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アオイの恋⑩

マシュー視点です。

 アオイのことを目で追うようになったのはいつだったか。くそ、何で俺があんな小娘なんか……。


 今日は騎士団は休みで、訓練場で自主的に集まってきた騎士たちと剣の打ち合いをしていた。


 訓練場には第一部隊だけではなく、色々な部隊の騎士たちがやって来る。


 普段、訓練している仲間以外と手合わせを出来る貴重な時間だ。


 そんな結意義な休日に何故苛立っているかというと、訓練を終えた騎士たちの会話を聞いたからだ。


 うちの隊員と他の隊の隊員が、『聖女』の話で持ちきりだからだ。


「良いなあ、聖女様と一緒に活動出来て」

「アオイ様は可愛いからな」


 いまやアオイの話題は何処でも持ちきりになる。


 たく、何であんな小娘が良いんだが。確かに顔は可愛い。でもそれだけだ。それだけの……。


「俺にもチャンスあるかなー?」

「お前があるわけないだろ!」

「でもアオイ様は合コンを開かれていたと聞くぞ」

「まじかよ! 呼ばれてぇ〜!」


 ……有意義な休日、のはすが、下世話な話題になり、増々腹が立つ。


「おい、お前ら、そんな浮ついた気持ちで魔物とやれると思っているのか?」

「ひえ!」


 気が付けば、隊員たちに口出しをしてしまい、彼らを訓練場に引っ張り出し、しごいてしまった。


 何でこんなにイライラするのか、自分でもわからない。思えば、あいつが神官に囲まれていた時からイライラしている気がする。


 数日前、使われていない訓練場で、アオイが魔法の訓練をしているのを見かけた。


 ステラとの授業は終わったはずで、一人で自主訓練をしているようだった。


 色恋ばかり言っている小娘だと思っていたのに、素直に見直した。


 魔法の精度も、あの暴走事件から一度も荒れることなく、確実に上がっていた。


 ステラの教え方が良いのはもちろんだが、一番は彼女の努力の賜物だろう、と。


 一生懸命に額に汗を浮かべ、努力する彼女の姿は、美しいとさえ思った。


 そんな彼女が訓練を終えると、またたく間に神官たちが集まり、彼女にタオルやら飲み物やらを差し出して囲んでしまった。


 声をかけそびれた俺は、つい言ってしまったのだ。


『男を侍らせて良いご身分だな』


 その時のアオイのこちらを軽蔑する目が頭から離れない。


 違う。一言、「頑張ってるな」と言えば良いだけだ。他の部下の奴らと同じように。


 なぜ俺はこんなにも苛立つのか。


 その後、初めての魔物討伐でもアオイとは言い合いになってしまい、こんなはずでは、と内心落ち込んだ。


 同じ命をかける仲間に、どうして俺は労いの言葉一つかけられないのか。


 その討伐で、ゴブリンの予想外の動きにアオイを危険に晒してしまった。


 助け出した彼女は、震えていた。


 当たり前だ。初めて魔物と対峙したのだから。


 ステラがバッタバッタと魔物を倒すものだから忘れていたけど、彼女は普通の女の子だ。


 震える彼女を抱き締めそうになったが、それは違う、と思い止まった。


「あ、ありがとっ!」


 ぶっきらぼうにお礼を言う彼女に、素直なんだか、素直じゃないんだか、と愛おしくて笑みが出てしまった。


 その後の浄化は見事なまでで。


 場を浄化する聖女である彼女は、綺麗だった。


 …ふと、自分がアオイに絆されてないか?と思い、頭をブンブン降った。


 妹のようなステラに向ける感情とは違う、この感情は………。


 ダメだ、ダメだ!


 俺はこの騎士団に命をかけている。


 女を幸せにすることなんて出来ない。


 真っ直ぐにお互いを想い合えるアシュリー殿下とステラが羨ましくて、眩しい。


 でも、今なら引き返せる。そう思っている時だった。


「俺、アオイ様、本気で口説こうかな?」


 副隊長のカーティスが俺に挑戦的な目で言った。


 隊員を誰よりも観察し、気配りの出来る男。


 俺のこの揺れる気持ちにも気付いているのだろう。


 それでも俺に宣言をしたということは、アオイのことを本気なのだろう。


 だから、「好きにしろ」と言った。


 カーティスならアオイを幸せに出来るだろう。アイツは俺から見ても良い男だ。


 また一人、妹のような存在の幸せを見送るだけ。


 そう思って剣を振るっても、浮かぶのは俺に向けるアオイの怒ったような表情と、ステラに向ける可愛い笑顔だった。


『心ここにあらずだぞ。そんなんじゃ魔物にやられるぞ』


 いつかステラに言った言葉が、今になって自分に刺さるのを感じた。

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