第40話 シュの山
私は「時の加護者」アカネ。
今回の料理対決の騒動で「運命の加護者」シャーレは無残な死を迎えた。そしてクローズとシエラも倒れた。私はその犠牲の為にもラヴィエとアコウの嫌疑を解いてほしいと説得した。そしてギプス国スタン王の許しを得てラヴィエとアコウは晴れて無罪放免となった。
—フェルナン王宮—
アコウは『アリアの剣』の不思議な力で傷はふさがったがかなり弱っていた。意識も戻らぬまま王宮の特別療養室へ運ばれた。
「アカネ様、娘の命の恩人であるアコウは、このジインの名のもとに手厚く看病いたします。ご安心ください」
一国の王の約束、しかもラヴィエの父親だ。この約束に私は安心して旅立つことが出来る。
私たちの旅は「運命の祠」から目的地を「シュの山」へ変更となった。フェルナン王宮で旅の準備をさせてもらうと、さっそく出発することにした。
ジイン王は私たちをわざわざ外門まで見送ってくれた。
「相変わらず、肩ぐるしいな。ジインは」
「クローズ、王様にそういう言葉遣いはやめようね」
「 ..何を言っているのだ?アカネ様。私たちトパーズが仕えるのは加護者である主だけだ。そこに王様も平民も関係ない。それにジインは鼻垂らしの頃から知っている。何もわかっていないのはあなた様ではないですか?」
どうやら、シエラは私の言う事きいてくれるけど、クローズに限ってはそうではないようだ。
「おい、クローズ。僕の大切なアカネ様に無礼な事は言うなよ。僕が許さないぞ」
「 ..ああ、わるかった」
シエラの言う事は素直に聞くんだね..
私は王様にラヴィエの容態を聞き忘れていた。
「あの、ジイン様。ラヴィエは大丈夫ですか? 」
「ああ、ラヴィエはこの騒動の疲れに眠っております。どうかお見送りできないことご容赦ください」
「そうですよね。あ、大丈夫です。ただ.. お伝えしていただけますか? 」
「なんなりと。で、何と? 」
「『今度、ひと晩じゅうお話ししようね』って」
***
「シュの山」、そこはレギューラの丘がある「ウェイト国」、北にある「王国フェルナン」、そして南にある「永遠の女王国カイト」、この3国の国境が集まる場所に位置する。
この「シュの山」の近くは温暖な気候で、極寒フェルナンも「シュの山」の近くでは19℃くらいの気温を保っている。その変わりフェルナンから冷たい風が吹くとすぐに天気が崩れ雷雲が発生してしまう。
「シュの山」近辺が暖かいのは山に住み着く獄鳥パルコが原因だった。このパルコは冷鳥フロワと双璧と呼ばれる伝説の鳥で、その鳴き声は空気に摩擦を生みだし70℃まで温めてしまう。故に山の頂は絶えず30~40℃の気温をキープしている。
と、シエラから「シュの山」に関しての説明を受けた。私はノートを取り出しメモをした。
—シュの山—
私とシエラはソックスにクローズはラインにまたがり「シュの山」の森を歩いた。
「シエラ、なんかさ、かなり温かくなってきたね」
「いや、アカネ様、暑いです! 上着、脱いじゃいましょう! 」
王都フェルナンをでてそのまま防寒着を着ていたのだ。暑いに決まっている。
「時の空間」を発動し、そこで防寒着を脱ぎ捨てた。「時の空間」の中に入ったクローズは案の定、劇場型「時の社」を物珍しそうに見ていた。
「シエラ、あれはかなり変わった『社』だけど、いったいあれは何だ? 」
「知らないんだ、クローズは? 僕は知ってるよ! あれはね劇場といって— 」
シエラが鼻を広げて自慢げに説明しているのがおかしかった。
「シュの山」の森はかなり広範囲に広がっている。フェルナン国とカイト国の両国の国境も森の中にあった。
「アカネ様、この森は国境がわかりづらい。境界線を踏むとやっかいな連中がでてくるので、下手を打たないように」
先頭に立つクローズからのありがたいアドバイスだけど棘あるなぁ。
「大丈夫だよ、クローズ。ラインとソックスのナビは正確だから。ね、ライン、ソックス」
ソックスの耳がピコピコ、ラインの尻尾がフリフリしている。
「ナビって? 」
「ああ、案内のことね」
棘のあるクローズだが言っていることは正しい。なぜならば、先ほどからひとつ木の向こう側からただならない気配を感じる。そしてこの視線が身体にまとわりついて動きづらいのだ。クローズの棘もきっとこれが原因に違いない。私が嫌われているわけじゃない。
しばらく森を歩いているとあることに気が付いた。
「ねぇ、シエラ、この森には獣や鳥がいないね」
「はい。ここは獄鳥パルコの足元です。ここに住もうとする獣は魂のないオレブランくらいです」
「オレブランか.. もう現れてほしくないな」
私はフェルナン国での悲しい思いが蘇った。もうオレブランとはいえ子供の死ぬ姿を見たくはなかった。
私の表情を読み取ってかシエラが言った。
「大丈夫。今度もし現れたら何とか追い返しましょう」
「うん、そうだね」
森を抜けるといよいよ「シュの山」の岩肌が見えた。ラインとソックスはその岩を風のように駆けのぼった。ものの10分も経たないうちに垂直に切り立った頂が見えた。これにはさすがにクローズも感心しラインの首を撫でていた。
さて、切り立った頂。さすがにここからは自分の手足で登るしかない。だがラインとソックスを置きっぱなしにしておくのも不安だった。獄鳥パルコに襲われ兼ねない。
私の心配を察して、ラインが鼻で私の背中をおした。それは『心配しないで』と言っているようだった。
その様子を見たクローズが手を上にあげた。
ブゥゥンという音がなるとクローズの腕輪が宙を浮いた。
「私の腕輪をここに浮かせておく。もしこの子達を狙うものがいたならこの腕輪が容赦しない」
「うん.. 」
「安心してください、アカネ様。クローズの腕輪に狙われたら僕だって逃れるのは難しいのですから! 」
その言葉は何よりも安心な言葉だ。ふと自分がシエラに全幅の信頼を置いていることに気が付いた。
[ グガァー!! ]
突然、ダンプカーが通り過ぎたような大きな濁声が聞こえて来た。
「どこからかわかりませんが、気を付けてください。奴の熱波が届きます」
空気のモヤモヤが近づいてくると、ドライヤーをトップギアに入れたような熱風が吹き荒れる。なるほど、この山に植物が育たないわけだ。同時にお肌にも大敵なようだ。




