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アオイとマシュー

アオイ視点です。

「ねえマシュー」

「な、何だっ!」


 ステラたちが去って行って、私はマシューと二人きりになった。


『俺が好きなのはアオイです!』


 さっきマシューはアシュリー様にそう言った。


 マシューがステラを妹のように思っているのはわかったけど、アシュリー様にそう思わせるためのその場しのぎの言葉だったら……?


「さっきのもう一度言って欲しいの」

「さ、さっきって……」

「好きってやつ」

「!」


 背の高いマシューを見上げ、じいっと見つめれば、彼はぱっと背を向けてしまった。


 ……やっぱり。


 さっきのは、ステラを好きだった想いをアシュリー様に隠すための嘘。


 私はそれに利用されただけ。そんなこと、わかってた。私を真剣に好きになってくれる人なんて現れない。


 背を向けたマシューをぼんやりと見つめながら、ポロポロと涙が溢れてくる。


 今まで出会った男たちとは違う。マシューはいつだって飾らない言葉で、私自身を見てくれていた。


 私、マシューのこと、こんなに好きになっていたんだ。


 流れる涙を頬に感じながら、私は初めての感情に胸が押しつぶされそうだった。


 先生と恋愛をしていた時は、これが本気の恋だと思っていた。でも違った。先生は私を愛してなんかいなかった。身重な奥さんの代わりとして、遊べる相手が欲しかっただけ。


 マシューに私が好き、と嘘でも言われて嬉しかった。


 今までは男が寄ってくるだけで、自ら想いを寄せることなんて無かった。


 片思いって、こんなに切ないんだね。


「あの、さ…、アオイ……」


 何かを言いにくそうに振り返ったマシューが私を見て、ぎょっとした。


「な、何で泣いてるんだ?!」


 私は涙をぐい、と手で拭うと、マシューを真っ直ぐに見た。


「私、マシューのことが好き」


 真っ直ぐに絡んだ視線が熱を帯びる。


 好きになった人の焦げ茶色の目が、驚きで揺れている。


 迷惑……だよね。こんなこと言われても。


「………俺をからかっているのか……?」


 真剣な告白だったのに、マシューから溢れてきたのは、そんな酷い言葉だった。


「何言ってるの……?」

「お前が? 俺を?! 嘘だろ……」

「嘘じゃないもん!!」


 信じられない、といった表情で、マシューは片手で額を覆った。


 告白さえ、受け入れてくれないの?


 私を拒絶するように一歩引いているマシューの距離がもどかしい。


 やっぱり、私が人を好きになるなんて……


 ーーーーアオイーーーー!!


 卑屈な思いが胸に充満した時。


 浮かんだのはステラの顔だった。


 日本にいた時の私とはもう違う。ステラが私を変えてくれた。


 私はぐっ、と胸の前で拳を握ると、マシューに駆け寄った。


「アオイーー?」


 距離を詰めた私に驚いて顔を向けたマシューの胸元を掴んで、グイ、と引き寄せる。


 屈んだ形になったマシューに、私は思いっきり背伸びをして、キスをした。


「な……」


 顔を赤くして固まるマシューに、もう一度気持ちをぶつける。


「私は、真剣にあなたのことが好きなの。その気持ちを否定しないで」


 掴んでいた胸元を優しくマシューに剥がされ、彼はポツリと話し出す。


「お前なら選び放題だろ…何で俺なんか」

「私はマシューだから好きになったの! さっき言ってくれたことは……嘘だったの?!」


 またポロポロと涙が溢れてくる。


 ステラのように、強く気持ちを伝えられる女の子であろうとしたのに。


 すると、マシューがふわりと私を抱きしめた。


「頼む、泣かないでくれ。お前に泣かれると、困る……」

「どうして困るのよ………」


 抱きしめられた胸の中で私はマシューを問い詰める。


 鍛えられた彼の胸はたくましくて。ドキドキしながらも、可愛げなく受け答えをしてしまう。


 いつも言い合いをしてきた皺寄せかも。


「俺は……お前が俺のことなんて何とも思ってないと思ったから……」

「だから?!」

「だから……自分の気持ちを口にした……」


 マシューの胸の中で、ばっと彼の顔を見上げる。


「それって、私のことちゃんと好きってこと?!」

「俺は騎士だ。この命をこの国に捧げている。女一人を幸せになんて出来ない。俺は振られると思ったから……」

「うるさい!!」

「なっ?!」


 大事なのは、私を好きかそうじゃないかってこと。


 それなのにマシューはさっきからグダグダと言い訳を並べている。ーー私と想い合ってはいけないかのように。


「私はあんたに幸せにしてもらおうなんて思ってない! 私がマシューを幸せにしてあげるんだから!!」


 マシューの胸の中。


 きっぱりとそう宣言すると、一瞬固まったマシューは、ブハッ、と笑いだした。


「なっまいき!」

「な、な……!」


 真剣に言ったのに!!


 笑うマシューを見て、恥ずかしさで震えていると、今度は彼からキスをされた。


「俺も男らしく、覚悟決めないとな?」

「覚悟?」


 急なキスに目を瞬きながらも、彼の言葉を聞き返す。


「お前を幸せにする覚悟」

「マシュー!」


 ふわりと微笑んだ彼に、私は嬉しくて抱きついた。


「……本当に俺で良いのか?」

「あんたが良いって言ってるでしょ! それに、あんたのことは死なせないから」

「え?」

「だって聖女である私が側にいるんだから」

「……それは頼もしいな」


 彼の胸の中で見つめ合いながら。私たちは、再びキスをした。


「俺は唯一を作らないと決めていた。その唯一にお前がなるってことは、覚悟出来てるよな?」

「覚悟?」


 唇を離した後、至近距離のマシューがまた覚悟の話をしている。


「アオイの全てを一生俺のものにするってこと」

「!」


 しれっと答えるマシューに顔が赤くなる。


 な、な、……!私の方が恋愛経験値高いと思ってたのに……!


「望むところよ!!」


 赤くなりながらも、必死に叫べば、大人の余裕の表情で微笑んでいた彼は、愛おしそうに私を見た。


 このあと、私はマシューと婚約をすることになる。


 一人の人に愛される喜び、大切な人を想う気持ち。そして、帰れる場所。


 私はこの国で、ようやく本物の幸せを手に入れたんだ。

アオイの恋編、ホントのホントに完結です!!お読みくださった皆様ありがとうございました!!

このお話しはここで一旦、完結とさせていただきますが、また時間があったら書きたいなーと思ったり。

本当に沢山の方に読んでいただけて幸せでした。ありがとうございましたm(_ _)m


新作も始まりましたので、お時間ありましたら読んでいただけると幸せです……!

「魔女の私と聖女と呼ばれる妹〜隣国の王子様は魔女がお好きみたいです?!〜」

https://ncode.syosetu.com/n3590hu/

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