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トオリャンセ

作者: モモタロー!

―どうかあなたは、帰り道で読まないで

これは俺が中学三年の夏の話だ。

当時俺は受験生だったこともあり、塾に通っていた。

家に帰っても飯と睡眠以外は勉強、休日も朝から晩まで勉強尽くしで、ろくな自由時間はなかった。


そんな俺にとって楽しみだったのは、塾が終わってから家までの帰宅時間、夜道を歩きながらスマホでネット小説を読むことだった。

当時俺の学校はスマホを持っていくことは許されてはいたんだが、使用は認められていなかったし、家で使っていると親に小言を言われた。

そんなこともあって塾から家までのおよそ20分は、誰にも邪魔されない、俺のためだけの自由時間だったんだ。


俺の家の近くには1つだけ信号があるが、塾からその信号機までは足を止めることなく進むことができる。

塾が終わった後はスマホを開いてブックマークしたサイトを開き、自分だけの世界に入り込む。通い慣れた道だし、多少前を見なくても問題はない。しばらく歩いた後信号に着いたら、青信号の音楽―『とおりゃんせ』が鳴るまで、残り少ない読書時間を楽しむ。メロディがなり始めると、名残惜しそうにスマホをポケットにしまう。

それが俺の日課だった。


ファンタジーや恋愛ものなど、読むジャンルに特に偏りはなかったが、伏線とかが張られている作品が好きだった。短編小説なら家に着くまでに読み切れるが、長編となるとそうはいかない。何日かかけて読むことになるのだが、それがまた楽しかった。


ある日、転生ものか何かを読みながら信号を待っていると、「いつも何読んでいるんだい?」とサラリーマンの男性に声をかけられた。

突然話しかけられたことに驚き、「小説、みたいなやつです」と何とか答えた。それから自分が受験生であることや、近ごろは自由時間がほとんどないことを話す。

「面白そうだね、でも歩きスマホは危ないよ。やめたほうがいい。」、とそのサラリーマンが答えた時、俺は急激に頭に血がのぼった。

この人は俺に説教しようとしている。

数少ない俺の楽しみを、奪おうとしている。

「ああ、そうスね」とぶっきらぼうに答えたところで信号機から例のメロディが流れ始めたので、早足で横断歩道を渡り、家に帰った。

せっかくの貴重な楽しい時間を、何も知らない大人に邪魔された。その怒りと不快感で頭がいっぱいで、その日は家の勉強がはかどらなかった。


翌日、そのサラリーマンとまた信号機で出会ってしまった。翌日も、その翌日も。

気にしていなかっただけで、多分今までもずっと居合わせていたのだろう。

だがあの日のことがあった自分にとって、すっかりサラリーマンの存在は邪魔なものになっていた。

信号機のメロディが流れるまで、必死に男の事を頭から消して小説に集中し、音楽が鳴り始めるとスマホをしまってスタスタと帰っていく。


そんな不本意な日々が続くある日のこと。その日は夏らしくホラー小説を見つけたので、帰り道のお供にしていた。

そこまで長い内容ではなかったし、主人公が自分と似た境遇にあったこともあって、話に引き込まれていった。なんとか今日帰るまでに読み切りたい。

物語が佳境に差し掛かかる頃、例の信号機にはいつものようにあのサラリーマンがいたが、それも気にならない。

斜め前に立ったサラリーマンの男が歩き出す。あと1分もあれば読み終わるから、このまま家に着くまでに読みきってしまおう…。



―少年は歩き出した。まだ赤みが残る陽が落ちた夏の空に、大型トラックのクラクションが鳴り響く―



私は忠告したのに、大人の言うことを聞かないからこうなってしまったんだね。

少年は搬送先の病院で死亡が確認されたらしい。ルールやマナーを守らないのであれば、この運命も仕方のないことだろう。基本的なことが出来ないああいう人間は、将来どんな人間になるか分からないから。少しでも社会が良くなったんじゃないかと思うよ。


事故の直後、私は少年のスマホを拾って中身を確かめてみたんだ。赤信号であることを確かめずに渡るほど、彼が熱心に読んでいた小説とはどんな作品なのだろうかと気になってね。

スマホの画面には無残に亀裂が入っていて読みづらかったのだけど、簡単な内容と、タイトルだけは把握できたから、ここに書き記そう。


『トオリャンセ』

「小説家になろう」初投稿&初ホラー作品です!


小学生のころ、図書館で借りた本を読みながら帰っていたことを思い出しましたね。

みなさん歩きスマホには気をつけましょう。スマホに熱中しすぎて、悪い人についていかないように。


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