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第2話 秋葉火群



「ねぇほむら君。次のテストどうしよう……」

「明後日だもんね。どうしたの?」

「神術、苦手なの……。私ここのテストで点取らないと施設に入れないかもしれない……!」

そう言って隣の席の子は、深い緑の頭を抱えた。

「施設かぁ……」


 施設とは、各町に一つはある、子供たちの神術を鍛えるための学校のようなものだ。まぁこの街にはないんだけれど。

 そこに入った子供は、全寮制で6年間過ごすことになる。

神術の腕を磨くことはそのまま人類のためとなるから、破格の料金での生活が保証される。そのため、貧しい家はその施設に子供を入れたいわけだ。

 しかし、その施設には全員が入れるわけでは無い。何故なら施設は、禍獣に対抗する軍隊への片道切符だから。

神術が上手く使えない子や、優秀でない子を戦場に引っ張り出しても、ただ死なせてしまう。

 そんな訳で、施設に入るには一定以上の成績と、先生からの推薦が必要だった。


「次のテストって的当てだよね?前の授業でもできなかったの?」

「ほむら君は良いよね。もうほぼ施設に入れるの、決まったようなものだし……」

純粋な疑問だったが、私はそうじゃないの。と続けた彼女の顔は、悲しそうに歪んでいた。

「そうだなぁ……イメージはちゃんとできてる?」

「ううん……私の属性は風だから、目に見えなくてイメージがむずかしいの……」

「そっかぁ〜多分そこだよ、問題」

とは言ったものの少し難しい。確かに風は他と違って唯一目に見えない。僕の神術も星とか暖炉とか、わかりやすいものを想像して発動している。

 風が関わってて、想像しやすくて、目に見えるもの……。すぐには思いつかず、助けを求めて窓の外に目をやる。すると、たまたま外では風が吹いたらしく、木がカサカサと揺れていた。

「そうだ!ほら、あの木は風に吹かれて揺れてるじゃん?それをイメージしたらなんとかならない?風自体じゃなくて、風のせいで動く何か!」

「あ……考えたことなかった……」

「そうなの?そしたら今なら上手くいくかも!」

僕は自分の筆箱から鉛筆を取り出して、少し離れた机の上に置く。

「これを的だと思って!」

「う、うん。やってみるね……!」

そう言って彼女は目を閉じて、両手を体の前で広げた。

「えいっ……!」

気合いの入った声と共に、彼女の手から放たれた風が、見事鉛筆を押して、コトリと倒した。

「わ……!やった!!ありがとう、ほむら君!」

「やったね!」

パチンとハイタッチを一つ。

「おかげでテストも何とかなるかもしれない……!ほむら君はほんと、天才だね」

「へへ、ありがと」

 天才、と呼ばれるのはこれが初めてではない。先生やクラスメイト、親にも言われた。

 実際そうなんだろうと、自分でも思う。でもこの言葉を言われる度にくすぐったいような、嬉しさを覚える。


 だから僕は神術が好きだ。綺麗でかっこいいし、僕をみんな褒めてくれる。

「神術使えて良かったなぁー」

「ん、そうだね!ありがとね!」

 ポロリと漏れていた独り言は、去っていく彼女にとっては幸い、変な風には聞こえなかったらしい。

首を縮めながら、手を振りかえしてみせて僕も帰路に着く。

 明日のテストが楽しみだ。

 どうせ満点だろうけど、その時のみんなの顔はどんなだろう。

 驚くかな、笑うかな。

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