表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/4

第2話 『悩みなし喫茶』とドジっ娘メイド


再び目を覚ました時、自分がカウンターの中に座っていることに気づいた。


木製のバーカウンターからは、ほのかな木の香りが漂う。少し使い古されたカウンターに肘をつくと、歳月が刻んだ跡を感じ取れた。


視線を周囲に向けると、薄暗い光、古風な木製のテーブルと椅子、隅にはいくつかの木箱が積み重ねられている。

右手には手回し式のコーヒーミルが置かれていた。

真鍮色の、レトロなデザインのミルが、光を反射して俺の顔を映し出す。


元のままの顔だ。

無意識に自分の頬をつねってみる。痛みがリアルに伝わってきた。

「…いっつ――」

あらゆる兆候が、ここが普通のカフェであることを示している。

だが、心の中には言いようのない違和感があった。何かが足りないような気がする。


「マスター! 目が覚めましたか!?」

元気いっぱいで、少しそそっかしい声が突然響いた。


考え事をしていたところに声をかけられ、驚いてそちらを見た。

まだ誰かいたのか?


カウンターの外に、黒と白のクラシックなメイド服を着たピンク髪の少女が、モップを持って立っていた。

頬にはまだ埃がたくさんついている。

こちらを見ていることに気づくと、少女はにぱっと、少し間の抜けた笑顔を見せた。


少女は俺が目を覚ましたのを見て、慌てて近づこうとしたが、足元に汚水バケツがあるのを忘れていた。

「きゃっ!」

短く可愛らしい悲鳴と共に、彼女の足は正確に木桶の縁に引っかかった。

バランスを崩し、前のめりにカウンターに向かって倒れ込む!

そのつるりとした額が、硬いカウンターの角と激突寸前だ!


「危ない!」

ほとんど本能的に、目を見開き、思考よりも早く体が動いた。ぐっと身を乗り出す。

電光石火の速さで両腕を伸ばし、前のめりに倒れ込む彼女の体をしっかりと支えた。


少女はまだ状況が飲み込めていないようで、前のめりの姿勢のままだ。

碧眼をぱちぱちと瞬かせ、それから自分が助けられたことに遅れて気づいた。

顔を上げると、すぐ目の前にある俺の顔と視線が合った。


「ふふ、危なかったですぅ」彼女はぺろりと舌を出した。

「マスターのおかげです。アリサ、まだこのお仕事に慣れてなくって」


口元をひくつかせ、黙って手を離す。


改めて周囲を見渡す。このカフェの内装は、知っている現代のカフェとは全く違う。

どちらかというと、普通の18世紀ヨーロッパの田舎町の小さな店といった感じだ!


重厚な木製のドアは固く閉ざされ、窓は曇りガラスで、外のぼんやりとした光の影しか見えない。

店内はがらんとして、いくつかの木製テーブルと椅子があるだけ。

誰も座っていない席が、このカフェの経営不振を物語っている。

いや、テーブルの上は埃だらけだ。これは不振どころじゃない、完全に……廃墟状態じゃないか?


「一体どういう状況なんだよ!?」 心の中で叫ばずにはいられなかった。



♬♬♬



マスター?

二日酔いのような頭痛、目の前の自称「アリサ」というドジなメイド、そしてこの見慣れない環境……

自分の脳が少し過負荷を起こしているのを感じた。


まさか、大型トラックに撥ね飛ばされて、そのまま時空を超えて18世紀にタイムスリップした、なんてことはないよな?


心の中の無数の疑問と、大声でツッコミを入れたい衝動を抑えつける。

ズキズキと痛むこめかみを揉む。そこには邪魔な包帯が数周巻かれていた。

穏やかな口調で尋ねる。

「あの……アリサ、だよね? ここがどこなのか、教えてくれるかな? それと、俺の頭のこれはどうしたんだ?」

自分の頭の包帯を指差した。


アリサはこてんと首を傾げ、人差し指を顎に当てて、真剣に考える表情を見せた。

そして、真相を突き止めたかのような顔になる――「もしかして、マスター、頭、打って悪くなっちゃったんですか?」


彼女はすぐに心配と自責の念に駆られた表情になった。

「大変です! 私たち、お医者さんにかかるお金なんてありませんよ!」

「朝も、もう家賃の催促が来ちゃいました……」

「どうしましょう! 全部アリサのせいです。アリサを助けなければ、マスターの頭も悪くならなかったのに……どうしよう……」

最後にはもう、まともに話せなくなっていた。


俺は慌てなかったが、逆にアリサの方がパニックになっている。


この天然メイドの、俺の頭への「心配」の言葉は無視して、

両手でアリサの両腕を少し強く掴み、無理やり自分の方を向かせた。

「アリサ。落ち着いて。俺は今、大丈夫だ。ただ、いくつか忘れてることがあるだけなんだ」

「ゆっくり話そう、いいかな?」


アリサの混乱した感情は、俺の確固たる眼差しによってすぐに落ち着いた。

「はい、マスター」


「問題を一つずつ解決しよう。もし知っているなら、教えてほしい」

手を離し、アリサと隣の椅子に座る。


「まず、俺の身分は何だ?」


「マスターは、この『悩みなし喫茶』のオーナーです」


頷く。「第二に、アリサ。俺たちはどうやって知り合ったんだ?」


「五日前、私がチンピラに絡まれていたのを、マスターが通りかかって助けてくれて、それで匿ってくれたんです」彼女はそこまで言うと、少し目を潤ませた。


大体察しがついた。「じゃあ、俺の怪我はそのチンピラにやられたのか?」


「そうです。マスター、不意打ちで頭を殴られて、そのまま地面に倒れて……チンピラたちは人殺しで捕まるのを恐れて、みんな逃げて……ううう、全部アリサが役に立たないから……」


「泣くなよアリサ。俺はこうしてピンピンしてるじゃないか」アリサの頭を撫でて慰める。


「それで、どうやって戻ってきたんだ? アリサは道を知らなかったんだろ?」


アリサは流れ落ちた涙を拭い、それでも頷いて答えた。

「隣のお店のメアリーさんです。メアリーさんが市場に買い物に行く途中でそこを通りかかって、私と一緒にマスターをここまで運んでくれたんです」

「私たちがいた場所は、ここからすぐ近くだったんです。メアリーさんが来てくれて本当に良かった。そうでなかったら、アリサどうしたらいいか分からなかったです」


それを聞いて、思わず顔を覆った。

この英雄が美女を救う展開、あまりにもベタすぎやしないか!


さて、今の状況を整理してみるか。


まず明確なのは、俺はアリサが自己紹介するまで、彼女のことを見たこともなければ、知るはずもなかったということだ。

だが、アリサは俺を知っていて、しかも『マスター』と呼ぶ!


つまり、アリサは俺と瓜二つの誰かを知っていて、かなり親しい間柄だからこそ、『マスター』と呼んでいるわけだ。


ということは、結論はこうだ。龍之介は二人いる。


アリサの説明から推測するに、この世界の元々の龍之介は頭を殴られた。

その時は傷を軽視したが、実際には脳内出血を起こしていて、最後に死んでしまった。

もちろん、内傷があることを知っていたが、治療費がなかったのかもしれない。


となると、今直面している状況は――18世紀と21世紀、両方に龍之介がいて、18世紀の龍之介が脳内出血で死に、21世紀の俺が彼と入れ替わった、ということか。


以上が、江戸川★龍之介の推理した真相だ。


そう推測する根拠の一つは、二日酔いのような頭痛以外に、他の痛みを感じないことだ。

包帯を外せば、おそらく傷口などないだろう。

誰もいない時に、自分で傷を確認してみるつもりだ。

まさか自分が異世界から来たなんて他人に言えるわけがない。そんなことをすれば、本当に頭がおかしくなった、狂ってしまったと思われるだけだ。


とにかく、まずは目の前の状況を受け入れよう。まだいくつか疑問点は残るが。


しかし、目の前にはもっと差し迫った問題がある――家賃を払わなければ、俺とアリサは路上生活だ。


前世では歌舞伎町のNo.1として、経済的なプレッシャーを感じることは久しくなかった。


物思いにふける。

それと、時間を見つけて、このメアリーさんにお礼に伺わなければならない。


「最後の質問だ、アリサ。家賃の支払期限はいつだ?」


「今月末です、マスター」


「今日は5月6日……」

「……はつか……にじゅういち……にじゅうに……」

アリサは頭の良くないマスターのためにより正確な情報を伝えようと、俯いて、真剣に指折り計算をしている。


計算結果が出た。アリサはまた輝くような笑顔を見せ、大きな声で答えた。

「あと22日後です、マスター!」

少し「褒めて褒めて」という表情も浮かべている。


アリサのこの様子を見て、口元を引きつらせ、泣くべきか笑うべきか分からなかった。

最後にはやはり微笑みと励ましの表情に変える。「ありがとう、アリサ。分かったよ」


こういう細かなところから、やはり時代が変わったという感覚を覚える。

店内の古いコーヒーミルやオイルランプといった旧時代の設備だけでなく、

この時代の世界は、基礎教育すら完全に普及していない。

やはり俺の認識していた、あの遅れた18世紀なのだ。





いつも読んでいただきありがとうございます!


もし面白いと感じていただけましたら、ぜひブックマークと評価をお願いいたします!


これは私にとって非常に重要です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ