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皇帝の寵姫と紫国の王  作者: ありま氷炎
その愛はちょっと重たいかもしれない。(帝国編)
12/23

11茶会

「いよいよだね」

「いよいよよ」


 ここ十日ほど、後宮は慌ただしかった。

 春殿の妃・涼葉りょうようが前冬殿の妃・花梨を毒殺したことが明らかになった。また皇后を傷つけようとして皇帝によって処罰を受けた。罪人であるその身は外門に晒された後に山に捨てられた。

 涼葉の実家であるせん家は直系の家族のみが罰せられた。父母及び兄弟は流罪。極寒の地へ流刑になった。

 せん家と血縁関係がある者たちは降格処分となり、せん家の時代は終わった。

 新しい春殿の妃の座はまだ空いたままだ。

 その様な折に、茶会が開かれることになった。

 翠と陽は楽しそうに、三日後の茶会で凛が身につける衣装について話している。


(どうして楽しそうなのかしら?二人は確か参加できないし。茶会の菓子が余ったら女官で分け合っていたから、それが目的かしら?)


 凛の女官時代は非常に短いが、その期間、茶会が開かれると余った茶菓子は女官に分け与えられた。皇帝主催であれば作られる茶菓子が精巧なものが多くて、女官たちは余った菓子を奪い合ったものだった。

 美しくどことなく他の者たちと距離をとっていた凛は他の女官と馴れ合うことなく、女官時代は菓子を口にすることはなかった。

 とは言っても後宮に入り二週間後には皇帝に見出された彼女は、女官たちと奪い合うことなく菓子を手に入れる立場になっていた。


「翠、陽。美凛様を他の妃たちよりも艶やかに魅せる色を選びなさい。装飾品は私が用意します」


 凛に疑いがかかった時、あれほど動揺していたしゅんはすっかり本来の姿を取り戻した。凛に小言は漏らすが、詰ったりするのはやめ、翠と陽を手足として使い、冬殿を取り仕切っている。

 途絶えていた角家の主人からの文も再開した。


(この生活は変わらないのね。皇帝陛下は皇后陛下を愛してらっしゃるわ。あれは本心からね)


 冬殿に通ってくる皇帝はどこなく作られたようで、人間味を感じなかった。けれども皇后と話をする彼は自然体で、好ましく思った。


(愛されるとはああいうことね)


 皇帝の夜伽は優しくはあれども感情を感じさせない。

 まさしく義務として行われている、そのような行為。


(皇后陛下に頭が上がらない感じだったわ)


「美凛様。どこかおかしいことでも?」

「なんでもないわ」

 

 しゅんに尋ねられ、彼女は自身が笑っていたことに気がついた。


(皇帝陛下が皇后陛下以外を愛することはない。あの様子では、もう他の妃の元へ通うこともなくなるかもしれないわね)


 そうなると、凛は目的を果たせなくなる。

 角家の主人からの風当たりが厳しくなるのが予測できて、彼女は顔を曇らせた。


 ☆

 茶会の日がやってきた。

 凛は薄青色の襦裙じゅくんの上に銀色の長衣を羽織らされる。帯は青みを帯びた銀色だ。

 用意したのは翠と陽で、あの騒動から少しだけ大人しくなった荀は二人が選んだ服に何も言わなかった。

 まるで公明の髪色と目の色だと思いながらも元気をもらった気がして、凛も二人に言われるがまま、服を身につけた。

 宦官が呼びにきて、冬殿を出る。

 涼葉が死に、後宮の雰囲気はかなり変わった。凛を侮った目で見るものが減ったのだ。

 回廊を凛が歩くと、女官や宦官だけでなく、十六嬪や八夫人すら静かに彼女に道を譲る。

 回廊と抜け、中庭を通って、会場の桜花亭に到着した。そうして扉が開かれる。

 その瞬間、凛は息を止めた。

 円形の建物の中心には卓があり、その周りを椅子で囲んでいる。

 中心は皇帝でその左隣には皇后、その右側には美しい男性が座っている。後宮に宦官以外の男がいること自体が珍しかった。

 その上、その男はまるで凛の衣装と一対のような襦裙じゅくんに銀色の長衣を纏っている。

 髪は銀色、目は水色。

 それは四年前に凛が拾って消えてしまった雪の精、公明こうめいだった。 

 皇帝への挨拶も忘れ、凛は彼を凝視する。


(なぜ、彼が?)


「凛。驚いたか。これは、紫国の王・黎光だ」

「ご挨拶が遅れてしまいまして申し訳ございません。皇帝陛下。皇后陛下。そして紫国の王様。冬殿の妃・美凛でございます」


 皇帝の声で我に返り、凛は慌てて頭を垂れ、挨拶を述べる。


「そう堅くなるではない。美凛はこちらに参れ」


 皇帝は機嫌良さげに笑い、凛の席を彼の隣に指定した。皇后が凛に微笑みかけ、夏殿と秋殿の妃達は好奇の目で見る。

 公明が隣に座っている。その事実が信じられなく、硬直しながら茶会をやり過ごす。


(公明?本当に?でも紫国の王って……)


 皇帝黒龍は彼を紫国しこくの王と呼び、彼もそれに答えた。顔を上げて彼の顔を確認したいと思いつつも、凛は顔を上げることができなかった。

 息が詰まる様な茶会が終わり、どうにか冬殿に戻る。桜花亭の外で待っていた翠と陽が何か聞きたがっていたが、凛はそれに応えなかった。

 彼女の雰囲気を察したのか、二人は凛の着替えを手伝った後、部屋を出て行った。

 しゅんにも部屋を退出させ、凛は一人になって茶会を振り返る。

 頭に浮かぶのは、彼の美しい顔だ。

 四年前より少し逞しくなった、人間である彼がそこにいた。

 もう儚い雪の精には見えなかった。


(なぜ、彼が? 他人の空似?ありえない。あんなに美しい人が二人も存在するはずはない)


 そんなことを悶々と考えていると、扉の外でしゅんと宦官の話し声が聞こえた。その後、彼女が入ってきて、弾んだ声で今夜皇帝の御渡りがあることを伝えた。


(今夜……)


 茶会で見かけた公明の顔が消え、浮かぶの角家の主人だ。


(これでしばらく旦那様から怒りの文がやむかもしれない)


 公明のことは気になる。けれども、彼女の今の立場は皇帝の妃の一人で、角家の養女だ。

 鎖に絡め取られた彼女はあの時とは違う。


(雪の精と話す資格なんて今の穢れた私にはない)


 主人の野望のために娼妓の真似事をしている。


(これで旦那様には怒られないで済む。そうよ。あの方は公明ではない。紫国の王。もう会うこともないでしょう)


 そう自分に言い聞かせて、凛は皇帝を受け入れるための身支度を始めた。



 


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