アオイの恋②
「あの〜? アシュリー様……どうして私はアシュリー様のお膝の上にいるのでしょう?」
アシュリー様からのあーん攻撃が止んだ後、私はようやく質問をした。
アシュリー様がこの場に現れたときは、騒然とした。
神官長だけはニコニコして、予め用意されていた椅子を首尾よく配置した。
……あのおじいちゃん神官長だけはアシュリー様が来ることを知っていたのだろう。
「ステラ、俺というものがありながら、合コンに参加するなんて、いけない子だね?」
「ひえっ……!」
バレていた。
アシュリー様には、アオイ主催のお茶会に参加するとは伝えた。
アオイが『合コン!』と息巻いていたものの、そうはならないと考えた私は、アシュリー様に余計なことを伝えることはないか、と安易に考えていた。
でも、秒でバレていた。
「でででで、でも、来るのは神官で、合コンにはならないと」
「それでも、男ばかりの所に君が来るなんて俺には耐えられないよね?」
私の髪を一房掬い取り、チュ、と口付けをしながら上目遣いで見るアシュリー様。
「ご、ごめんなさあい……」
「わかればよろしい」
アシュリー様に責められ、つい謝罪の言葉が出てしまう。
私を許したアシュリー様は、その真剣な表情を甘く崩すと、私の頬にキスをした。
「!!!!」
ひ、人前で……!!
歓談しつつも、こちらを伺っていた神官たちが一斉にざわつく。
うう、嬉しいけど、恥ずかしい。
『これからは俺が押すから覚悟して?』
その言葉通り、結婚してからのアシュリー様の怒涛の甘い攻撃に、私の心臓はいつもパンクしそうだった。
結婚したから、それ以上のこともした………、でもでもでも……!!
ずっと私の一方通行みたいなものだったから、夫婦なのに、こんな恋人同士みたいな時間、夢に見たけど心臓が持たない。ううう。
「ちょっと! アシュリー様!!」
アシュリー様の膝の上で、甘々な空気になっていると、神官たちと挨拶を終えたアオイが怒鳴り込んで来た。
「何だ、アオイ殿」
「何だじゃないわよーー! 今日は合コンだったはずなのに!! 何であんたたちだけイチャイチャしてんのよ!」
「いちゃいちゃ………」
アオイの言葉に嬉し恥ずかし、赤くなる。
「はい、そこ、喜ばない!」
このお茶会が始まるなり、アオイは神官たちに取り囲まれていた。
ただ、それは、アオイが望んだ展開になったわけではなく……。
「聖女様、聖女様、って、敬ってくれるのは嬉しいけど、こんなのちがーーう!!」
……やっぱり。
神官は神に仕える身。もちろん結婚する人もいるけど、聖女は崇拝する女神のようなもの。
アオイには悪いけど、神官がアオイをそんな目で見ることは無いだろう、とは思っていた。
予想通り、神官たちはアオイに自己紹介をすると、聖女の素晴らしさを説くばかりだった。
神官長もそれをニコニコと見守っていた。
やっぱり、聖女と教会の親交会だった……。
「神官長に頼んだ時点で間違ったな。ただ、この場は私とステラの仲を見せつけるには丁度良い。二度と君と私を結ばせようなどという輩は出てこないだろう」
「私の合コン、利用しないでよ〜!!」
アオイの叫びがホールにこだました。
ゴメン、アオイ。というか、アシュリー様がそんなことを考えていたなんて。
策士なアシュリー様、カッコイイ!!
というか、神官長もグルね、これ。
「新体制の教会には若い神官が多い。この機会を作ってくれて感謝する、神官長」
「ほっほっほ、ステラ様には魔物討伐で国が救われております。私もそのことは若い者たちに説いておりますのに、必要でしたかな?」
やっぱりグルだった!
アシュリー様と神官長がにこやかに話しているのを呆然と見ていると、アシュリー様が私の視線に気付く。
「ステラが私の物だと示す必要もあるからな」
ひえ!!
「ア、アシュリー様! 私は聖女のアオイと違って、神官からは好かれておりませんが……」
アシュリー様の甘い言葉に動揺しつつ、彼にそう言えば、溜息をつかれてしまった。
「ステラは自分の魅力をわかっていないようだね? 本当は騎士団の中に置くことだって俺は嫌なのに」
「えええええ?!」
アシュリー様のまさかの言葉に驚いてしまう。
「き、騎士団は私にとってはお仕事で……。アシュリー様がいるこの国を守りたくてやっているわけで……私はアシュリー様のために……ってアシュリー様?!」
アシュリー様に必死に説明していると、アシュリー様は私の肩に顔を埋めてしまった。
「ごめん……わかってる。ステラは俺のために一生懸命なんだって。それなのに嫉妬して、カッコ悪い……」
えええええ!!
「カッコ悪くなんてないです! アシュリー様はカッコイイです!! し、嫉妬なんて!! 嬉しくて夢みたいです!」
私の肩に顔を埋めるアシュリー様に、つい嬉しくて、想いの丈をぶつけると、アシュリー様の耳が赤く染まった。
「もう、ステラ……俺をこれ以上喜ばせないでよ……」
ええええ!!!
「私なんかの言葉でアシュリー様が喜んでくれるなら、私、何度だって言います!!」
「……勘弁して、ステラ……」
力いっぱいアシュリー様に宣言をすれば、顔を上げた彼は、熱を帯びた目で私を見つめた。
「ちょっと!!!! いい加減にしてよーーー!!」
あ、忘れてた……、ごめん!!
すっかり二人の世界に入ってしまった私たちに、痺れを切らしたアオイの本日二度目の叫びが、ホールに響き渡った。