04. episode-3
「──何です?」
「いや……」
そう言われ、クライドは自分がずっとアリサの横顔を見ていた事に気がついた。
(顔色が、悪い……)
理由は知っていた。
エイダンの恋人を名乗る女が学園に乗り込んできたのだ。
──本当かどうかは知らない。
けれどあの気弱そうな男が押し負けた可能性は否めない。相手は学園に乗り込んでくるような女だ、ありえる。
そんな事態収束に生徒会も尽力しており、今室内にはクライドとアリサだけだ。
件の女は学園の教師が取り押さえ、不審者として警備に引き渡された。けれどアリサやエイダンの名前を敷地内で叫んでいたのだ。醜聞は免れないだろう。
「……仕事量が多いのでは、と思ってね」
「あら、お気遣いありがとうございます。ではこれをお願いしますね」
卒なく答えたつもりだったが、アリサの方が一枚上手だった。
言うが早いか彼女の書類半分が、自分の机に降ってくる。
内心でゲッと悲鳴を上げていたが──気付けば自席に戻るアリサの腕を掴んでいた。
「……殿下?」
驚きに目を見開くアリサの表情を、初めて崩せたとクライドの胸が少しだけすく。けれど急に腕を掴むのは非礼だったと、慌ててその手を引っ込めた。
「その……もっと私を頼っていい」
視線を泳がせ口にしたのは、正直自分でもイマイチな台詞だった。
泳がせた視線の先で、アリサが掴まれた腕を摩るのが見えた。
「……ありがとうございます。ですが申し訳ありません。私は誰にも頼りたくないのです」
そう言うアリサの言葉には、どこか決然とした響きがあった。
「殿下に生徒会に入れて頂いた事は有り難く思っております。自分の力に自信が持てましたから。ですが、私は他者に関わり巻き込まれるのが嫌です。そして自分も巻き込まれたくありません」
クライドは真っ直ぐにアリサを見上げた。
「だが、私たちは生徒会の仲間だろう?」
「それは、ここだけの仲ですから」
「では言い方を変えようか、私を利用してもいいんだよ」
その台詞にアリサはフッと鼻を鳴らした。
「殿下……もしかして根に持っていらっしゃいます? 以前私が殿下に女生徒たちを押し付けた事を」
「そうだ、私は既に巻き込まれているんじゃないか?」
何故か言い募る自分に違和感を覚えるも、不思議と言葉は止まらない。けれど縋るような気持ちで見上げても、アリサの瞳はクライドに何の感情も表さない。
「それでも……」
珍しく表情を崩し、アリサは微笑んだ。
「これ以上は、ご遠慮下さい」
「……っ」
「それでは私はこれで失礼致します」
クライドに仕事を押し付け、アリサはさっさと帰って行った。
ハッと気付いた時にはもう遅く、クライドは山積みになった机に突っ伏し頭を抱えた。
相手の要望を拒絶する為に、クライドだって笑顔を作る。
儀礼的で、無機質なものを──
(それなのに……)
綺麗だと思ってしまった。
しかも初めての彼女の笑顔が、拒絶の意が込められたものだなんて……
けれど。
それで遠慮する令嬢たちとクライドは違う。
すり抜ける手は掴みたいし、逃げるのなら捉えたい。
そして頑なな彼女を崩すには、素地を洗い出すしかないのだろう。
勿論生徒会に任命するにあたり、役員たちの最低限の調査は済んでいる。けれど形式的なものだけでない、更に詳しい情報が欲しい。
それがどういう意味を持つのかは、クライド自身、自分の気持ちを含め理解するには充分だった。




