0 甘く懐かしい夢
あれは確か十二歳のときだ。
旦那様に養子にされる一年前。
私は落し物を拾った。
いや、正確に言うならば迷い人だった。
その日は雪が降っていて、白銀の髪に、透き通った水色の瞳の彼はまるで雪の精のようだった。
でもその人、大の大人のくせに、全然頼れない人で、しかも記憶がなかった。
置いていくには、ちょっとかわいそうだし、綺麗な人だったから、誰かにさらわれると思って拾った。
九歳の時、三年前に母が亡くなって、私は一人きり。
宿屋の一角に部屋を貸してもらい、そこの女中見習いとして働いた。
母の友人であった女将さんはいい人で、その人を置いてもいいと言ってくれた。
その人、何にも覚えてなくて私は勝手に、公明路で拾ったので、公明と呼ぶことにした。とても素直なその人は、大人なのに私の言うことを聞いて、毎日部屋でじっと帰りを待っていた。家にいてもらったのは、出かけるとあんまり綺麗だから人さらいに会うと思ったから。
女将さんからご飯をもらって部屋に戻ると、嬉しそうに笑ってくれた。
家にじっとしているのも退屈だろうなあと、休みの日は一緒に出かけようと思ったのに、ある日、公明はいなくなった。
女将さんも彼がいなくなったのを知らなかったので、きっと彼は人ではなく、雪の精だったのだろう……。