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皇帝の寵姫と紫国の王  作者: ありま氷炎
その愛はちょっと重すぎるかもしれない(紫国編)
16/23

2-1 王妃候補

「さすが、凛様。よい王妃になられることでしょう」


 白い髭を蓄えた初老の男・かんは大仰に頷きながら凛を褒め称える。

 

 凛が紫国に来てから、二週間が経過しようとしていた。

 皇帝陛下から下賜された彼女は紫国の王妃となるべき日々教育を受けている。


(私が王妃なんて……。下賜の意味をよく考えていなかった。旦那様の元で教育を受け、後宮で一年を過ごしたので、下賜の意味は理解していたつもりだったのに。まさか、私が黎光れいこう……紫国の王の正妻になるなんて、思わなかった)


 下賜の意味をよくよく考えたらわかることなのに、凛は後宮から、角家の主人の手から逃れることばかりを考えていた自身を深く反省する。


(王妃……。 本当にしっくりこない)


 角家の主人の願いを叶えるため、凛は帝国の後宮で国母になることを目指していた。目指していたというよりも、目指すしかなかったのだが。


「凛様?どうされましたか?」


 赤毛の女官ーすいが駆け寄ってきたので、凛は慌てて顔を上げる。

 

(旦那様の顔が浮かんでしまって、だめだわ。 心配をかけてしまった)


「なんでもないから」


 後宮のことを思い出すと、いつも角家の主人の顔が脳裏にちらつく。もう二度と会うこともないというのに、凛はそんな自身の情けなさに嫌気が差していた。


かん殿、凛様は体調がお悪いようです。今日はこの辺で講義をやめましょう」


 凛の背中をさすりながら、翠がかんに申し出る。とたん彼の顔が曇ったので、彼女は慌てて口を挟んだ。


「大丈夫よ。ちょっと考えことしていただけだから」

「凛様。無理をしてはなりません。急ぐことはないのですから、続きはまた今度にしましょう」


 彼は大仰に首を振る。

 その表情には凛への気遣いが窺われた。


(講義が途中になることで機嫌を悪くしたわけじゃないのね)


 ここにきてからも、凛は人の顔色を窺っていた。

 怯えるわけではない。ただ自身に相手が好意をもっているのか、それとも敵になるのか、と凛は反射的に考えてしまっていた。

 既に数回、康から講義を受けている。それでも翠や陽のように信頼できなかった。


「凛様、お疲れでしょうか?」

「そんなことはないわ」


(翠は本当によくしてくれる)


下賜された帝国の元妃である凛の待遇は、後宮にいた時よりもかなりましだ。表だって見下す者はいない。翠のように親身になってくれる女官がいるので安心感があった。

角家から連れてきた(しゅん)は彼女へ敵意は持っていなかった。しかし、角家の主人の目であったから気を抜くことが出来なかったのだ。


「凛!」


 扉をたたく音と同時に黎光れいこうの声が聞こえて、きらきらと銀色の光が部屋に飛び込んできた。


「陛下、威厳がなくなるような行動を慎んでください」


 ぴしゃりと翠は言い放つ。しかし黎光れいこうは全く気にしていないようで、可愛らしい微笑みを浮かべて凛を見ていた。


「凛、会いたかった。朝食は食べた?」


 ぎゅっと彼女を抱きしめた後、その水色の瞳を輝かせて聞いてくる。


「はい。ありがとうございます」


 黎光れいこうが紫国の王だと知り、この国に来て彼のことを知れば知るほど、凛は距離を感じる。彼の妻、王妃になるために日々学んでいるが、まだ実感はわかなかった。

 

(彼を私を愛しているという。とても優しい公明。 出会った時は、そのまま消えていなくなりそうなくらい儚くて、だから思わず拾ってしまった。 今は、全然違う)


「凛。嫌なことがあったら教えて。絶対だよ」


 皇帝陛下の妃であった凛が孕っている可能性もあって、すぐに婚姻を結ぶことができなかった。黎光れいこうは抗議したが、陽が彼を説得して、この一年は凛の王妃教育に充てられることになった。

 時折熱をこもった目で見られて、思わず凛は視線を逸らしたくなることがある。

 その度に陽が小言を言ってたりと賑やかな日々だ。

 下賜された妃、王妃候補、王に寵愛されている。

 この条件が揃っている凛に無体なことをする輩はいない。

 翠と陽以外の女官や官吏は、彼女の機嫌を損なわないように接してくる。

 後宮にいた頃とはかなり状況が異なった。


「どうしたの?凛」


 水色の瞳はとても澄んでいて、綺麗なもの。

 ここで凛は怯えて暮らすこともない。

 角家の主人の鞭に。

 周りの悪意に。

 

(けれども、いいのだろうか? 黎光れいこうは、私のどこが好きなのだろう。王妃なんて、私にはふさわしくないのに)


 帝国の国母になろうとしていた凛なのに、今の状況に戸惑っていた。


 (あれは私の意志じゃないから。 今は私は考えることができる。 旦那様の鞭に恐れることはない)


 それだからこそ、凛は思う。


(私が黎光れいこうの、紫国の王の隣にいることがふさわしいとは思えない)


 皇帝より下賜された凛を粗末に扱う事はできない。


(だから?でも彼は私のことを愛しているという。 でも、その愛はいったいなんなんだろう)


 黎光は少女の凛に一目惚れしたと語った。しかし今の凛はあの時とは異なる。


 (姿こそ綺麗になったけれども、もう何も知らない生娘ではないのに)


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