アオイの恋⑨
「ねえステラ、何でマシューって彼女いないの?」
アオイとの訓練終わり。中庭で二人、並んでお茶をしていると、アオイの口からそんな話が出てきた。
「いや、あ、あれよ? あんなモテてるくせに、あえて作らないとか言ってやがったから何でかなって! 興味よ? 興味!」
まだ何も言っていないのに、言い訳じみた発言をするアオイが可愛い。
昨日カーティスに話を聞いていなかったら、確かに普通に見逃していたかもしれない。
……いつの間に……。
気付けなかった自分にショックを受けつつも、可愛いアオイにほのぼのとしてしまう。
可愛いアオイに、にんまりと笑顔で問に答える。
「マシューはねえ、騎士団に命を懸けちゃってんのよねえ。それで、いつか死ぬかもしれない自分には大切な人は必要ない、って思ってるみたいなんだよね」
「何それ、カッコつけちゃって」
「ほんとだよねえ」
私の説明に、アオイは悪態を付きながらも、傷付いたような表情をしている。
「マシューは、侯爵家、貴族の息子なんだけど、三男なの。だから、自分の居場所を騎士団に見出して頑張って来たんだよね」
「え…」
私の話に、アオイの黒い目が揺れた。
シェーベリン家を出て一人、騎士団でのし上がって来たマシュー。
何か、家族と距離があって寂しい想いを抱えている所、アオイと被るのよね。
だからかな。二人なら、って思ったのは。
「アオイならマシューと上手くやっていけると思わない?」
「は?!」
「好きなんでしょ? マシューのこと」
「!」
眉をつり上げ、固まってしまったアオイの顔は、赤い。
「……だから、いつもストレート過ぎるって言ってるじゃない……」
顔を赤くしたまま、アオイは観念したかのように言葉を吐き出す。
恋するアオイの表情は可愛くて、ついニマニマしてしまう。
「もう! でも余計なことはしなくて良いからね?!」
ニマニマする私に、アオイは念を押すように言う。
「え? 何で?」
いつもの勢いなら、協力しろー!って言うかと思ったのに。
意外なアオイの言葉に首を傾げると、アオイの表情は憂いを帯びていた。
「だって……、私、アイツに嫌われてるでしょ?」
か、可愛い!!
真剣に悩んでるアオイには申し訳ないけど、この恋する女の子に、たまらなく悶絶してしまう。
「そんなことはないよ」
悶絶しながらも、すかさずフォローを入れたけど、アオイがジト目でこちらを見てきた。
「そんなことあるでしょ」
「ええ?」
「だって、アイツ、私のこと仕事出来ない聖女だと思ってるし、恋愛体質だと思ってるし、会えば言い合いになるし!!」
止まらないアオイに、またまた可愛いなあ、とほのぼのしつつ、私も引かない。
「だから、嫌ってないって!」
「何でそんなことわかるのよ?!」
「マシューは認めた人しか第一部隊に置かないから!」
何故かアオイと言い合いになりかけながら、私は言い聞かせるように彼女に言った。
「第一部隊は魔物討伐をする、国の重要な要。だから、聖女だろうが何だろうが、置いとけない、て思ったら、他の隊に回すのよ、マシューは」
「聖女だろうがって、言い方………」
私の説明にアオイは呆れながらも、聞いてくれているようだった。
「だから、アオイは聖女として認められてるんだよ?」
「そっか……」
ようやく納得してくれたアオイは、そう言って、頷いた。
「聖女としては認めてもらえてるんだ……」
複雑そうな、でも嬉しそうに微笑んだアオイは、本当に綺麗で。
頑張り屋で、この国のために召喚された彼女には幸せになって欲しい。そう願わずにはいられなかった。
「でもやっぱり、余計なことはしないでね」
「え、何で……」
「そういう対象に見られてないからよ」
「ええ〜……」
釘を差してくるアオイに、協力したい気持ちを出すも、アオイは断った。
そして、自分に対してやっぱり否定的だ。
そんなことないのに。あのカーティスが言うくらいだから、マシューだってアオイのことを意識しているのだろう。
「私、ステラみたいにど直球で生きてないから」
「あ、酷い!」
アシュリー様に好き好き攻撃で生きてきた私にとっては、相手に気持ちを伝えるのって大切だと思ってきたけど。
カーティスの言う通り、このままだとアオイとマシューの気持ちは交わらないかもしれない。
でも、本人が望んでないことを手出しするのも違うよねえ?
アオイとマシュー。
幸せになって欲しい二人に、私が出来ることは何だろう?
猪突猛進、真っ直ぐな私には難しい問題だった。