表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/39

02. episode-1


 クライドにとってアリサは良くできた部下だった。

 優秀な成績、性別に捉われず物怖じしない態度。……それでいて下の者への配慮も欠かさない。

 彼女はよく気が利いた。

(女性らしいってこういう事を言うんだろうな)

 侍従たちにはない彼女の目線と行動力に、クライドは良い駒を見つけたと、ただ喜んでいた。



「……そんなに仕事を詰めると明日に支障があるんじゃないか?」

 クライドが生徒会長になったばかりの頃は、同じくアリサもまた副会長に就任したばかりだ。

 慣れない作業は忙しく、時間も掛かった。


 そんな生徒会の執務室で、書類を抱えるアリサにクライドは何とはなく聞いた。

「明日……とは」

 アリサはふと書類から顔を上げて首を傾けた。高い位置で一つに縛った焦茶の髪が、サラリと同じ角度に流れる。


「明日はリビーヨ侯爵家の夜会だろう。君も出るんだと思っていたから」

 アリサの姉の婚家である。

 当然招待状が届いているだろうし、王家も縁があるからと、兄ウィンガムが参加する。

「……ああ」


 けれどアリサは興味を無くしたように再び書類に目を落とした。海のように真っ青な瞳が、色を無くしたように褪せて伏せられる。

「私は行きません。元々姉とは仲が良くありませんし、その日は婚約者も都合が悪いようですから」

「……そう」


(そう言えばそんな話を聞いた事もあるような……)

 確かミレイ侯爵家の姉妹は性格が対照的だが、何故か型にはまらぬまま反りも合わないのだ、と。

(ふうん)

 他家の事情に首を突っ込むつもりの無いクライドは、その話はそれで終いにした。



 けれど残念ながら話はそこで終わらなかった。

 夜会へ参加予定だったウィンガムに急な公務が舞い込んだ。そこで代役としてクライドが出席する事になってしまったのだ。

 未だ婚約者のいないクライドは、この手の夜会は苦手であった。


(面倒臭いなあ)


 齢十五歳にして人に囲まれる煩わしさを感じる根本は、やはり病に囚われていたからだろう。不自由な生活ではあったが、クライドはすっかり静かな時間に慣れてしまっていた。

 幼少期には歯牙にも掛けなかった者たちの掌返しは鬱陶しい。まともに成長した点、第三王子とはいえ兄弟仲がよいところから、何某かの恩恵を得られるのでは、とつまらない期待を寄せる者は多かった。


 挨拶に来る者や、紹介される令嬢へとにこやかに応じ、やがて疲労を感じ始めた身体を庇うべく、場を離れた。



(兄上たちって凄いよなあ〜)


 テラスを経由して庭園へと降り立ち、クライドは夜空を見上げて独りごちた。


 兄王子たちはクライドとは次元の違う厳かさがある。愛想良く振る舞うクライドに比べ、彼らは一線を画した雰囲気を持っていた。そんな理由でクライドの方が取り入りやすい貴族もいる。

(所詮、第三王子でもいい、なんて輩は取るに足らないけどね)

 それでもクライドにはまだ彼らを跳ね返す力は無い。

 仕方なしに受け流しその場を凌ぐのだが、それはそれで疲れるものだ。

 

「君も大丈夫?」

 クライドは後ろを振り返った。

 そこには慣れない夜会に青褪めるシェイドが、ふらふらとクライドの後から続いていた。


「だい、じょうぶ……です……」

「……そう?」


 学園で目を付けてから連れ歩くようにしているが、流石に学業とは勝手が違うらしい。こっちも少し休ませてやるかと踵を返し、クライドは庭園奥へと足を向けた。


 

 風を浴びてホッと息を吐くシェイドから少し離れ、クライドは庭園にぼんやりと目を向けた。

 すると風に乗り男女の話し声が耳に届いた。


「──は?」


 思わず漏れた自分の声に、クライドは慌てて口を押さえ聞き耳を立てる。行儀が悪い事は分かっていたが、それにしては聞き捨てならない台詞が聞こえてきたのだ。



「まあ嫌だわ。そんな言い方をしては私の方が良かったと聞こえましてよ? あの子が可哀想」

「いや、そんな。別にそういう訳では……」

 たおやかに微笑む貴婦人と、彼女をエスコートする背の高い紳士──

 男は否定しているが、彼の赤らんだ顔を見るに満更でも無いのだろう。


 人目を忍び、ウットリと見つめ合っているのはリビーヨ侯爵夫人と……間違えがなければエイダン・ロイダーヌ。アリサの婚約者である。

 クライドは静かに目を眇めた。


(姉妹仲が悪いとは聞いていたが)


 アリサと正反対とは、こういう事かと呆れてしまう。

 義姉弟とこんなところで親密な雰囲気を出していて、人目に付けばどう取られるか……少し考えれば分かるだろうに。


(……)


 栗色の髪に翠の瞳のエイダンは、貴族としてはごく普通の顔立ちであるが、整ってはいる。それにスラリと背が高く、スタイルはいい。

(少し気が弱そうだけど)

 対してリビーヨ侯爵は人好きのする顔ではあるが、ふくよかな体型だ。

 どうやら丁度、アリサと仲が悪いという夫人が、妹の婚約者に粉を掛けている最中に出くわしてしまったらしい。


(アリサが来たがらない理由が分かったよ)

 クライドは溜息を吐いた。


 婚約者が来ないという発言の真偽は置いておくとして。あの様子では来たところで歓迎されない事は明白だし、婚約者は当てにならないと分かっていたのだろう。

 悪人では無さそうだが、アリサが彼を頼りにしていない事は理解できた。


(なるほどね)

 迂闊で、安易な男。


(けど)

 お互いの相性以上に家の利を取るのが政略というものだ。

 クライドには相手を選ぶ余裕があるが、家によってはそれが許されない。

 気の毒には思うが、自分に出来る事はないと、クライドはその場を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ