アオイの恋11
「アオイ、そこの浄化は任せたよ!」
「オッケー」
今日も魔物討伐の日。
アオイの浄化のお陰で、グルノーワ王国は完全な平和に向かっている。
いくら私たちが魔物を討伐しようが、また湧いて出る。
聖女にその地を浄化してもらうことによって、その地の穢れを払ってもらう。
私は改めて、聖女の力の重要さを目の当たりにしている。勢いだけでやって来た私だけではダメなのだ。
第一部隊との統制にも慣れたアオイは、高い魔力を増々安定させて使えるようになってきた。
浄化の範囲も広く出来るようになり、彼女の安全を守りつつも、即座に浄化していくスタイルで、魔物討伐も楽になってきた。
残っている地は強い魔物が多く、危険も伴うけど、わたしたちならやり切れると思う。
そう思っていたけど。
いつも通り魔物を殲滅し、最後の浄化をアオイに施してもらう。
その時だった。
殲滅したはずの魔物が、突如アオイに襲いかかったのだ。
油断した!
「きゃああ!」
間に合わない!
アオイの悲鳴と共に、魔物がアオイめがけて襲いかかる。
ザンッ!
「マシュー!」
「隊長!!」
アオイを突き飛ばして庇う体制になったマシューが、魔物に切り裂かれてしまった。
私は急いで魔法で魔物を吹き飛ばすと、他の隊員が魔物に斬りかかり、今度こそ沈黙させた。
「アオイ、浄化を!!」
急いで声をかけ振り返ると、アオイは倒れたマシューの側で泣いていた。
「マシュー、しっかりして!!」
「アオイ!」
「嫌だ……! 死なないで……!!」
泣き叫ぶアオイに私の声は届かない。
「アオイ!」
私は泣き叫ぶアオイの頰を両手で挟み込み、語りかける。
「マシューは大丈夫だから。早く浄化を」
「でも………」
「またチョップされたい?」
「………今は暴走してないですけど?」
アオイの顔を覗き込み、言い聞かせる。
私たちは、アオイが暴走した時の思い出話に、お互いに吹き出した。
「よし!」
そう言って涙を拭ったアオイは立ち上がり、見事にこの地を浄化してみせた。
この地の空気が澄んだような、神聖な気持ちになる。
「マシュー!」
浄化を終えたアオイは、治療を受けるマシューに急いで駆け寄った。
「しっかりして!!」
アオイが叫んだ瞬間。
アオイの身体が神々しく光り、マシューへと伸びていった。
「ん……」
「マシュー!」
「何だ、泣いてんのか……。はは、ステラに言った言葉が自分に返ってくるなんて、情けない……」
「マシュー?」
目を覚ましたマシューは、アオイの涙を指で拭うと、そのまま気を失った。
「怪我が治ってる……!」
「聖女の力だわ……!」
マシューの身体を確かめたカーティスが驚いたようにこちらを見たので、聖女の力だ、と言うも、アオイの目覚めた新しい力に私自身、驚いている。
「アオイのおかげだよ!」
「ほんと? マシュー、大丈夫?」
また泣きそうな顔で、心配そうに伺うアオイが可愛い。
「もう大丈夫だよ。今は気を失っているだけ」
「良かったああ……」
安堵するアオイの頭をよしよし、と撫でてあげると、彼女は私に抱きついた。
「マシューがいなくなったらどうしようかと思った」
「それ、本人に言ってやらないとね?」
「無理……」
私たちはしばらく抱き合った後、王城へと無事に帰還した。
◇
「マシュー大丈夫かな?」
騎士団の治療所の前で、私とアオイは彼の目覚めを待っていた。
隊員は全員帰して、今は私とアオイと、カーティスのみが残った。
「お医者様もじきに目を覚ますだろう、て言ってたから大丈夫だよ」
未だに心配そうにするアオイ。
きっとマシューの顔を見るまでは笑顔にならないだろう。
「ねえ、アオイ様、何であの隊長が不覚を取ったか聞きたい?」
「え?」
もうマシューが大丈夫だとわかっているカーティスは、余裕の表情でアオイに近付いた。
「実はね…」
ヒソヒソとアオイの耳に顔を近付け、何やら話すカーティス。
何話してるんだろう?
「何をしている、カーティス!」
そう思った時、治療所の入口からマシューの叫び声がした。
「マシュー! もう大丈夫なの?!」
彼に声をかけるも、届いていないのか、マシューはこちらを見ずに、ズンズンとアオイとカーティスの場所まで歩いていく。
「いくら本気だからって、いきなりキスするやつがあるか!!」
「へ?」
マシューは至って真剣に怒っている。
しかし、その場の全員が首を傾げて固まった。
「ま、まさか、アオイは同意の上だったか?!」
固まった私たちに、顔を真っ赤にしながら、マシューが狼狽える。
「えっと、マシューは何を言っているのかな?」
「え」
私の言葉に、今度はマシューが固まる。
と、同時にカーティスが笑いだした。
「あー、そういうこと! …俺が無理矢理アオイ様にキスした、って言ったらどうするの……?」
煽るようにそう言ったカーティスの襟をマシューが掴みかかる。
「お前……!」
一触即発。そんな空気の中。
「私、カーティスにキスなんてされてない!!」
アオイの抗議の声がその場に響いた。
「は?」
「だーかーらー、キスされてないってば!」
再び固まったマシューが、カーティスに目をやれば、彼はぺろりと舌を出してウインクした。
「そゆこと!」
「なっ、なっ………」
顔を赤くしてワナワナと震えるマシュー。
「ねえ、マシュー、マシューはステラのことが好きだったりした?」
「「は?????」」
アオイの突然の問に、私とマシューの声が重なる。
「そ、それは絶対にないぞ! ステラは妹だからな!!」
そんな力一杯否定しなくても……と思いつつ、アオイってばそんな心配までしてたのか、と彼女の可愛さにほっこりとする。
「それは本当だな?」
ほっこりしていると、聞き馴染みのある、愛しい声。
「アシュリー様?!」
「で、殿下?!」
私たちの背後にはいつの間にかアシュリー様が立っていた。
「お前は前に、ステラは妹だと言った。それに偽りは無いな?」
鋭い目つきでマシューを見つつ、私を腕の中へ納めるアシュリー様。
アシュリー様?
「勘弁してくださいよ、俺だって殿下には殺されたくないですからね。」
「ほう、私に殺されたくないから嘘をつくか?」
「もー、勘弁してください! 俺が好きなのはアオイです!」
「え」
マシューの言葉にアオイと私は目を瞬き、アシュリー様とカーティスはニヤリとした。
「じゃあ、邪魔者は行こうか」
「えっ、えっ……」
アシュリー様に肩を抱かれ、私たちはその場を離れる。
アオイとマシューは赤くなり、モゴモゴと何か言いながら、お互い見合っていた。
二人、素直になると良いな。
ここからは二人のお話だろう。
「ステラに少しでも近付くと殿下に殺されるって言っただろ」
「えええええ?!」
その場を離れながら、私にこっそり耳打ちをして去っていくカーティス。
あのときの言葉って、そういうこと?!
でも今回は、マシューのために焚きつけてくれただけな気が……。
「あの、アシュリー様」
「上手くいくと良いな、あの二人」
アシュリー様に聞くまでもなく、私の言わんとすることを察してアシュリー様が言った。
もう、好きです!!
「はい!」
私は思いっきり元気に返事をした。
「でも、ステラによからぬ想いを抱く奴がいたら殺す、っていうのは本気だから」
「えええええ?!」
思いもよらぬアシュリー様の重たい発言に、私の心は幸せでいっぱいだった。
それから。
聖女様と第一部隊隊長の恋のロマンスが噂になるのはすぐのことだった。
アオイの恋編、実はここで終わりなのですが、アオイとマシューのラブ度が足りない!!(笑)
ということで、あと一話番外編あげます。
今月中に新作の方を投稿したいので、少しだけ先になりますがお待ちいただけると嬉しいです(^^)
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