第八話:抹消者
東京のとある繁華街。ゴールデンウィーク初日という事で、街中は人々でごった返していた。
そんな街の中央に、1人不自然な格好をした男が、街中を見渡し目を爛々と輝かせていた。
彼の名はジョーン•ファースト。
異世界『メルヴェルト』からやって来たBランク冒険者パーティ『魔猪の角』のリーダー。
数日前、一攫千金を狙っていた彼らのパーティは、いつかに噂で聞いた異世界の扉への調査クエストへ挑む事となった。
洞窟内は魔物だらけという話だったが、自分達が来る前にさる高名な魔導師が一掃したとかで道中は楽に進めた。
だが、いざ扉を開け光の中を潜り気がつくと、そこには仲間は居らず、この人混みの中に1人という状況だった。
そんな状況下でありながらジョーンはハイテンションだった。
目の前に見た事ない建造物が立ち並び、周りには綺麗な身なりをしてた男女が数え切れないほど歩いていた。
ジョーンが異世界へやって来た理由は、噂に聞く『最上の魔法』を探し求めてではなかった。
異世界の扉にはもう一つ噂がある。それは「異世界には取り尽くせないほどの金銀財宝と未知の魔導具や神具が溢れ返っている」というものだ。
仮に、1つでも入手し元の世界に持ち帰る事が出来れば、その貴重性から貴族に売り付ければ三代は遊んで暮らせると云われるほどである。
ジョーンは今目の前に映る光景を見て確信する。あの噂は本当だと。
「すげえ!!ここが異世界か!!!!皆んな良い身なりしてるがここは貴族街か何か!?」
テンション冷めあらぬまま街中を歩いて回るジョーン。
ジョーンの格好は魔猪の皮から作ったジャケットに肩には魔亀の甲羅で作った肩パッド、腰にはナイフと魔道具である短剣を腰掛けている。当然数日の旅で風呂は入っておらず、服も長年使っているためボロボロだった。
当然通行人達からはジョーンの姿格好を白い目で見ていたが、大半の人間はコスプレか浮浪者だと思い、特に気に止められていなかった。
「それにしても腹減ったな。クソッ…!!そういや食料はハンジョーに持たせたまんまだったからなあ」
周りを見渡す。丁度すぐ先で出店が出ている事に気づく。クレープ屋であるがジョーンにはそれが何屋かは理解できていない。
だが客だと思しき人間達が店員から貰ったモノを口に入れて美味しそうに食べている。異世界人の彼でも流石に食べ物を提供している場所だとわかった。
当たり前だが金はない。そもそも頼もうにもこの世界に来たばかりで言葉もわからない。
「仕方ねえ…冒険者になってからは足を洗ったが、背に腹は変えられねえし…」
ジョーンは腰のナイフに手を掛ける。
相手は気が弱そうな女だ。少し脅せば寄越してくるだろう。
そんな浅はかな考えでクレープ屋に並ぶ列に割り込み、接客をしている店員の目の前に刃物の先を突き付けようとした時、
『やめろ』
突然、後ろから渋い男の声がして自身の腕が掴まれる。
「イテテテテテテテ!!!!」
いきなり物凄い強い力を腕に感じ、ジョーンは余りの痛さに声を上げる。
後ろを振り向くと自分よりも一回り大きいスーツ姿の男が彼の腕を強く掴んでいた。
男はブロンドの長髪をオールバックで固め、色白の肌に如何にもヨーロッパ系の顔立ち。腕を掴んでいないもう片方の手には布が巻かれた大きな棒状の何かを持っていた。
そのため周りにいる人々から色んな意味で浮いていた。
ジョーン自身も一瞬自分と同じ異世界人かと見間違えていた。
ジョーンがそう思ったのには一つ理由がある。それは男の放った言葉の意味を理解する事が出来たからだ。
「あ、あのぉ…お客様…」
クレープ屋店員がオロオロしながら男に話しかける。
店員からしたら横入りして来た変な格好の男を目の前の男性がいきなり腕を掴んで、腕を掴まれた男が叫んでいるという状況だった。
「スミマセン。ワタシノ、ツレガルールマモレナクテ」
片言の日本語で男はそう言うと、ジョーンを引きずって何処かへ消えてしまった。
華やかな街中とは打って変わって、廃れ人気のない裏路地。
そこまで着くとようやく男はジョーンの腕を離し奥へ突き飛ばした。
「てめえ!!何すんだ!!殺されてえのか!!」
いきなりの事で激昂するジョーン。手から腰に下げていた魔導具の魔法剣を抜き男の前に突き出す。
『貴様こそあの場で何をしようとしていた』
そうジョーンの脳内でさっき聞いた声が響き渡る。当然男の口は動いていなかった。
「こ、これは!?まさか精神感応魔法か…?」
ジョーンは驚愕していた。
それは男がジョーンの脳内に語りかけているからではない。
ここまで正確に聴き取れる精神感応魔法を扱う人間が存在する事にである。
精神感応魔法とは冒険者に取って馴染みの深い魔法である。
複数でクエストをこなす時、ダンジョンなどでは罠にかかりパーティメンバーが離れ離れになる事は少なくない。互いに離れ離れになった際に、これを使い意思疎通を図ったり、味方がピンチの際は声を掛けるより念じた方が早い時もある。
ある程度のランクに上がれば精神感応魔法用の魔導具が冒険者ギルドから支給されるほどだ。
だが、本来の精神感応魔法でここまで会話に近い思念を送る事は出来ない。基本は簡単な意思表示しか送る事しかできない。魂の相性によって多少伝達の良し悪しが相手によってあるが、精々相手の考えが朧げにわかるだけだ。
念じた事がここまで正確に伝わってくることは、ジョーンにとった初めての現象であった。
「お、お前何者だ!!!!」
ジョーンはジリジリと男との間合いを詰める。Bランクパーティとは言え長年幾つもの死地を超えて来たジョーンの感がこいつは只者ではないと警鐘を鳴らしていた。
『異界の住人に名乗る名などない。ただ世の平穏の為、主の名の下に粛清するまで』
脳内から聞こえてくる男の声から強烈な殺意を感じ取るジョーン。
「ハアアアアア!!!!」
先手必勝とばかりにジョーンは男に斬りかかる。
だが男は片手に持つ棒状の何かで剣を受け止める。
「ヘッ!!掛かったな!!【爆炎】!!【氷結】!!【斬風】!!」
ジョーンは勝利を確信した。
魔法剣士であるジョーンは、魔導具の魔法剣によって基礎4属性の上級魔法までを無詠唱で使用する事ができた。
勝利の笑みとは裏腹に、魔法剣からは何の魔法も出てくる事はなかった。
「な!?どうなってんだ!!こんな時にイカレちまうなんて!!」
『解析完了。術式対消滅、確認』
ジョーンの動揺と同時に男の無機質な声が脳内に響く。
それと同時に剣で斬りつけた事により棒状の物に巻かれていた布が切れ落ち、男が持っている物の正体がわかった。
槍だ。
精巧な装飾がされた黄金の槍であった。
『例え異界の住人であれど、主の導きがあらん事を』
その声と同時に、男はその装飾槍で魔法剣を払い除けジョーンの心臓部を突き刺す。
「ガッ…!!!!」
槍は胴体を完全に貫通していた。だが、咄嗟に体制を崩したおかげが心臓部からは外れていた。
だが、死は確実だ。それは寿命が数十秒伸びた程度の悪足掻きであった。
『術式検索。過去ノ解析情報カラ発見。術式起動。【火炎】』
その言葉と共にジョーンの全身は突如として燃え上がる。
男は槍を抜き、ジョーンの血を槍を振って払う。
ジョーンはその場に倒れ、後は全身が焼け切るか死ぬか待つのみとなる。
「ア………」
何とか抵抗しようにも致命傷で身体を動かす事は出来ない。
「全く、今日だけで6人か。この国の担当はシルヴィアだったが、流石にこの量では彼女も対応しきれんな。私が呼ばれるのも当然か」
丁度、異世界への調査クエストは、ジョーンも合わせてパーティメンバー6人で挑んでいたが、もう死にゆくジョーンに、男の言語を理解できる筈はなかった。
だが、自然と涙が溢れた。
…財宝を持ち帰って…盛大に仲間達と飲むんだ…それで…今度こそモーコに告白して…他の奴らも呼んで…盛大な式を……
カネなら…あるさ…きっと高値で買い取って…くれる…だから早く皆んなと…
ジョーンは息を引き取ると、男が使用した火属性中級魔法【火炎】により骨も残らず消し炭になった。
〈キャラ紹介〉
名前:セルジオ•ヴァーティガス(40)♂
職業:悪魔祓い(エクソシスト)→抹消者
所属:聖教会特務執行機関『十二階位』(第二階位)
スキル:教会格闘技
ルーン魔術(異世界における魔法での初級相当)
武器:『智慧の槍』
耐熱使用の外套




