昇り、竜宮内を明るく照らした。
「……さて、いよいよだな」
「そうだな。まぁ何とかなるだろう、
それと____」
身支度をしながら話をしていると、部屋の扉が開き朝食のワゴンが運ばれてきた。
「話はあとだ、先に朝食を取るぞ」
「分かった、だが気をつけろよ。昨日の件でたま襲われるかもしれんからな」
「…朝イチから襲われるのは、少しカロリーが高いな」
ふたりは朝食の配膳が終わるのを待ち、朝食をとる。
三十分間、丁寧に食事をし身支度を完璧に仕上げる。
紺色のスーツに身を包む義浄、黒スーツにロングコートを纏う成咲。
「あっ、ひとつ言い忘れていた事があった」
「…なんだ?」
「試験内容に防犯訓練的なものもあるらしい。今朝連絡があった」
実習試験の中に防犯対策実技試験があるらしく、これに関しては当日突然予告されるシステムらしく、知識は身につける、体術・戦闘術、体の使い方は才能と考えられているよう。
「生まれ持った肉体より強くなる事は出来ない。肉体が弱ければ、いくら練を積んでも意味が無い……って事らしいぞ?」
「理解できるが、そこだけ聞くと宗教みたいだな」
「まぁ、仕方ない事だ。実技試験は問題ないだろうが、一応伝えておこうとな」
「そうか。そうだ、こいつを持っとけ」
成咲はスーツケースの中から、五センチ尺の筒型の機器を取り出し義浄に渡す。
「…これは?」
「昨日使った刀だ。ボタンを押すと中から刀が飛び出す仕組みになっている」
「そいつは良い。俺達の組織にも導入来て欲しいよ」
「……対策科には必要ないだろ」
準備を済ませて、零一号室を出る。
昨夜色々あった廊下を通り、エレベーターを使いエントランスへ。
スタッフにやる外出チェックを済ませて、タクシーに乗り___
「……タクシーは?」
「……………とれてなかった」
「…馬鹿なん?」
昨日と同じミスを犯した義浄に呆れている様子の成咲は通行人の邪魔にならないように、歩き出した。
「とりあえず、何か目的地にしてそこにタクシーを呼べ」
「……すまん」
「ったく。今日という肝心な日に幸先が悪すぎるだろうに」
潜入捜査出来るのかどうかが掛かった、重要な日だと言うのに良いスタートが切ることが出来なかった。
義浄のことを横目で確認してから成咲は、スタスタと歩き出した。
タクシーに乗り込むとドライバーが二人に声をかけた。
「お二人も教員試験を受けに?」
「えぇ、今回は初めての挑戦なので緊張してますが」
「あっ、初挑戦の方達ですか。いやぁそんな人にこんな事言うのはアレですが、今年は過去最大の人数が集まっているらしいですよ?」
タクシードライバーは笑いながら話し出した。
「私もね、今日車を走らせてからまだ二時間しか経ってませんが、もう三十回くらい教員志望の方とお話しましてね?
皆さん言うんですよ、今年こそは! って意気込むんですけどね、過去最大の人数だって聞いた途端皆さんすぼんでしまうんですよ」
どこで息をしてるのか分からない程の分量で、
話をし続けるドライバーに相槌をうつ義浄は、時折質問などをして、さらに話を広げようとしていた。
その光景をただ眺めているだけの成咲。
しばらくすると学園の門が見え始めてきた。
「あっ! あれあれ、あれですよ。あの門が学園になります」
「へー! あんなに大きいんですね、実物は初めてなのでびっくりしましたよ!」
タクシーを停めて門に向かって足を進める。
そんなふたりの背中を見つめていたタクシードライバーは大きな声で、応援してくれていた。
だが、その言葉は周囲のざわめきにより二人に届くことは無かった。
「既に人が多いな」
「過去最大の人数って話だか、さすがに多すぎるな」
ふたりは歩きで門に向かっているが、周りにいるほとんどの人が走って門まだ向かっている。
さっきのタクシードライバーの話であったのだが、試験に関する噂話の中に、難易度という話があるらしい。
この噂は、簡単に言えば試験を受ける順番が遅くなればなるほど試験が難しくなるという話らしい、その理由として時間を大切にしているから、そのような制度があるのではと、話が広がった事から始まったらしい。
自分達とは異なり、ゆっくり歩いている成咲達を見て余裕そうな表情を浮かべる人達がほとんど。
「それほど、自信が無いのかね」
「さぁね、まぁ俺達が注目されるのも分かるけどな」
「…他の試験者は必死こいて走ってるのに歩いてるのは俺達と生徒達だけ、全員から注目の的か」
先に門に到着し、試験番号を受け取った者達は門に走ってく人達を嘲笑いながら話をしている。
成咲は周囲を見渡すと、生徒達はこの事実をあまよく思っていない様子だった。
聞こえてくる声の中には、
「今のうちにあそこにいる人達の顔覚えておこう」
「そうだね、あんな感じの人は一緒に過ごしたくないしね」
「なぁなぁ、あそこにいる女の人真面目に勉強してるぞ!」
「ん? 本当だ」「俺、あの人に票入れて告白するわ」
等々の声がうっすら聞こえてくる。
「……人間を出しすぎるのはダメだな」
二人が門に到着する事には番号は2万を超えていた。
義浄の試験は二万八千ピッタリ、
成咲はその次の番である二万八千一番だ。
「……わざわざ聞くことでは無いだろうが、二万人終わるまで待機って事だよな?」
「うん、そのはずだよ……何が言いたいかはさすがにわかる…長いよな」
「はぁ、とりあえず部屋に行こう。ここに居てもいい事ない」
「分かった」
試験番号で一喜一憂している他の試験者達を他所にふたりは会場控え室に向かった。
ふたりが部屋に着くとまだ誰も居なかった。
「あんだけ人いて、俺達が一番か」
「時間厳守どうのこうのの前に、まずマナーをしっかりした方がいいと思ってしまうな」
ふたりは隣通しで座り時間が来るのを待つ。
時間が迫ると着々の他の試験者が席についていく。
時間が来ると監督者が入ってきて説明を始めた。
「最初は筆記による試験です。今から用紙を配ります」
淡々と仕事をこなしていく様子を見て流石、プロだなと関心を受ける。
試験用紙が配られている間、他の試験者達からコソコソ話し声が聞こえた。
「…なぁ、どうしよう。説明の後に時間があると思ってたから勉強してないよ」
という声や
「大丈夫…大丈夫……俺ならできる」
という鼓舞する声等が聞こえる。
監督者もその声には気づいているようだが、何も言わずに放置している……と思ったつぎの瞬間、バインダーに何かを記入し始めた。
「試験時間は五十分。自身の力を最大限引き出せるように頑張ってください。それでは! ……開始!」
タイマーがスタートすると、試験者達は一斉に用紙をめくり出す。
部屋に響くのは紙を捲る音やペンが走る音のみ。
その中で成咲はほかよりもワンテンポ遅れて試験に取り組んだ。
これは消して、不正行為を働こうとしているのではなく、成咲自身に染み付いてしまっている癖だ。
だが成咲は少し遅れてからのスタートだと言うのに、次々と問題を解いていき他の試験者達と既に並んでいた。
一方で義浄はと言うと、生徒達が観戦出来るように設置されているカメラの位置を確認して、ファンサービスの様な動きをしてから成咲同様ワンテンポ遅れて試験に取り組んでいた。
ペースは成咲よりも少し遅いくらいだが、他の試験者達に比べれば圧倒的なスピードだった。
試験時間は五十分。
成咲は試験の半分を残してペンを置いた。
義浄はその五分後、試験開始から三十分経った頃にペンを置いた。
ペンを置く時の音が室内に響き渡り、監督者も試験者も思わずその音がする方を確認してしまう。
二人のその行動に周りの試験者達は焦りを感じ、ペースを乱しながら試験に取り組んでいた。
成咲は首をかく振りをして無線を使い義浄と連絡をとる。
義浄は腕を組み無線の電源を入れた。
〈義浄、どうだ〉
〈問題ない、カメラにアピールもしといたから追加点があるだろうな〉
〈生徒に媚び売りって事か、まぁそれも手かもしれないがやり過ぎは気をつけろよ〉
〈わかってるよ〉
ふたりは互いの事について少し話をした。
その後、試験が終わり監督者が試験用紙を回収していく。
「……そんなに酷い結果だったのか」
成咲は部屋を出てつぎの部屋に向かう際に周り試験者の様子を見てみると、絶望の表情を浮かべていた。
「国に雇われてる俺が言う事じゃないが、こりゃ採用だな」
「馬鹿、実技試験で巻き返される事もあるだろ」
「実技が出来ても意味無い気が……」
義浄の言葉を遮って、成咲は話し出した。
「何言ってんだ、さっきのタクシードライバーも言ってただろ?
この学校には由緒正しい家系の人達が何人かいると、だから教員になれなかったとしてもそういった所で働く可能性もあるって」
つまり、何が言いたいのかと言うと、頭は悪いが身体能力は高い、場合その由緒正しい家系のボディガードとして雇われる可能性がある。
もちろん、頭も良い、身体能力も高いとなっても場合によればボディガードとして雇われる可能性がある。
だが、筆記点数、実技試験 点数、生徒票。
これら三点の評価が、最高ランクの評価を受けた場合に限り、確定で教員になれるらしい。
その場合は人数の制限を設けないようになってるようだ。
教員採用は五名、最高ランクを受けたものが十人なら、十人全員が採用されつつ、元々の採用人数の五人も別で採用されるシステムらしい。
「だから、俺達は出来るだけ高い評価を受けるために油断しちゃいけないんだよ」
成咲は義浄の手綱を引くように、注意する。
「確かにそんな事も言ってたな。仕方ない…っとここだ」
控え室にたどり着くと、既に先程とは別の監督者が立っており説明と指示を受けた。
「こちらのロッカーに荷物を預けて、鍵はこちらにお願いします」
「わかりました」
「用意が出来ましたら、こちらの紙に書いてある部屋番まで向かって頂き、専用の衣服に着替えて頂き、実技試験の開始になります」
「わかりました」
ふたりはロッカーに荷物と、成咲はコートを収納した。
鍵は個別に設置されている箱に入れ指紋を読み込ませる。
「さて、行くか」
「あぁ」
ふたりは部屋を出るタイミングで、他の試験者達が中に入ってきた。
ふたりと入れ違いになった他の試験者達はどこか焦っている様子であった。
ふたりはそれぞれ用意された番号の部屋に入り着替えを済ました。
〈成咲、この無線一度取り外すか?〉
〈そうだな、最悪お前となら私は完璧に合わせることが出来るからな。何かあってもそれで何とかなるだろう〉
〈納得〉
無線も外しふたりは各々の部屋で待機していると、部屋に設置してあったテレビに映像が映った。
映像の内容は実技試験の状況説明的な映像だった。
学園にテロリストが攻めて来たところから始まり、犯人を次々と制圧してしくという流れ。
「……テロリストを制圧した数に応じて点数が加算…ゲーム感覚で行われてるようだな」
竜宮城外にある、浮島にある小さめの模型都市ステージの中を駆け巡り点数を稼ぐ。
観戦している生徒達や教員達が飽きないようにしているのかは分からないが、悪趣味と言われればそうかもしれない。
「指定品って………これか?」
使っていい道具は部屋によって指定されている物とステージに散らばっている、転がっている、落ちている物に限り許可されている。
成咲は、一本のトンファーだった。
「これって、普通二本じゃないか? ……まぁいい、本番で回収すれば問題ないな」
映像による説明が終わり。
試験者全員に緊張感が走る。
成咲も義浄も例外ではなく緊張感というのを久しく感じていた。
「ふぅ……ん? 他の試験者へのアタックは禁止されてなかったよな? ……………嫌な予感がするぞ」
成咲は何かを感じながら、スタート口に立つ。
「久しいが何とかなるだろ」




