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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「羨望」

作者: 秋明菊

自分の友達に嫉妬することってありますか?

嫌な程良い天気の日の事だった。私を照らす太陽は余りに私には眩しすぎた。

私の名前は花園千夏、中学2年生のただの学生だ。

そして、私には大好きな友達が居る。田辺冬菜、大人しく人見知りな性格だけど、誰よりも優しく暖かさがある同じクラスの女の子。言ってしまえば冬菜と私は真逆の性格。私はクラスの中心的でよく周りから明るいと言われる、反対に冬菜は余り前に出ず何に対しても消極的なのだ。でも、そんな冬菜が私は好きだ。

とある日の事。クラスの合唱祭でピアノを弾く人を決める時間があった。私はピアノに対していい思い出がない。小さい頃ピアノに興味を持って習い始めた。ある程度弾けるようになったけれど"完璧"に弾くことができない。あんなにやる気があったピアノも、完璧にできないと知った途端なにかの糸が切れたようにやる気が無くなった。そんな思い出を頭の中で考えていると私の前に異様な、いいや。現実とは思えない光景が目に広がっていたのだ。冬菜が手を挙げている、大人しくて何にも消極的な冬菜が。その瞬間私の胸の中にはよく分からない感情が湧いてきた。冬菜が手を挙げた時クラスの中に沈黙が生まれた。みんな驚いているのだろう。でも私はこの空気に耐えることか出来なかった。だから私は笑顔で明るく「冬菜〜!いいね、やってみなよ。」と。そうするとクラスメイトも「千夏テキトーすぎ〜笑」なんて笑いながらも私の意見に賛成してくれた。結局ピアノの担当は冬菜になった。私は人見知りな冬菜が緊張してしまわないように私が指揮者を担当した。私が冬菜を守った。冬菜には私がいなくては駄目だ。そう思うと私の心の中にとてつもなく大きな、言葉にはできない気持ちが生まれた。

その日の放課後、どこからか綺麗なピアノの音色が聞こえた。その音を頼りに音の場所へ向かうと、その音の場所は音楽室。ゆっくりと扉を開けるとそこに居たのは冬菜。自身がピアノを担当すると決まった日から練習しているのだ。橙色の夕日が窓から見える音楽室。風になびいているカーテンが冬菜の横顔をより美しく見せる。その横顔をじっと眺めているとピアノの音が止まり冬菜がこちらを見ていた。「…千夏?」優しくて暖かい声が耳に響いた。はっ、としたように私は「わっ!ごめんね、練習の邪魔しちゃった?」と述べる。すると冬菜は「ううん、大丈夫。千夏が来てくれて嬉しいよ」とぎこち無い笑顔で言葉を発した。

私は冬菜に疑問に思っていたことを聞いた。「冬菜はピアノの経験あるの?」と。そうすると冬菜は少し黙り込んだ後にこう言った。「ピアノは小学生の頃からしてるの。…でもね」冬菜は少し唾を呑んだあとに「自信が無いの。」と言った。私はその言葉に疑問を持った。だって、私はこの素敵なピアノの音色に釣られて音楽室に来たのだ。弾いている人が冬菜とは知らず、ただ、本当にピアノの儚く美しい音色に釣られてしまったのだ。私は冬菜にこう言った。「そっか〜。なら、私が冬菜の練習、付き合ってあげる」

そう言うと指揮者だしねとつけ足した。冬菜はピアノの鍵盤を見ていた顔を上げて希望に満ち溢れたような顔で此方を見てきたのだ。

その日から私と冬菜は毎日放課後に音楽室に行き、ピアノの練習をした。

日に日に冬菜は上達していった。まぁ、元々冬菜の方がピアノの実力はある。きっとこれは私のお陰なんかでは無く、冬菜自身の才能と努力だろう。そんな冬菜に私はまたよく分からない感情を抱いていた。

だけどそんな中でも冬菜はいつも通り。「千夏のお陰だよ。毎日練習に付き合ってくれて本当にありがとう。」なんて太陽みたいな笑顔で言ってくるのだから。

このよく分からない感情は冬菜には出さないでおこう。自身の心の中にそっとしまっておくことにしよう。

合唱祭の全体練習が始まった。指揮者の私がクラスメイトに挨拶をした後、ピアノの方に座っている冬菜に目線を合わせ腕を振った。すると冬菜のピアノの音が聞こえてきた。クラスメイトは皆驚いているようだ、冬菜がこんなにピアノが上手いとは思ってもみなかったのだろう。

合唱祭練習が終わった後の休み時間冬菜の席に珍しく人集りができている。「なになにー?!」と中に入り話を聞くと、「冬菜さん、ピアノすごい上手なんだね!」

と言うクラスメイト。すかさず私は「勿論!私の自慢の友達だからね♪」なんて笑って冬菜の肩に手を置いた。

…冬菜が褒められて嬉しい。嬉しいはずなのに私は何故か冬菜に対してイライラとした怒りが湧いてきた。

そしてチャイムが鳴る、授業が始まる合図だ。皆が冬菜の席から離れて自身の席に座る。授業が始まってからも私はこのイライラとした感情が抑えられなかった。授業ノートには何度も消しゴム出消した跡が。遂には何度も何度も消しすぎてノートが真っ黒になり破れてしまった。

そして授業が終わりいつもは冬菜のところに行くが私は別の友達の所へ向かった。冬菜の所には行きたくなかったから。

冬菜は少し困惑したような顔をしていたが、直ぐに引き出しから本を出し、1人静かに読み始めていた。

そして放課後。いつもなら音楽室に向かうはずだけれど私は冬菜に何も言わずそのまま別の友達と寄り道をして帰った。友達とゲームセンターに行った時一人の子がこう言った。「今日の冬菜さん凄かったよね〜。あんなにピアノが上手いなんて思ってなかったよ」と。

そうするとほかの友達もそれに便乗して「分かる、まさかあの冬菜さんがね〜」と。私はすごくモヤモヤして嫌な気持ちになったがそれを表に出さなかった。そうすると1人の友人が「ねぇ、千夏って冬菜さんと仲良いよね?なんでなの?」と聞いてきた。

私は直ぐに「それはね〜」と口を開いたかそれからの良い言葉が思いつかない。頭の中には冬菜に対してのモヤモヤした気持ちだけが残っているのだから。

少しの沈黙の後私はまた口を開いた。

「別に〜?理由なんてないよ。」と。その後のまたいつものように遊んでそれぞれの家に帰った。

スマホを確認すると冬菜からのメッセージか3件程届いていた。でも私はそれを開かず放置した。

夕飯を食べて寝ようと布団をかけて目を瞑った時冬菜のことを思い出して中々眠れなかった。

私が冬菜に抱いているこの感情が何なのか。子供の私には分からない。今日私が音楽室に行かなかったことで冬菜はどう思ったのか、私には分からなかった。

それでも時間は待ってくれない。また朝が来る。

私は自分の気持ちが分からなかったことにとてつもなく強い自己嫌悪感に襲われた。

朝、いつも通り大きな声で皆に「おはよー!」と笑顔で言った。クラスメイトが返事返してくれ、私は自身の席に鞄を置いた。いつもならこの時に冬菜に挨拶をしているのだが、昨日の件から気まずさがあり話すことが出来なかった。それから何日もの月日が過ぎた。

私はあの日から音楽室へ練習に行っていない。そうしているうちに合唱祭前日になった。正直私は今、冬菜と目を合わるのが嫌だ。できることなら見たくない。だから私は冬菜の方を見ずに腕を振った。勿論、タイミングが合わずやり直し。でも私はまた冬菜の方を見なかった。すると担任の先生から「千夏。しっかりと伴奏者止めを合わせろ」と指示が出た。私は反抗したい気持ちをグッと抑えながら冬菜の方を見た。冬菜はとても悲しそうな目でこちらを見ていたがピアノの音色は暖かかった。相変わらず冬菜は褒められている。

その瞬間、私は理解した。私が冬菜に対して抱いていたこのモヤモヤした気持ち、怒りの感情は"嫉妬"なのだと。自分よりも優れている彼女に対してどうしようもなく嫉妬していたのだと気付いたのだ。そう気付いた時、私は泣きそうになった。友達だと思っていた冬菜を私は無意識に下に見ていたのだ。私の方が優れている、なんて心の中で見下して自分を上にあげて安心していたのだ。嗚呼、私はなんて愚かで弱い人間なのかと。

そして放課後、鞄を背負い友達と帰ろうとした時に私は冬菜に呼ばれた。私は冬菜に対してのこの気持ちがわかった途端余計に冬菜に会いたくなかった。「先、行ってるから」いつでも来てと付け足して冬菜はそそくさと音楽室へ向かった。私は勇気をだして音楽室へ向かった。音楽室へ近づく度冬菜のピアノの音が聞こえる。私は彼女のそのピアノの音に泣きそうになった。それは彼女の演奏の技術だけではない。自身の愚かさと、才能の差を思い知らされたからだ。涙を手で擦り音楽室の扉を開くとピアノの音がとまった。音楽室に気まずい空気が流れる。静かな空間に響くのは外から聞こえる雨の音とピアノの残響だけ。その空間に冬菜の声が響いた。

「…ねぇ、千夏」と私の名前を呼んだ。私は返事を返さなかった…いいや返せなかった。それでも冬菜は言葉を続けた。「…なんで」と。小さな声で。私が「…え?」と聞き返すと今度は音楽室に響き渡る声で「なんで……来てくれなかったの…っ、」と叫んだ。冬菜が叫んでいるところなんて1度も見た事がないから私はすごく驚いた。「…ご、ごめん。私…っ」言葉を発そうとしても上手く舌が回らない。焦って涙がこぼれそうになった時私の視界は暗くなり柔らかな優しい香りが広がった。

少し困惑したが私はすぐこの状況を理解した。

____冬菜に抱きしめられたのだ。

その瞬間私は溜め込んでいた涙が溢れた。

冬菜はそのままこう言った。

「私達、友達でしょ、?千夏に嫌なことがあったのなら私が話を聞いてあげる、千夏だってそうじゃない。私がピアノに自信が無いと言ったら助けてくれた。一緒に練習してくれた。」と少し鼻声になりながら話してくれた。私は彼女の背中に回していた手の指先を彼女の服にぎゅっと力を入れて掴んでそのまま黙り込んだ。

冬菜はこんなに私のことを思ってくれていたのだ。私が酷いことをしても友達と思ってくれていたのだ。

外からの雨の音も鳴り止み、部屋にはお互いに鼻をすする音だけが響いている。

私は冬菜にこう言った。

「私達、友達だよ。」と。



初めての作品でどんな物語にしようか迷いましたが頭にぱっと思い浮かんだものをそのままスラスラと書きました。どうぞ、皆様の頭の中に残りますように。

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