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「何それ………」

「アオイ様!!」


 振り返ると、そこにはアオイ様が立ちつくしていた。顔が青ざめている。大丈夫だろうか?


 テーラーが慌てて駆け寄るも、彼女は彼の手を振り払い、アシュリー様に掴みかかった。


「ねえ、アシュリー! あなた、その女に騙されているのよ!! そんな女と結婚なんてしない方が良いに決まってる!」


 悲痛な声のアオイ様に、私の胸も痛む。でも、アシュリーはそんな彼女にも、一切感情を揺らすことなく言った。


「君に俺たちの10年の何がわかる」

「じゅう……ねん……?」

「俺たちが婚約して10年だ」

「そんなに縛られ……て?」

「ああ」

「やっぱり?!」


 アシュリー様の返答に、アオイ様の黒い瞳に光が差す。


「俺はずっとステラにだけ、心を奪われている。俺を縛れるのはステラだけだ」


 アシュリー様がキッパリと告げると、アオイ様の瞳はすぐに翳った。


 私はというと、アシュリー様がそんなことを思っていてくれてたなんて!!と嬉し恥ずかしな気持ちで舞い上がっていた。


「何それ………じゃあ、私のほうが邪魔者なんじゃん……私を愛してくれる人なんて……」

「アオイ殿?」


 ゆらり、とアオイ様の周りの空気が揺れた気が、した。


「私を愛してくれる人なんていないんじゃん!!」

「アシュリー様!!」


 ゴオッ、というけたたましい音と共に、アオイ様の周りが、竜巻で囲まれた。


 私はすぐさま結界魔法を張ってアシュリー様の前に出た。


「ステラ、すまない」

「いいえ! 私はアシュリー様を守りたくて魔法を必死に勉強したんですから」


 私の言葉に、アシュリー様は嬉しそうに微笑んだ。甘くなりそうなせっかくの空気を我慢しつつ、私はテーラーに問う。


「テーラー、あれ、どういう状況?!」


 テーラーは地面に腰を付き、呆然としていたが、私の問いかけにすぐにハッとする。


「聖女の力が、暴走しています……。あれを止められる者なんて、この国一番の魔法の使い手じゃないと……」


 さっきまでアシュリー様に食ってかかっていた彼は、聖女の力の暴走を前に、すっかり縮こまってしまっている。


「テーラー、お前の処遇は後でゆっくり下すとして。とりあえず、すぐに救護隊を呼んでこい。」

「で、でも……聖女様は………?」


 そんなテーラーにアシュリー様が指示を出すも、彼は戸惑っている。


「お前、ここに誰がいると思ってる?」

「え?」

「国一番の魔法の使い手、だぞ」


 戸惑う彼に、手を差し出され、紹介されたのは、もちろん、私。


 アシュリー様に並び立つために、とがむしゃらに鍛えた私の魔法は、今や国一番になっていた。


「え? え?」


 戸惑うテーラーの反応は、まあそうだろう。神官は聖女派だ。皇太子であるアシュリー様の婚約者である私を知ろうともせず、馬鹿にし、排除しようと思っていたのだから。


「早く行け!」

「はっ、はいいい〜」


 アシュリー様に怒鳴られたテーラーは、情けない声を出してすっ飛んで行った。


「さて、ステラ。君を危険な目に遭わせたくはない……。だが、」


 私の頬に手を滑らせ、アシュリー様は困ったように微笑んだ。


「いえ、お任せください、アシュリー様! 私、あなたのためなら何だって出来るんですから!……アシュリー様?」


 力強くそう答えれば、アシュリー様はまた手で口を覆い、そっぽを向いてしまった。


「もう、君って何でそんなに俺を喜ばせることばかり言うの……」

「えっ?!」


 照れながらも嬉しそうに笑って振り返ったアシュリー様に、私も思わず赤くなる。


「あの……」


 何か言わなきゃ、と口にした所で、添えられていたアシュリー様の手によって、私の頬が引き寄せられ、お互いの唇が合わさった。


「?!?!」

「ステラ、必ず俺の元に帰ってきて。じゃないと、俺は生きていけない」

「………アシュリー様、そんな重いこと言う方でしたっけ?」


 キスの後、アシュリー様らしからぬ台詞に、私は思わず笑ってしまった。


「俺は本気なんだが……」


 ムスッとして答えるアシュリー様に、愛しさがこみ上げる。


「アシュリー様! 私はあなたに死んでほしくないので、絶対に帰ってきます!!」


 力強くそう言えば、満足そうに微笑んだアシュリー様の顔が近付いて、またキスをされた。


「これが片付いたら結婚式をしよう」

「アシュリー様………!」

「今回、神官が暴走しただけの話で、根回しは済んでいる」


 そう言えば、さっきテーラーとそんな話をしていたな、とアシュリー様を見れば、彼は企みを成功させた悪者のような笑顔で、こちらを見ていた。


 悪役アシュリー様もカッコイイ!!


 そうして、アシュリー様にもう一度キスをされた私は、彼と別れ、魔法で浮き上がる。


 アシュリー様は、万が一のため、王宮内とその周辺の避難指示のため騎士団へ。


 私が目指すは、竜巻の中心地。アオイ様の元へ!!

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