表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇帝の寵姫と紫国の王  作者: ありま氷炎
その愛はちょっと重たいかもしれない。(帝国編)
8/23

7紫国の者たち

「私は帝都に行くぞ」


 陽からの文を握りつぶし、黎光(れいこうは唸った。


「陛下」


 諦めがちに、けれども志立しりゅうは諌めようと王の近くへ歩み寄る。


「止めようとしても無駄だぞ。凛が殺されるかもしれないのだ。ここで指を咥えて待っていることなどできるわけがない」

「殺される?何があったのです」

「凛に春殿の妃毒殺の疑いがかかっているのだ」

「皇帝陛下に文を出しましょう。正式に帝都に参るのです。その文に、翠と陽のことも書き、おかしなことをさせないように圧力をかけましょう。平和な世、我ら紫国が牙を剥くのは皇帝陛下も望まないでしょう」

「……そうだな」


 ぎりっと歯軋りをし、黎光は己の中の炎を抑える。


(無闇に飛び込んでも何の解決もない。翠と陽を信じるのだ。あの二人が自由に動ける環境を与え、私は準備を整えて帝都へ行く)


 目を閉じ、冷静さを取り戻そうとする。


志立しりゅう。助言を感謝する。そのように取り計らえ。私が紫国を離れる準備も整えるぞ」

「はっつ。仰せのままに」


 黎光が跡目相続で揉めた紫国をまとめ上げた功績には、志立しりゅうの支えが大きかった。当時の王やその王子たちから疎まれていた志立しりゅうに協力を仰ぎ、短時間で内乱を抑えた。その上、税の縮小など、国民の負担を減らし、商人の活動にも以前より自由を与えている。

 紫国の経済は前王の時代よりかなり上向きで、黎光に対する国民の人気も高まっている。彼は志立しりゅうに深く感謝していた。たとえ彼が凛のことを疎んでいたとしても。

 

 ☆


 凛に春殿の妃・涼葉りょうよう毒殺未遂の疑いはかかったままであり、彼女は部屋で謹慎処分となった。これはまだ嫌疑の段階であり、確定されれば死罪になるだろう。

 謹慎の沙汰が下り、凛は大人しく部屋で書物を読んだりしている。彼女専属の侍女荀しゅんは動揺し、陽と翠の役に立ちそうもなかった。むしろ、凛に小言を言ったりと害にしかならない存在と化していた。しかし、紫国から学ぶ為に来ている設定の二人は、現時点でしゅんに逆らうことができない。なので、彼女の気を凛から逸らさせたりするのが精一杯であった。

 二人の最優先の使命は凛の容疑を晴らすことだ。そのため帝国に潜伏させている影たちに連絡を取り、情報を必死に集めていた。陽は春殿の女官・蘭に接近し、色仕掛けに近いことをしつつ、春殿の周辺の事情を聞き出していた。


「もう二日目か」

「まだ何か確証は掴めないの?」


 陽は周りに誰もいないことを言いことに、口調を本来のものに戻してぼやく。それに対して焦った様子で噛み付いたのが翠だ。


「あの薬師を捕まえて自白させるのが一番だと思うんだけど、それをやるとおしまい。消されるかもしれない」


 身柄を確保して、拷問なり口を割らせる方法もあったが、紫国がこの件で表沙汰に動いていることを悟られてはいけない。また動けば薬師を消される可能性もある。現時点でもいつ口封じされてもおかしくない存在だった。

 

 春殿の妃を担当している薬師は、春殿にずっと詰めていた。

 翠は彼女が毒薬を入手、前冬殿の妃を毒殺、今回同じ毒薬を少量春殿の妃・涼葉りょうように盛ったと考えていた。もちろん解毒剤はすでに涼葉に処方しているので、伏せっているというのは演技。

 春殿の女官・蘭からそれとなく涼葉の様子を聞き出そうとしているのだが、なかなか苦戦していた。

 薬師の足取りを追って、毒薬を渡したと考えられる人物を導きだしたが、今だにその身柄は確保できていない。


 明日の日没までに、真犯人を見つけることができなければ、凛の罪は確定する。


「この際、私が犯人と名乗り出せば」

「翠。馬鹿なことは言わないで。そうなれば凛様の身は助かるかもしれないけど、紫国に罪が及ぶ。それはあまりにも浅はかな案だ」

「ごめんなさい」

「全力を尽くそう。黎光のためにも」

「ええ」


 二人はお互いを励ますように抱きしめ合う。


「翠。この際は手段は構っていられない。後で何か知っても怒らないでね」

「……努力するわ」

「努力か。参ったな」


 陽は眉を寄せて困ったように笑う。


「冗談よ。何があっても怒らないわ。全力を尽くして」

「うん」


 恋人の翠から許可をもらい、陽は安堵の表情を浮かべる。そして再度ぎゅっと強く抱きしめると、彼女から離れた。


「さあ、頑張ってくる」

「うん」


 ざわざわと心が騒いだが翠はそれを抑え、恋人を見送った。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ