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第五話:異界化した通学路

 アゼルと出会って4日目。


俺は眠い目を擦りながら学校生活を送る。


アゼルとは、平日は俺が寝ている深夜のみ彼の活動を許していたが、3日連続徹夜で活動されてしまい疲労は最高潮だった。


俺の意識が寝ていても、アゼルが夜に身体を使ったエネルギーはそのまま俺の肉体から減少される。


結果として俺自身はしっかり寝ていても身体は寝ていないため、起きてすぐアゼルと交代すると一気に徹夜後の疲労が襲ってくることになった。


そんな訳で少しでも睡眠させようと授業中には激しい睡魔が俺を襲う。睡魔と戦いながら(ほぼ寝ているが)なんとか学校生活をこなしていた。


学校で日中に寝たくないのは一つ理由がある。


それはアゼルに肉体の主導権を奪われないかの心配だ。


ここ3日、アゼルは学校にいる時は脳内で話しかけてくる事はない。1人での帰り道や自室の中では話しかけてくるが、そこの所は節度を弁えているらしい。


だが、俺も彼を100%信用している訳ではない。


魔法を教えてくれるという甘言に乗ったものの、結局はアゼルの言う通り俺自身がアゼルを自分の肉体から追い出す術を持っていない。


だからもしかしたら俺がうたた寝している間にクラスで奇行に走っていないか、目が覚めた後にビクビクしながら周りに対する俺の目を確認する。


「ふぁー、ムニャムニャ」


今は10分休憩。少しでも寝ておこうと思い机に顔を突っ伏す。


「ねえ、次の化学移動教室だよ?」


聞き覚えがある声がすぐ近くで聞こえて顔を上げる。


前の席のクラスメイト、黒崎玲奈が俺の事を見下ろしていた。


「え!?それマ?」


「マ」


ガチで寝ようとしていた所を咄嗟に起きたので普段SNSで呟くような口調になる。


俺は日常生活で「草」とかのネットスラングをあまり使いたくない派である。


そんな俺の反応に合わせて返事をしてくる玲奈。


「ガチ寝する所だったわ。ありがとう」


そう言って次の授業の教材をまとめる。


「僧間君、最近授業中ずっと寝てない?」


「あー…最近夜ずっとゲームやっててさー、昨日もFPSとか朝までやっちゃってて。ハハハ」


適当に誤魔化す。実はもう1人の人格が夜は活動していて身体が休まってないなど言えるはずもない。


「僧間君FPS好きだよねえ。私やっても全然下手でさぁ」


「いや、俺も下手だよ下手下手。そーだ!またランク戦潜ろうよ!」


「良いけど、私ランク雑魚だよ?」


「いや良いって良いって!!」


「わかった。じゃあ、今日の夜できる時メッセージ送るね」


「う、うん、待ってるわ」


よっしゃあ!!玲奈とゲームする約束を取り付けたぞ!!


玲奈はあまりFPSといったゲームする方ではないが、クラスのブームには乗っかるタイプ。


なので今は俺がハマっているFPSゲームの話題を振ることができる。


だがここでSNSでよく見るランクマウントを取ってはいけない。絶対に。


ミーハーな玲奈とガチでプレイしている俺とでは確実にランクに差があるだろうが、そんな事は一々自慢しない。「ちょっとやってたら運良く上がっちゃったー」の体を装うのだ。


過度なオタク趣味は見せない。本来の目的は忘れてはいけない。


ゲームで気になる女子と接点持とうとしてる時点で、ゲーム本来の楽しみ方を忘れている気もするが気にしない。


そんなこんなで今日も平凡な学校生活が終わろうとしていた。


午前中授業までだったのはあの警官バラバラ殺人のあった日だけだった。それ以降は普段通りの時間割りで進行していた。


その日の夜に見たニュースでは犯人は警官の拳銃を一丁持ち去ったと報道されていたが

、3日経った今でもまだ犯人は捕まっていない。


そして児童行方不明事件もまた進展がないまま時が過ぎていた。


アゼルと出会ったあの日、異世界人同士の戦いを見て思ったのだが、この2つの事件も異世界人が起こしたものではないだろうか。


未だ犯人が捕まらないのは、住所どころか身元も特定できない魔法を扱うことができる異世界人の犯行だからではないかと俺は考える。


『それは多いにあり得る』


学校への帰り道、俺が自転車をこぎながらそのような事を考えていると、いきなりアゼルが脳内で話しかけてきた。


お前!!俺の心の中を読んだのか!?


『断じて違う。聞こえてきたんだ。あまり深く考えていると思考が漏れるぞ』


マジかよ…それじゃこれからはおいそれとエッチな妄想もできないのかよ…


『頼むから情事に励む時は俺の寝ている時にしてくれ』


いや、しないから!!相手がまだいないから!!


『じゃあ自』


うるさい!!うるさい!!黙れ黙れい!!


そもそも、アゼルがいつ寝てるなんてわからないじゃないか!


『まあ、そんな冗談は置いといて真面目な話をするぞ』


…俺から話題を振っといてあれだが何か癪に触るな。


『ソウマが考えていた事件、確かに俺の世界の人間がやった可能性は高い』


いつになく真面目な口調で話すアゼル。


『昨日ソウマの自室にあるパソコンなる検索板でその記事を読んだが、事件が起こったきっかけは、不審者目撃の通報を受けて警官2人が駆け付けた事が始まりらしい』


『その後、警官2人は殺害された。不審者の服装について詳しく書かれていなかったが、この世界に来たばかりの人間なら、服装や装備から一般人に不審がられるのも納得が行く』


パソコンを検索板って…確かにアゼルが初めてスマホとノートパソコンを見た時は、物凄い興味津々で色々触ろうとしていたが、結局文字がわからなくて操作出来なかったんだっけか。


朝は日本語を覚えたとか言っていたけど、俺が知らないうちにパソコンも使っていたのか。


…俺のパソコンの検索履歴とか見られなければいいが…後で削除しておくか。


でも、犯人は警官の銃を持ち去ったってニュースでもやっていたけど、魔法が使える異世界人がそんな物わざわざ奪うか?


『単純に興味を持ったという可能性は高い。この世界の武器、兵器は例え魔導師でも無視できない物がある。ミサイルとか言ったか。あれの破壊力は、火属性魔法の超級ないし極級相当はありそうだ』


『仮に魔導師でなくとも殺した相手から物品を奪っていくのは当然の摂理だ』


何ですか、その世紀末思想は…異世界ってそんな荒んでいるの?


それは置いといて、なら児童行方不明事件と今回の殺人は同一犯なのか?それとも別々なのか?


『別々だと考えるべきだろう。そもそも行方不明の方は情報が無さすぎて俺の同類が行った犯行かもわからん』


確かに、いくら異世界人がこの世界にやって来ているとはいえ、何でもかんでもそれに関連付けるのは良くないな。


『という訳で、これからその犯行現場に行こうと思う』



今なんと?


『俺はこの世界の事を調べながら考えた。確かにこの世界では魔法という存在は、架空の物として葬りさろうとしている。そんな中で最上の魔法を探すのは難しいと』


確かに。まず魔法自体が架空そのものなのだけれど。


『いや、この世界でも歴史上に魔導師と呼ばれる人間は存在するのだろう?なら大昔は魔法に近い技術体系がこの世界にも有ったはずだ。確かうぃき…なんとかという情報保管庫に載っていたぞ』


いや、確かにそう呼ばれてた人間はいるけれど、その人達が本当に魔法が使えたなんて事実ないし。


あと情報保管庫って…もうツッコむのはやめよう。


『話を戻そう。この世界で実際の魔法について調べる事は難しい。そこで俺は、今この世界で最上の魔法について調べるのに一番手っ取り早い方法を思いついた』


ほう。


『俺より先に来ている同じ世界の人間を見つけ出し、そいつが持っている情報を吐かせる』



確かに一番手っ取り早いけど、それって小物がやる事じゃないか?


自称大陸最強の魔導師ならもっと正攻法なやり方で探そうとか思わないの?


『いや自称じゃないから。本当にそう呼ばれてるから。それにこのやり方こそ正攻法だから』


アゼルは『大陸最強の魔導師』という称号をかなり気に入っているらしかった。


まあ、3日の付き合いたがこいつのナルシスト気質な性格はすぐにわかる。


で、その方法が良いとしてなんで犯行現場に行くんだよ。流石に3日経ってるし犯人も近くにいないだろ。


『ああ。だが魔法を行使していたら魔力の残滓程度は残っているかもしれない。手掛かりがない以上一度見に行くのはありだと俺は思う』


……


正直な話、3日前のホーネックとの戦いで俺かアゼルの姿を誰か見ていて、警察に報告していないか怖くてしょうがないのであまり警察がいそうな場所へは近寄りたくない。


『何をそんなに躊躇っているんだ?まあ、学校が終われば身体を使わせてくれるのだろう。勝手に行かせてもらうさ』


待て、待て!!勝手に身体の主導権を乗っ取ろうとするな!!


わかった!わかったから!近くを通るだけだからな。


そう言う事で俺はアゼルの口車に乗せられ、例の殺人現場近くに行くことになった。


現場近くまで自転車で行く。


『ここからは歩いて行け』


…本当は自転車で現場を通り過ぎるだけにしたかったが、しょうがない。


俺は近くの公園に自転車を止める。住宅街で駐輪場が見当たらないから仕方なくだ。


そのまま俺は事件現場を目指して歩き出した。


それにしても、ここから殺人現場と行方不明になった児童が通っていた小学校の距離が近い。ニュースでも2つの事件の関連性などが話されていたが、どこも確信的な事は語られていなかった。


そうこう歩いているうちに、立ち入り禁止のテープがされた箇所が見えてきた。


3日経った今でもまだ殺人現場を封鎖されている。


警官に見つかるのを恐れて遠くでそれを眺める。


『……』


アゼルが何か考える込んでいるのが伝わる。


や、やっぱりもっと近くに寄った方が良いか?


『…近くで魔力の反応がする』


それはさっき言ってた残滓ってやつの事か?


『いや、残滓はこの距離じゃ見えないが、それはもうどうでも良い』


アゼルがそう言った瞬間、俺の足が勝手に動き出す。


ちょ!?勝手に身体乗っ取るなよ!!


あれ…でも、入れ替わった時のような夢見心地な感覚はないし、身体を動かしている感覚は残ってる…


『すまんが下半身だけ主導権を取らせてもらった。意識はまだお前のままだ』


そんな器用な事もできるのかよ。


で、どこ行こうとしてるんだ?


『魔力反応がする場所まで行く』


それは…つまりお前と同じ異世界人が、どこかで魔法を使っているって事か?


『だろうな。何をしてるのかは知らんが』


アゼルはそのまま足早にどこかへ進んで行った。


1分ぐらい歩いただろうか。土地勘のないアゼルの操る足で住宅街を歩いたため2、3度行き止まりに当たったが、目的の場所に着いたようだ。


「ここって…!」


つい声を漏らしてしまう。


アゼルが進んだ先には例の行方不明児童が通っていたとされる小学校が見えてきた。


『あそこから高い魔力反応がする』


それって小学校で誰か戦闘してるのか!?


『いや、高いと言っても攻撃魔法の行使の類じゃないな。場のマナの流れを利用した結界によるものだろう』


よくわからないけど、あの学校に異世界人がいるって事か?


『わからん。取り敢えずもう少し近くぞ』


アゼルはそう言って学校手前の路地まで進んで行く。


こいつ…このまま学校に乗り込むとか言ってこないだろうか。流石にこの時期に小学校への不法侵入は洒落にならない…


そう思いながら曲がり角の路地の前まで来ると、そこには信じられない光景があった。


「え?」


あまりに不可思議な光景につい声が漏れてしまう。


本来、その路地には一本道の通路が広がっている筈だった。


だが俺が今見ている先には、学校の校舎の通路らしき光景が広がっていた。


すぐ横にはしっかり住宅街と小学校が並んでいるのに、空は夕日が沈みかかってオレンジ色に染めているのに、その路地の一角だけ学校校舎の通路になっていた。


奥には「3ー1」「3ー2」「3ー3」といった感じに教室らしき看板と戸も見えていた。


どどどど、どうなっているんだ一体!?


『落ち着け』


俺が動揺している所をアゼルが脳内で制す。


『これは…空間転移…いや違うな。そんな大規模な魔法行使を極級魔導具(マジックアイテム)なしで、しかも短期間でできる筈がない』


『…幻惑魔法か』


げんわく魔法?


『所謂幻を見せる魔法だ。闇属性魔法の一種で、相手の視覚や聴覚を刺激して認識を誤認させるんだ』


『本来ならただの道でも、何かを切っ掛けに術に掛かった事でその場所が別の場所に見えているって訳だ』


なんでそんな事する必要があるんだ?


『わからん。そもそも何故幻惑魔法に掛かってしまっているかも謎だ。魔法陣を踏むようなヘマはしないし、詠唱を聞かずに術に嵌まる訳がない』


『何を切っ掛けで発動しているかわからんが、詠唱なしで相手に幻覚を見せる事が出来るなら相当に厄介だな…俺を除いて最強を名乗っても良いくらいだ』


こんな時でもそこは譲らないのかよ…


けど、そう言う事なら逃げた方が良いじゃないか?それって既に相手がこっちに攻撃を仕掛けているって事だろ?


『…!なるほど、手間が省けた訳か…』


え…それってどういう…


『いいぞ。そっちから勝負を仕掛けてくるなら乗ってやろう!!もう少し時間が掛かると思っていたが、情報源からこちらにやって来るとは運が良い!!』


まさか、この先の通路を通ろうとしてないか…


そう思うと同時に俺の足が動き出す。


お、おい!!行くな!!ストップ!!ストップ!!


どうにかして足を止めようとするも下半身の制御が出来なかった。


『問題ない!!俺はアゼル•バイジャン•ホーエンハイム!!呪いを克服した俺に敵はいない!!』


その脳内の叫びと共に、俺達は学校の校舎の光景が続く路地に足を踏み入れた。















〈キャラ紹介〉

名前:ホーネック•ボーンリバイス(30)♂

職業:剣士

所属:Aクラス冒険者パーティ『黒蠍』

スキル:なし

武器:『反骨剣』→破壊済み

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