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七人の賢者Ⅱ

「あなた方はあくまでも神の七賢人に逆らおうというのですね……」

 細い目をした老人が穏やかな口調でサブマシンガンを撃つ数人の男女に問いかけた。坊主頭であることと黒いローブを着ていることも相まって、僧侶に見える。

「神なんかじゃない! お前たちは悪魔だ! やっていることを自覚していないようだから教えてやる! 殺人、拷問を喜々として実行するような奴は世間一般では神なんて言わないんだよ!」

 怒り心頭の男の指摘を受けて、柔和だった老人の顔が変わっていく。

「ならば、この私が! 神に代わりて罰を与えましょう!」

 見開いた両の目は血走り、形相は凶悪なものに変わり、背中に背負っていたロケットランチャーを片手で軽々と振り回す。

「天罰覿面! まずは喰らうがよろしい! 洞窟のイデアを!」

 奇声を上げながらところかまわずロケットランチャーをぶっ放すその姿はとても賢者には見えない。どう見ても、猟奇的犯罪者のそれだ。

「ぐふふふ……浄化完了です。さあ、良き人間性の皆様。ただいま汚物、いや外道畜生の始末が終わりました。もう大丈夫です。この私が皆様の生活をお守りいたしますぞ」

 どう見ても皆様の生活を誰よりも壊しているのはお前だろ、というツッコミをしたいレネゲイドを巨漢の男が押さえ込んでいる。彼かゼノが押さえ込まないと、レネゲイドはその場のノリと思いつきで行動しかねないということを二人はよく分かっている。

「おや、あなたは外国からのお客様ですかな?」

 凶悪な形相から柔和な表情に変わった老人はゼノを見つけて問いかけた。

 ゼノは二つの刃を隠して

「はい、たった今入国させていただきました。私はアメリゴ通信社の記者、ゼノ=ホロウハートと申します」

 と笑顔で応じる。こうした演技はレネゲイドには絶対にできない。

「そうでしたか。お見苦しいところをお見せしました。私は神の七賢人が一人、哲学の面接官と申します。以後、お見知りおきを……」

「この都市は治安が悪いのでしょうか? 何せ私は異邦人。土地勘もありません。取材はできるだけ安全な場所で、と思っておりまして……」

「ご安心ください。悪は我々面接官が成敗いたします。この国は人間性に優れた人間を育てる人間国家なのです」

 抽象的な言い回しに戸惑いつつも、ゼノはそれを見せない。

「その……面接官という方々は一体……」

「ああ、そうですね。外国の方にはすぐには理解できないのですね。お察しいたしますよ。かいつまんで申し上げますと、面接官はこの国に暮らす人の人間力を測定する能力を持った人たちの総称、職業と思っていただいて構いません。彼らは国家公務員として、日々面接を行い、国民たちが正しい道に生きていくことができるかどうかを審査しています。たまに、今日のような暴徒どもが反乱を起こしますが、その時は我々面接官が鎮圧いたします」

 ゼノは素早く上着のポケットからメモ帳を取り出して、老人の言葉を書き留める。貴重な情報源だ。これがこの世界の成り立ちらしい。

「それは素晴らしい。我が国でも取り入れたいくらいです。ところで、質問させていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんですとも。異邦人に慈悲を与えるのも、我々神の七賢人の務め。何なりとお尋ねください」

「ありがとうございます。まず、神の七賢人と呼ばれる方々についてお伺いしたい」

「神の七賢人とは、面接官の頂点に立ち、この国……いえ、この星を導く七人の面接官の総称です。末席ながら私もそこに属しております」

「なるほど……」

 ゼノはペンを走らせ、メモを取っていく。

 要するに、この世界の支配者は神の七賢人と呼ばれる集団らしい。そして、おそらく彼らの前では法律は機能していないか、法律そのものがない人知国家となっているのだろうと推測した。

「我々の筆頭は“天眼てんがんの面接官”と呼ばれる御方です。文字通り、神のごとき目を持ち、全宇宙はおろか、未来、過去のすべてを見通す力を持つと言われております。私もそのお力を間近で目にしたことは数回しかありませんが、全知全能と呼ばれるに相応しいお方です」

「ご親切にありがとうございます。まさか、このような先進的な国家が存在していようとは思いませんでした」

「いえいえ、人間力こそが国の礎ですから。質問はまだおありの様子。さあ、お次の質問を」

「ご高配感謝いたします。面接官、という職業は我々の国では企業などで人物を採用する職務を帯びた人物を指すのですが……この国では警察の役割も果たしておられるのですか?」

 老人は穏やかな笑みをたたえたまま

「はい、面接官は人物重視で選ばれ、その人格は完成されております。ゆえに、どんな職務であっても公平かつ公正に行うことができるのです。警察だけではありません。面接官には簡易裁判を行う権限も与えられております」

「なるほど……」

 どうやら、三権分立といった近代的な文化はとうに消え果ているようだとゼノは理解した。

「非常に良い記事にすることができそうです。出来ることなら、神の七賢人と呼ばれる方々に謁見したいのですが……」

 あわよくばその場で暗殺をと考えているが、そんな素振りはおくびにも出さない。

「そうですね……それは難しいでしょう。神の七賢人は多忙……文字通り、この星のために日々面接を行っています。地上にいることもありますが、そうではないこともあります。特に、我々のトップである天眼殿と天啓殿は異邦人とはいえ、そうそう簡単にお会いすることはありません」

「そうですね。突然のお尋ね、失礼しました」

「構いません。異邦人ゆえ、ということもありましょう」

 それでは、これで失礼しますと述べて、ゼノは老人の前から立ち去った。ゼノが老人に背を向けてすぐに、一人の少年が老人に石を投げた。

 その石はゼノの背中にぶつかった。

「……子どもに石を投げられる真似はしていないと思うのだがね」

 苦笑するゼノとは対照的に、老人の形相は先ほどと同様に凶悪なものに変わっていく。

「……下民のガキ風情が……外国からの来客に何たる無礼を……!」

 口調は荒くなり、呼吸も荒くなる。

「このクソガキがッ! テメエは……人間力ゼロだッ! 死刑執行ッ! ミンチ肉にして母親に食わせてやるッ! 死にさらせッ!」

 老人は奇声を発しながらサブマシンガンを謝る少年に向けて連射し、瞬く間に肉塊に変えた。

「ぐふふふふ、裁定は下りました。下民のガキ風情が……おっと、記者の方、失礼しましたね。このようなガキ……子どももいるのです。まことにお恥ずかしい。人間教育がまだまだということです。処刑させていただきましたので、このことは水に流していただけますか?」

「え、ええ……もちろん。しかし、何も殺さなくても……」

 ゼノは言葉を発した後で、言ってはならないことを言ってしまったことに気付いた。

こんばんは、星見です。

電気代が……ガス代が……灯油代が……3倍に……生活費が……

な状態です。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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