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アオイの恋⑦

アオイ視点です。

 この世界に来て、ステラと出会って、私は一生懸命に訓練を積んできた。


 私にこんな特別な力があったなんて、未だに信じられない。それをこの国の人たちは求めてくれている。


 力を制御出来るようになって、ステラはいっぱい褒めてくれた。


 ステラはこんな私を認めて、許してくれる存在。ここにいても良いんだと思える、初めての親友で、居場所。


 ステラは裏表が無くて、何でも言えるし、彼女の言うことは信用出来た。


 そんなステラとアシュリー様は、本当にお似合いだと思う。アシュリー様がステラを見ている時の表情は優しくて、愛おしそう。


 そんな二人が羨ましい。いつか私にもそんな人が現れるだろうか?


 聖女として、この国の役に立っていれば必要とされる。でも、愛してくれる人となると話は別だ。


「あーあ、ステラが男だったら良かったのに」


 そんなことを呟けば、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。


 そんな彼女に喜んで欲しくて、こっそり自主訓練もしていた。


 でも、私が一人でいると、神官がどこで聞きつけたか、わらわらと湧き出してくる。


 チヤホヤされるのは嫌いじゃなかった。でも今は、そんなことより唯一の人が欲しい。


 とりあえず神官たちには笑顔で聖女らしく振舞っていれば、あの男に嫌味を言われてしまった。


 マシュー・シェーベリン。私の七歳歳上のガタイの良い長身イケメン。ただし、性格は悪い。


 自主訓練をしていただけなのに、何であんなこと言われなきゃいけないんだろう。


 ステラのお兄さん的存在だって言ってたけど、恋人もいないようだし、本当はステラのことが好きだったんじゃないの?


 お城のメイドたちが、きゃあきゃあと、あの男を見ていたけど、興味なさそうな顔をしている。


 ふん、すましちゃってさ。


 今度、私はステラたちと魔物討伐に行く。絶対にあの男を見返して、ギャフンと言わせてやる!!



「アオイ、防御魔法をーー!!」


 安全な後ろにいたはずの私は、急に後ろから襲って来た魔物に取り囲まれる。


 ステラの声が聞こえた気がしたけど、動けない。


「聖女様っっ!」


 私の護衛をしてくれていた騎士たちが必死に私を庇ってくれている。


 切り取られる魔物。


「ひっ!」


 ギョロりとした眼が私を見る。


 怖い、怖い、怖い。


 あんなに訓練したのに。動けない。


 だって、日本にはこんなのいなかった!


 動け、動け、動け!!


 そう思うのに、手に力が入らない。


「聖女様!!」


 騎士の叫び声に気付くと、私の目の前には生きて動く魔物。気付いた所で、もう遅い。


 ダメだーーーー


 思わずギュッと目をつぶれば、ふわりと私の身体が浮いた。


 ザンっ、と一瞬の音がして、恐る恐る目を開ければ、魔物は動かなくなっていた。


 私、何で浮いてるの?


 ようやく追いついた頭で、自分が抱き寄せられていることに気付く。


「げっ!!」

「大丈夫か?」


 気付けば、私はマシューに抱えられていた。


 片方の手で私を抱き寄せ、片方の手には大きな剣。


 器用にも片手で魔物を倒したみたいで。


 この人、本当に強いんだ……。


 周りを見れば、魔物は一掃されていた。


「おい?」


 そんなことをぼんやり思えば、マシューに顔を覗き込まれてしまう。


「あ、ありがと! 助けてくれて!」


 プイ、と顔を背けてお礼を言えば、マシューはふわりと笑った。


「何だ、素直な所もあるんだな」

「し、失礼ね!!」


 初めて見せる笑顔にドキリとしてしまい、つい悪態をついてしまう。


 そんな私にワシャワシャと頭を撫でるマシュー。


「ちょ、犬じゃないんだから!」


 彼の手をどけようとして、動かした私の手が、今更ながらに震えてくる。


 じっと見てきたマシューに馬鹿にされたくなくて、つい可愛くないことを言ってしまう。


「肝心な時に動けなくて、ば、馬鹿にしてるんでしょ!! 悪かったわね! どうせ仕事出来ないわよ!」


 言われる前に、とつらつらとそんな言葉を発してしまう。


 言っていて、自分が惨めに思えてきた。


 でも、彼が発したのは、意外に優しい言葉だった。


「馬鹿になんてしてない。お前がどんなに訓練してきたか俺は知ってるさ。ステラを見てきたからつい忘れてしまうが、普通の女は魔物を前にして動けなくて当たり前だ」


 ポン、と頭に手を置いて優しく笑うマシュー。彼はこんな人だっただろうか?


 会うと言い合いになり、いけ好かない男。


 それが、何で、こんな非常事態の時には優しいのよ。


「ちょっと、それどーゆう意味?!」


 先頭の魔物を片付けたステラが、いつの間にかこちらに駆けつけていたようで、マシューに頬を膨らませながら迫っていた。


「ステラ!」


 マシューの腕の中にいた私は、慌ててステラに飛びついた。


 安心したのと、恥ずかしいのと、ドキドキを紛らわせたいのと、もう感情がごちゃまぜだ。


「アオイ、怖い思いさせてごめんね。頑張ったね」


 私を抱きしめ返してくれたステラに、ホッとする。


 それから落ち着きを取り戻した私は、初めての浄化作業をこなすことに成功した。


「これでこの地は安心ね!」


 初めての魔物討伐は怖かったけど、ステラの笑顔を見て、成功したんだと安心した。


 ムカつくあの男、マシューも優しく笑ってこちらを見ていたので、私の心は落ち着かなかった。

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