第3話 立場とは 前編
夜、竜宮城内が静寂に包まれていた。
月明かりは、あいにくの曇りで遮られてしまっていたが、その空間で元気になる影が密かにいる。
パソコンの画面が切り替わり、会議の画面が映る。
「はぁ、また揉め事を起こしたのか」
「申し訳ありません……こうするしか方法が」
「わかってる、仕方ない事だったんだろ? 神田に報告して、くれぐれも気をつけるように。俺はしばらく帰ることが出来ないから気をつけるように」
成咲は急遽開かれた会議にオンラインで参加していた。
「他に何か、報告はあるか?」
「……ひとつ質問いいですか?」
成咲の問に一人の部下が手を挙げる。
「どうした」
「ボスは一体何をしてるんですか?」
「私は今緊急を要する仕事をしてるんだ。会社……いや、私達に関係する事だ」
不信感……とまではいかないが、恐らくボスである成咲に単純な疑問を抱いていたであろう部下達は、成咲の言葉……返答を聞き一気に背筋が伸びる。
「一見大袈裟に聞こえるかもしれ内が、私が今行っている仕事で万が一にもミスを犯したりした場合………私達の首は確実に無いだろう」
淡々、話をしていく成咲。
「だから、神田をまとめ役として指名し私はこの一件に注力しようとしてる訳だ。他に何か質問はあるか?」
成咲の言葉を最後に会議は終了した。
その気配を感じ取ったのか別の部屋から義浄が出てくる。
「そっちも、ちょうど終わったのか」
「あぁ、まさか上層部への報告が会議形式だとは思わなかったがな」
「私は急遽だったが、そっちは毎日だからな苦労するだろう」
義浄と成咲は机を挟んで対面に座る。
机には少ないワインと少ないおつまみが置かれていた。
「まさか、貴様と共にワインを交わす日が来るとはな」
「それはこっちのセリフだ。犯罪者と……ましてや世界的なギャングと来たもんだ。こんなもの映像作品だけだと思っていたよ」
成咲と義浄はグラスで乾杯はせずとも、ふたりでワインを酌み交わした。
何かを話す訳ではなく、ただ無言のまま時を過ごした。
日々の傷を癒す……とまではいかないが薄れさせてくれるこの時間をふたりはただ過ごしていた。
そんな、"優雅"な時間を過ごしているふたりは何か不穏な空気を感じていた。
「……願星刀はどこに?」
「まだ、到着してないが……これならある」
成咲と義浄はグラスを置き立ち上がる。
トランクケースの鍵を開けると、そこから一本の刀と二丁の拳銃を取り出す。
「これは……」
「人生遊戯の最新技術で作り出した刀だ。耐久、切れ味、どれも最高の品だか……残念な事に願星刀には劣るがな」
真っ黒の刀身の刀を義浄に私ながら説明口調では話をする成咲。
「当たり前だ。あれより、強い物はない……それより」
「あぁ、扉を開ける前に覚悟を決めた方がいいな」
ふたりは感覚で分かっていた。
扉の向こうに複数人の殺意が漂っている事を。
「美咲さんに連絡取って、数と配置は確認出来ないのか?」
「いま、部下の責任を取るので手一杯だろう。まぁ私達ならなんら問題はない」
義浄は扉まで近づきいつでも開閉できる準備を整えた。
「開けたら撃てよ?」
「誰に命令してんだ、外さねぇよ」
成咲は扉に向けて銃を構える。
標準はまるで相手の位置を分かっているかのように合わせる。
「……三…二……一!」
成咲の合図と共に扉を開く。
重たく大きな扉が開くと、白いスーツを着用した、"ホテルのウエーター"の様に見受けられる姿をした複数人の男女が立っていた。
「……遅い」
相手が武器を構えるより先に、成咲は発砲する。
その弾丸は確実に頭や弱点を捉えており、すぐに制圧が完了する。
「……変えだ!」
成咲はそう大きな声で叫び、拳銃のマガジンを入れ替える。
それと同時に、扉の脇に隠れていた伏兵が飛び出してくる。
「___ッ! う゛わぁぁ……」
成咲に向かって一直線に走っていく伏兵達は、扉の開閉の為に隠れていた義浄に気づかず、次々と切り伏せられていく。
発砲の際の破裂音が響きたわる。
が義浄は、甲高い音を立てながら切り落としていく。
「___ックソ」
最後の一人が最後の足掻きとして義浄の眉間を狙い発砲する。
義浄は避けることも切り通すこともせずにただ、ラストの敵に向かって突っ走っていた。
「…ヒッ___」
その光景に恐怖を示す男。
義浄の眉間に弾丸が当たりそうになると、横から飛んできた新たな弾丸によって撃ち落とされる瞬間……義浄は刀を振り下ろし、最後の刺客の身体を切り裂いた。
零一号室の入り口は、鑑賞用に綺麗にされていた等説明しても信じてくれない程汚れていた。
辺りには血液が飛び散り、死体や切り裂かれた衣類が転がっている。
そんな、殺伐とした空間の中で唯一の救いは殺害直後で匂いがまだ悪臭に変わってない事だった。
「……これどうする」
「いつもなら、燃やすなりなんなりする為に回収するんだが……ここじゃそれは出来ないからな」
「血液は拭いて洗うを繰り返すことで最悪何とかなるとして…問題はこの死体の山だな」
成咲は死体の数を数えた。
「…二十五……二十六……全部で二十九か……どうするかな」
死体の数は全部で二十九体。
成咲が二丁の拳銃で二十四人、義浄が刀で五人、合計で二十九人殺していた。
世界一安全な場所で死体を処理する事など出来るはずがない。
一体でも辛いと言うのにそれが約三十耐久ともなれば、殺しのプロと言ってもいい成咲もお手上げだ。
ふたりで頭を悩ませていると、突然義浄が声を上げた。
「あっ!」
「ん? どうした、何か良い策でも思いついたのか?」
「さっき、飯を食べてた時に隠し部屋がある的な事を言ってなかったか?」
義浄が言っているのは廊下の隠し扉の事だろう。
扉も窓も観葉植物もない、ただの長い廊下の壁のどこかに隠し扉があると言う報告を少し前にもらっていたのだ。
「あぁ、確かに話したがそれがどうかしたのか?」
成咲の問に仮説を話だした。
「もし、隠し扉の先に死体を処理出来る場所があったらどうする?」
「……可能性として無いわけじゃないだろうが……」
「よく考えてくれ、仮に俺達がこいつらに殺されたとしてその死体はどこに運ばれる? 廊下には死体を運ぶ為の道具や隠す為のものはない……
二人分の死体なら担いで運ぶ事は可能だが、エレベーターを行くまでには必ず他の客室を通らなければならないだろ?」
義浄の問にそうだな、と返すだけの成咲。
「そうなれば、たまたま見られてしまう可能性もある。ここの宿屋のスタッフがそんな危険を犯すとは思えない、つまりより安全に死体を処理する方法があるといこと」
「…………それが、その隠し扉の先にあると…確かに理にはかなってるが確証もない。それに、一体どんな理由でそんなものを___」
成咲の言葉を遮って義浄が話した。
「この部屋のカードキーを渡される時の説明で、この零一号室は鑑賞用で本来は泊まることが出来ないって説明があったのと同時に、ここ零一号室では、大事な対談が行われる事があるって……話があったろ?」
「…国のお偉いさんが立て続けに交代していくのは、これが理由だと?」
義浄の仮説を聞いた成咲は、無線を使い美咲と連絡を取り出した。
〈美咲、俺達がいる零一号室で対談をした国の偉い奴らを調べあげてくれ。それ同時に…死んだ偉い奴らも調べてくれ〉
〈かしこまりました。急を要しますか?〉
〈あぁ、早急にだ〉
〈わかりました。五分後にこちから無線をかけ直します〉
〈わかった〉
成咲の無線が終わるのを確認した義浄が話しかける。
「何を聞いたんだ」
「お前の仮説が合ってるのかの確認だ……もしその仮説が本当なら、私達はとんでもない事に手を出している事になる」
「そうだな、裏社会を牛耳るあんたですら知らない事件が起こってるわけだからな」
ふたりは美咲からの連絡が間の五分間、何もせずにただ景色を眺めていた。
五分後、美咲からの連絡が入り義浄の仮説が濃厚になりつつあった。
「……仕方ない。廊下の隠し扉を探そう」
「あぁこの死体の山を捨てれるのか、それともより大きな事に繋がるのか…見ものだな」
成咲と義浄は部屋を飛び出し、廊下を見て回る。
壁を触りながら違和感がないか探る。
傍から見れば怪しさ満点だが、そんな事も言ってられない状態な為、必死になって探し出す。
「……さすがに無作為に探すのは、効率が悪いか。美咲に連絡出来ればいいんだが…他で追われてるから仕方ないな」
その後も廊下の隠し扉を探していると、少し離れたところから義浄の声が聞こえた。
「成咲! 見つけたぞ、ここだ!」
「……バレちゃいけないって事、忘れてんのかあいつは」
成咲は声のする方に急いで向かう。
「成咲、ここだ。ここだけ若干材質が違うんだ」
「そうか、それなら__って先に言いたいんだが、もう少し声を落としてくれバレたらどうするんだ」
「……あっ」
「やっぱ、ぽんこつだろコイツ」
義浄に対して呆れかけてる成咲は、壁を触り材質を確認する。
壁を叩いたりして、空間が広がってるのかを確認する。
「…………どうだ? ………だめか? ……ここじゃなかっ___」
「うるさい。今、集中してる所なのが分からないのか? 馬鹿なのか? ……静かにしてろ」
数十秒後、成咲が壁から耳を離した事により確認の作業が終了した。
「恐らくここで、間違いない。他の壁と比べて音が軽い、この先に空間があるのは事実だか……どうやってコイツを開閉するんだ?」
成咲は義浄に尋ねる。
隠し扉を見つけた所で、開く方法が分からないなら意味無い。
だが、義浄は自信満々に懐から中を取り出した。
「恐らく、こいつを使うんだと思う」
義浄は円形のエンブレム? 機械? のような物を取り出した。
「なんだそれ?」
「早急の死体の中にこいつを持ってる奴が居たから、もしかしたらと思って持ってきおいたんだ」
義浄は所持している経緯を説明しながら、謎の物体を壁に押し当てる。
「……ここだ」
何かを描くように円形の物体を動かす義浄。
何をしているのか分からない成咲は、周りから人が来ないか見回りを担当する。
少しすると、義浄の手が止まる。
次の瞬間廊下の壁が青白い光を放ち出した、円形の物体は壁にピタリとハマるように収納されている。
「……なんだこれ」
「階段か…ん? あぁそういう事か」
廊下の隠し扉が開きその先には、下へ続く階段とその脇に死体処理穴と書かれた看板が立てられていた。
「義浄、驚くのは後だ。今は、ここの穴に死体を流すのが先だ」
「……あっ、あぁそうだな」
義浄と成咲は走って零一号室に向かっていく。
約三十の死体をふたりで協力して死体を穴に捨てていく。
部屋とその入口の床を軽く掃除し、再び隠し扉に向かう。
「この、ネオンが光り輝く階段の下には何があるんでしょうかね」
「知らん。見に行くしか方法はない…が、良いか? 忠告しておくぞ。軽く見に行って帰ってくる事だ、わかったな?」
今までの義浄の反応を見て成咲は釘を刺すように注意する。
「わかってるよ、明日の件もあるから流石にね」
「よく分かってるじゃないか、なら行くぞ」
「おう。あっ、足元気をつけろよ」
義浄はそう一言言い残し、階段を先に下って行く。
「……あいつはポンコツなのか有能なのかわからんな…こいつも忘れていくなよ」
成咲は義浄に渡したはずの刀と、義浄が持っていた円形の物体を手に持ちながら義浄の後をゆっくりついて行く。
階段を降りていくと、ネオンライトの数がどんどん増えていく。
義浄の姿はすっかり見えなくなってしまっていた。
「深いな……一回、無線入れておくか」
成咲は義浄の行動に不安を感じ、無線を入れる。
〈義浄、今どこにいる?〉
〈……〉
〈義浄? 返事をしろ!〉
成咲は、返事をしない義浄を心配に思い急いで階段を駆け下りて行った。




