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皇帝の寵姫と紫国の王  作者: ありま氷炎
その愛はちょっと重たいかもしれない。(帝国編)
10/23

9あっけない幕切れ


「美凛様。お時間です」


 三日前のように扉を許可なく開けたりと乱暴ではない。しかし有無を言わせない口調で宦官が扉の向こうから声をかけてきた。


「参りましょう」


 すでに皇帝に謁見するための仕度は整えており、派手ではないが冬殿の妃として相応な装いで、凛は椅子から立ち上がる。

 荀はとうとう体調を崩し、昨晩の夜から別室で休んでいた。

 凛に付き添うのは、陽と翠の二人で、彼女を守る様に前と後ろに付く。

 宦官に案内され、三日前も訪れた書殿の前に到着した。


「冬殿の美凛様をお連れしました」

「ご苦労。美凛入るが良い」


 扉が開かれ、凛が先に書殿に足を踏み入れ、陽と翠が続く。

 そこにいたのは、皇帝黒龍と皇后麗華。それから被害者である春殿の涼葉、彼女の薬師だった。

 護衛は前回より多く、壁に沿う様に数人配置されていた。


(私が抵抗するとでも思われているのかしら)


 凛は護衛たちに目を向けながらそんなことを思う。

 そうして、皇帝と皇后の前まで来て、平伏した。

 彼女の背後についている二人も、凛に習う。

 春殿の妃・涼葉と薬師は、凛より右側に立っており、首を垂れたままだった。


「これで揃ったな。全員顔をあげよ」


 皇帝から声がかかり、凛は顔を上げた。視界の端に涼葉の視線を感じたが、彼女は皇帝から目を逸らさなかった。


「さて、約束の三日が経った。美凛の女官、翠と言ったな。今回の涼葉の毒殺未遂が自作自演としたそちの推理を裏付ける、証拠を見せよ」


 皇帝が言い放った瞬間、春殿の涼葉が目を見張って、醜く表情を歪ませた。けれども一瞬で表情を元に戻すと、今度は凛と翠を睨みつける。

 凛はそれを受け止めた。

 恐れることはない。


(翠の推測は間違っていないわ。前冬殿の花梨様は皇帝陛下のご寵愛を受けていた方。皇后陛下にも可愛がれていた。それを春殿の涼葉が気に入らないと、何かするのは考えられること)


 四妃の中で一番力を持っていたのは涼葉だった。実家が名のある貴族で、長く皇族に仕えている。

 皇后麗華は皇帝黒龍の幼馴染であり皇族の一員だ。彼女を引き下ろす事は出来ない。そうであれば、皇后に次ぐ寵愛を受ける立場を望んだのに、皇帝が気に入ったのは、後ろ盾もない花梨。

 邪魔に思うのは当然で、当時花梨の死に疑問を持つものがいたが、証拠は財力と権力でねじ伏せられた。皇帝に諌められ皇后も調査を断念するくらいだった。

 後宮で花梨に死について語るのは憚れ、凛が新しい冬殿の妃となり、人々の記憶から花梨の事は薄れていくはずだった。

 同じ毒を使って自作自演。悪手としか思えないのだが、涼葉は凛を侮っていた。まさか紫国から来た女官が凛に力を貸すなど予測していなかったことだろう。

 凛は後ろを振り向くことはできない。

 問いかけは翠に対してだった。

 彼女は黙って翠の答えを待った。


「薬師・泪天るいてん。証言していただけますか」

泪天るいてん?!」


 まさか味方であるはずの薬師が裏切るとは思っていなかったのか、涼葉は表情を取り繕うすら忘れていた。

 悪鬼のように顔を歪めて、後方の薬師・泪天るいてんを睨みつける。


「申し訳ありません。春殿のお妃様に脅されて、前冬殿の花梨様に薬として阿黄鳥の毒を盛りました。同じ毒を今回春殿のお妃様に少しだけ飲んでいただき、解毒剤で中和いたしました」

「泪天、そんな嘘を付くのはやめてちょうだい。誰の差金?その翠という蛮族の国の者に銭を握らされたの?」

「私に銭を握らせ、花梨様を毒殺させたのはあなたでしょう」

「泪天!」

「なるほど。やはりそういうことだったのか。花梨が急に病に倒れるなどおかしいと思っていたのだ」

「私は、知りません。陛下!」

「お黙りなさい!」


 首を横に振り、慟哭する涼葉に撥ねつけたのは皇帝の隣で黙って成り行きを見ていた皇后だった。


「ずっと疑っていたわ。お前を。花梨が亡くなり、お前はさぞかし安堵したでしょうね。皇帝陛下から寵愛をいただけるとでも思ったのかしら。冬殿に美凛が入り、さぞかし悔しがったでしょう」


 皇后は微笑んでいた。

 けれども穏やかや優しさなどとは無縁の笑みで、その怒りを全身から感じた涼葉は体を竦ませる。先ほど怒りで真っ赤だった顔は今や白く血の気が引いている。


(……薬師が簡単に自白した。翠、陽がどうやって)


 涼葉は抵抗する意思も失せた様に、力なく項垂れていた。


「見事なものだ。翠。どうやって薬師を落としたのか。その技をみせてもらいたいものだな」


 皇帝はそう言いながら、翠ではなくその隣の陽に視線を向けていた。


「おっしゃてる意味が理解できません。これで、凛様の疑いは晴れたでしょうか?」

「ああ。そちの助力に感謝する。紫国の王も数日後には到着するであろう。労ってもらえ。美凛、そちの謹慎はこの時をもって解く。自由にするがよい。涼葉、そちの所業はあまりにも醜い。そちは死罪、親族に関しては追って沙汰を申し付ける」

「皇帝陛下!何卒お情けを!」

「お前、何を言ってるのかしら?花梨を殺したこと、その身をもって償ってもらうわ」


 涼葉は顔を上げると、皇帝へ近づこうとした。その前に立ったのは皇后麗華だ。


「皇后!」


 すでに死罪が確定している身、捨て身なのか、彼女は頭からかんざしを抜くとその先端を皇后に向ける。


「愚かな!」


 だが涼葉が麗華を傷つけることができなかった。

 背後にいた皇帝黒龍が麗華の手を引くと、同時に剣を振り下ろす。

 首から血飛沫が飛び散り、涼葉の体が鈍い音を立てて床に転がった。


「陛下!」

「護衛とは何の意味があるのだろうな。そちらは」


 血に濡れた剣を衣で拭って、それを護衛たちへ投げ捨てる。


「陛下。お許しを」

「申し訳ございません」


 血溜まりをつくりつつある床に護衛たちが頭を擦り付ける様にして平伏する。


「まずは、それを片付けよ。我は着替えに戻るぞ。麗華、そちもくるが良い。美凛は部屋に戻ってよい。薬師は牢屋に入れておけ」

「はっつ」


 命令が下され、護衛たちが動き出す。

 扉が開かれ、皇帝は血に濡れた衣装のまま、皇后を連れて部屋を出て行った。


(……疑いは解けたのね。ああ、私の日常が戻ってくるわ。忌まわしい)


 翠や陽のおかげで死を免れることができた凛。

 けれども、少しも嬉しいと思うことはなかった。


「翠、陽。部屋に戻りましょう。あなたたちのおかげで死なずにすんだわ。ありがとう」


 凛はここ数日外していた仮面を再び手に取った。

 高慢な冬殿の美凛という仮面を。

 




 




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