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ゴウゴウと音を立てる竜巻は、どんどん大きさを増している。
このまま何も出来ずにいると、王宮だけではなく、この国そのものを破壊する脅威になるだろう。
まあ、私が阻止してみせるんだけど!!
勢いの弱い場所を目指し、竜巻に近づくと、私は結界を自身の周りに張り、中に侵入した。
「アオイ様ー?」
竜巻の中は、風が吹き荒れるも、外よりは静かで、不気味なほどシンとしている。
王宮よりも高く膨れ上がったその竜巻の一番上を見ると、光に包まれた人影が見えた。
「アオイ様!!」
私はすぐさまスピードを上げて、上へと上昇した。
「アオイ様!」
アオイ様は、眩い光に包まれたまま、うずくまっていた。
小さく縮こまり、泣きじゃくる彼女は、まるで小さな子供のようだ。
「アオイ様……?」
そっと彼女の頭に手を伸ばした、その時。
キイイン、と音と共に、風が吹き荒れた。
思わず目を閉じ、体勢を整えてアオイ様を見ると、彼女は泣きじゃくりながらこちらを見ていた。
「何よ! 何しに来たのよ?! 私を笑いに来たの?!」
「アオイ様、落ちついて…」
アオイ様は泣き叫びながら、その聖女の力を暴走させていた。
「みんな嘘ばっかり!! 影で私のことなんて馬鹿にしていたんだわ! テーラーも、アシュリーも、あなたも!!」
「アオイ様、それは違います……」
「うるさい!!」
キイイインーー
アオイ様の力が不安定すぎて、近付けない。
迂闊に刺激すれば、王宮くらいは一気にやられてしまうかもしれない。
「誰も、誰も、私のことなんて愛してくれないんだーーー」
痛いくらいのアオイ様の叫びに、こちらも胸が苦しくなる。もしかしたら彼女は、異世界で寂しい思いをしてきたのかもしれない。
でも、だからといって、アシュリー様を譲ってなんてあげられない。本気で彼を愛しているのは、私だから。
アオイ様はアシュリー様を愛しているというよりは、恋に恋をする、少女のそれのような。
アオイ様を召喚したのはこちらの国の都合。彼女の人生そのものを奪ってしまった責任は取る。
でもそれとアシュリー様との結婚は別よ!
アオイ様の幸せも必ず、一緒に探す!
「アオイ様、聞いてーーーー」
「うるさい、うるさい、うるさーい!」
聞く耳を持たないアオイ様はただただ泣き叫んだ。その感情と比例して、力が暴発していく。
うーーん、話をしないことには……。
覚悟を決めた私は、結界をより強く自身にかけると、アオイ様にゆっくりと近付いた。
「来ないで!来ないでーーー!」
アオイ様はそんな私に泣き喚き続けた。
そんな彼女にゆっくり近付き、頃合いを見て一気に間合いを詰めるーーーー。
「落ち着け」
ゴン。
アオイ様にすっと近寄った私は、彼女の頭にチョップをかました。
瞬間、ピタリと風が止む。
アオイ様が呆然としている。
うん、うん。やっぱりこういう時は、小難しい魔法より、原始的な方法が一番よね。
「いったあああい!! 何すんのよ??」
我に返ったアオイ様が、頭を押さえながら叫んだ。
「いや、人の話聞かないから……」
「だからって、普通、人の頭、叩く?! 信じ、らんっない!」
フッ、と笑みが溢れた。お互い、目が合った瞬間、自然に溢れた。
それから、私はチョップしたアオイ様の頭を撫でてあげると、彼女は私に抱きついて、わんわんと泣いた。
力の暴走は止まっていた。
それから。
次第に凪いでいく竜巻の中、私はアオイ様の異世界での話を聞いた。
アオイ様のご両親の話、お付き合いしていた人の話、本気で愛した人の話。
そして、アシュリー様こそ本気で愛してくれる存在だと思った話。
ポツリポツリと語ってくれた彼女の話を、私はただ黙って聞いていた。
「ごめんなさい……私、自分のことしか考えてなかった」
「えっ」
話し終えたアオイ様は、私に面と向かって謝罪した。あまりにも殊勝な姿に、思わず面食らってしまった。
「な、何よ?」
「いえ、あんなに敵意剥き出しだったのに、そんなあっさり謝られるとは……」
「あ、何よ?! せっかく人が謝ってるのに!!」
「ご、ごめんなさい……」
頬を膨らませ、怒るアオイ様に思わず謝ると、彼女は「許してあげる。私優しいから」と言って笑った。
真ん丸の黒目を細め、異世界に来て、初めて心から笑う彼女を見た気がした。