第二話:魔剣士との死闘
「まさかこんな所でアンタみたいは大物に出くわすとはな」
後ろから訳の分からない言語で話す男の声が聞こえたので振り向く。
振り向いた先には、手には大きな大剣を持った筋骨隆々な大男がいた。
「…誰だお前」
アゼルが男に向かって話しかける。幸いアゼルが言っている事は脳内で日本語に変換されて理解できた。
「お初にお目に掛かる。オレは冒険者パーティ『黒蠍』の剣士担当、ホーネックだ。以後お見知り置きを」
何を言っているかさっぱりだが、そう言って大男は仰々しく頭を下げる。
「黒蠍…聞いた事があるな。確か界隈じゃ有名なAランクパーティだったか。お前らも『最上の魔法』を探しに来たってわけか」
「そうさ。『最上の魔法』、どんな形で現存しているかはわからないが持ち帰ればどれだけ金を出しても買い取りたい奴らは山ほどいるだろうな。そう思ってやって来てみたら、まさか早々に仲間と離れ離れになるなんてな。ハハハハハハハハ!!!!」
俺には何を言っているかサッパリだが、男が豪快に笑っていた。
「なあ、あの人も異世界人なのか?」
俺は唯一言葉がわかるアゼルに聞く。
「…ああ」
アゼルは、今にも男に襲い掛かりそうなぐらい怖い顔をして彼を睨んでいた。
「で、ホーネックとか言ったか。お前が俺に声を掛けてきた目的は何だ?まさか俺と協力したいって訳でもないだろ?」
アゼルがそう聞くとホーネックと名乗ったであろうその男は不気味な笑みを浮かべ
「知ってるか?『大陸最強の魔導師』と呼ばれるアンタをぶっ殺して首を差し出せば、色んな国から報奨金が貰えるんだぜ?アンタ色々な戦争にでしゃばりすぎて方々の国から恨み買ってるんだぜ?」
男は大剣を片手で軽々と持ち上げ、剣先をこちらに向けて来た
「…お前は下がってろ」
アゼルがそう言って俺を後ろへ追いやる。
「おい、あいつ何言ってるか教えてくれよ」
俺がそう言うも無視されてしまう。
次の瞬間、ホーネックは剣を構えこちらに向かって走り出す。
それと同時に俺はアゼルに突き飛ばされる。
一瞬にしてホーネックがアゼルの前に立ちはだかり大剣を振り上げる。
それをすんでの所で体を逸らしかわすアゼル。公園には地震のような大きな音と共に衝撃が走る。
いきなり突き飛ばされた俺は地面に倒れてしまっていたが、その音を聞いて飛び上がる。
「……ッ!!」
ホーネックが大剣を振り落とした公園の地面は大きく抉れていた。
「ふぅ、やっぱり魔導師の強化がねえと調子出ねえなぁ」
ホーネックは再度剣を構えアゼルの前へ立ちはだかる。
「…お前、死ぬぜ?」
アゼルもまた拳を構える。型も何もあったもんじゃない素人の構えだと、特に格闘技を経験した事がない俺でもわかった。
アゼルはそのまま拳を振り上げホーネックの元へ突っ込んでいった。
アゼルはホーネックに向かって拳を振り上げる。明らかにスピードも威力もないヨロヨロのパンチだった。
ホーネックはそれを避けずその拳を大剣で受け止める。その瞬間、
「【強化】」
アゼルのその言葉と共にホーネックは物凄い勢いで公園の奥に吹っ飛んで行った。
ホーネックは公園に植えられた樹木に激突し、砂利の地面に倒れ込む。大男が追突した大木は、その衝撃で大きな音を立ててへし折れた。
俺はそれを見て唖然としていた。
「…お、おい。今の何やったんだよ…」
恐る恐るアゼルに近づきさっき何をしたのか聞いてみる。
「……魔法だよ」
そう言うアゼルはどこか苦しそうだった。
いや、だから何の魔法使ったか聞きたいのだが…
素手で殴っただけで、大木が折れるほどの衝撃を与えられる技術なんて俺の一般常識には存在しないぞ。
だが、今の人間離れした威力の拳…今も脳内に響く声の件も含めて確信する。
彼は本当に異世界の魔導師なんだ…そして、俺は今異世界人同士の戦いを目の当たりにしている!!
一見すると大怪我しかねないこの状況に俺は興奮を抑えられないでいた。
「これが噂に聞く【無限倍化】か。かなり効いたぜ」
ホーネックが飛ばされた方向から声が聞こえてくる。
声がした方を見ると、一度は倒れ込んでいたホーネックが大剣を地面に突き刺し、それを支えに立ち上がっていた。
おいおい…あれだけの衝撃で吹っ飛ばされて木に腰撃ち付けたのに立ち上がれるって…確実背骨と肋骨は折れてるだろうに…
「…あの一撃を喰らって立ち上がってくるか」
アゼルは険しい表情をして身構えている。
ホーネックは大剣を片手で軽々と持ち、まるで何もなかったかのように歩いてくる。
「本来だったら身体中の骨グシャグシャになってお陀仏だったなこりゃあ!!ハハハハハハハハ!!」
ホーネックは笑いながらこちらに近づいてくる。
「…魔剣か」
「流石最強の魔導師様!!もうネタがバレちまった!!」
ホーネックは妙にハイテンションにアゼルに話しかける。
「…あの威力でも傷一つない身体、差し詰め『不死身の魔剣』と言ったところか」
「応とも!!この『反骨剣』は、数年前ダンジョンで手に入れた一品で、剣自体は何の変哲もないが、所有者の身体は一切傷を受けなくなる曰く付きよお!!」
そう高々と自身の手の内を明かすホーネック。それは能力自体がバレても戦闘に影響しないからかそれとも彼の絶対的な自身からなのか。
「ネタならアンタだって割れているんだぜ?【無限倍化】の禁呪。威力や衝撃を何百倍、何千倍にも増幅させる事ができる。だがいくらバカみてえなパワーがあっても、不死身となる俺の反骨剣とは相性最悪だな!!ハハハハ!!!!」
「なら、試してみるか?」
ホーネック側は何を言っているのかさっぱりだが、さっきのアゼルの攻撃が全く効いていない事はわかった。
もう一度、アゼルはホーネックとの距離を詰め、今度も同様にホーネックに対して拳を突き出す。
だが、今度はホーネックもアゼルの攻撃をかわす。その瞬間、アゼルが出した拳から物凄い突風が吹き荒れる。
避けて体制を崩しながらもホーネックは大剣を振り回す。ただし体制の為か剣は縦ではなく横に鈍器で殴るような形で振り回し、見事アゼルの身体へヒットする。
「ッ!!」
大剣を叩きつけられた事によって、今度はアゼルが吹っ飛ばされる。
「アゼル!!」
俺は吹っ飛ばされた方向に声を掛ける。
「……ゲホッ!!」
さっきのホーネックほど飛ばされてはいなかったが、吹っ飛ばされた衝撃でどこかやったのか、彼が吐血している光景が見えた。
だが、アゼルの眼にはまだ闘志が残っている。
アゼルは自身の背負っていた杖を一本取り出しホーネックの前に向ける。
「……炎の精霊よ…我に力を!」
その言葉と同時にホーネックの身体が発火していく。
「ウオッ!!アチッ!!アチチチ!!!!」
そう言ってホーネックは身体に纏った火を払っていく。
「おいおい、そんな子供騙し効くと思ってるのか?それともさっきのアレはもう出せないか?」
そう不敵な笑みを浮かべてホーネックはゆっくりとアゼルの元へ近づいて行く。
俺はただ呆然と立ち尽くしていた。ここから早く立ち去って方が身のためなのに、恐怖から身体が言う事を聞かなかった。
に…逃げないと…
さっきまでの興奮は何処へ行ったのやら。俺の脳内は死に対する恐怖と、未知の存在に興味本位で近づいた事に関する後悔で埋め尽くされていた。
『…少年、力を貸してくれないか』
突如脳内にアゼルの声が響く。だが、当のアゼル自身の口は動いていない。
…テレパシーを送っているというのか?
『俺の元へ来てくれ…頼む』
そう頭の中で響いてくるも、俺は足を動かす事が出来なかった。
勿論恐怖で動けないのもあるが、俺が行った所で戦況が変わるとは思えない。逆に俺共々あの大男に殺されてしまうまである。
…逃げよう。今すぐこの場から…
そう思い頑張って足を動かそうとする。
『…俺の身体は、禁呪の呪いによって何度も魔法を行使する事ができない…お前の身体を貸してくれ…』
俺の身体を貸してどうなるって言うんだ…
『…俺は後2つの禁呪を修得している。【死者蘇生】と【転生】。【死者蘇生】は死した生物の肉体を操作する禁呪。これを使い俺の魂と肉体を引き剥がす…』
『そして【転生】、これは死後自身の魂を地上へ固定させ、数百年の年月を掛けて自身と近い魂を持つ赤子に憑依する禁呪。この2つを応用し、少年の身体に一時的に乗り移る』
そんな事したってあの男にはさっきの攻撃だって通用してなかったし…
『…頼む、少年』
別にこれは俺とは関係のない世界の話だ。俺が今この場で彼の申し出を断って逃げても世界中の誰もが俺を責めはしないだろう。
……だが、
今この場で逃げ出せば、俺はこの光景を思い出し、この先永遠と後悔する事になると思う…
例えさっき会ったばかりの他人でも、
異世界から来た人間でも、
助けを求められて逃げ出す事はしたくない!
俺はすぐさまアゼルの元へ駆け寄る。
アゼルはか細い呼吸をしながら懐から2冊の魔導書らしき本を広げる。
「…冥界の神よ、死の理を逆転させよ。呼び醒ますは我が肉体、生前の傀儡として我が契約の証を…」
何やら詠唱ぽい口上が俺の脳内で日本語に変換されて、公園内に響き渡る。
「連結」
「…天から使わされる御使いよ、我が魂を輪廻の理から外し、地上への束縛を与えよ。以下詠唱破棄により事象を行使する!!」
そう言ってアゼルは俺の手を握ってきた。
なんか途中詠唱が省かれる文言が聞こえたんだが、大丈夫なんだろうか…
アゼルが詠唱を終えると同時に2人の肉体が輝きを放つ。
暖かい光に包まれ俺は一瞬意識を失った。
目が覚めた俺は、一瞬何が起こったのかわからなかったが、先程までの状況を思い出し、咄嗟に辺りを見回そうと首を動かす。
が、動かない。
目ははっきり開いているのに何故か身体動かない。
そう思っていると自分の意思に反して身体を起こして立ち上がる俺。
どうなってるんだ?
まるで夢を見ているかの如く身体の感覚がなかった。
だが、俺の意思に反して動く身体は、ホーネックの元へ歩いて行った。
「ん?さっきからアゼルと一緒に居た現地民…どうした?お前もその男と一緒に殺されたいのか?」
何故かホーネックの話す言葉の意味がわかる。さっきまで何を言っているのか分からなかったのに…一体どうなっている?
と、そこで俺はさっきのアゼルとのやり取りを思い出す。
まさか…成功したのか!?
「…待たせたな、第2ラウンドだ」
俺は喋っているつもりはないが口が勝手に動く。
今アゼルが喋ったのか?
「…!!おい、オマエ!!その言葉をどこで覚えた!!何故イーロ語を現地民のオマエが話せる…?」
どうやら俺の口から彼らの世界の言語が話されているようだ。今はアゼルの魂が乗り移っているからなのかしっかりと何を言っているのか意味が理解できる。
ホーネックがそう言った瞬間、俺の身体は物凄い勢いで飛んだ。
飛んだというよりはまるで瞬間移動のような速さで俺の肉体はホーネックの前まで飛び、ホーネックの顔面を殴りつけていた。
「ッ!!!!」
凄まじい衝撃の後、ホーネックは倒れる。
が、数秒経つとまた立ち上がってきた。
「今の一撃ッ!!オマエ、アゼルなのか!?何で現地民の身体で…それよりも、なんださっきの速さは!?」
さっきまで余裕の笑みを浮かべていたホーネックが動揺して捲し立てていた。
「【無限倍化】。そう呼ばれちゃいるが、俺の禁呪はただ拳の威力を倍にするとかそんなチンケなモノじゃない」
「【力の禁呪】。"力"と名の付くモノ全てを操る!!今のは肉体の"跳躍力"を瞬間的に底上げしただけだ。勿論身体がスピードに追いつく為に"筋力"もな」
そう今度はアゼルの方が自身の能力を声高々と宣言する。自身の肉体から溢れ出んばかりの自信が伝わってくる。
「お前、どうやら不死身のようだが、痛みはしっかり受けているようだな。俺が炎の魔法を放った際、しっかり熱がっていたな」
「それがどうした!?例え痛みがあっても肉体が壊れなければ意味はない!!」
「なら、何度も死ぬ痛みを味わったら心はどうなるか試してみないか?」
「ッ!!」
ホーネックが何か言おうとすると前に俺もといアゼルの拳がホーネックの腹に直撃していた。
凄まじい衝撃音が響き渡るも彼の身体は全く崩れる様子はない。
その後もアゼルは物凄い速さで拳をホーネックの肉体に叩きつけて行く。
一発一発が即死級の一撃だ。本来ならホーネックの肉体は既にミンチになっている所だが、彼の魔剣の能力のおかげか、どんなに攻撃を喰らっても五体満足を保っていた。
数十秒が経過する。100発は殴っただろうか。アゼルが殴る一発は、風圧で周囲の物が大きく揺れるほど激しかった。後半はホーネックが地面に倒れてしまった為、地面に大きな衝撃が行き、公園一帯だけ大地震が起きたかの如く、地面が大きく割れていた。
「ふん。124回の死で壊れたか。案外呆気なかったな」
そう言って見下ろすホーネックは白目を剥いており、数分経っても立ち上がっては来なかった。
「とりあえず、これは厄介だ。壊しておくか」
そう言って大剣を軽々と持ち上げ、大剣に向かって拳を叩きつける。
激しい爆音と共に大剣がねじ曲がる。まるで悪魔の悲鳴のような音だった。
「さて、後はこいつを始末するだけだが…」
一瞬俺の声から聞き捨てならない発言が聞こえる。
殺しちゃダメだ!!!!
俺は心の中でそう叫んだ。口を動かそうとしたが動かす事は出来なかった。
「…何故だ?」
すると俺の声で問い返してくる声が聞こえる。
どうやら今の言葉がアゼルに伝わったようだ。
いくら殺してこようとしてきた奴でも殺人は良くない!!それにこれは俺の身体だし。
アゼルに伝わるようにそう念じる。
「こいつを野放しにしておけば今度はこいつが仲間を引き連れて襲ってくるかもしれん。今潰す方が禍根が残らん。それに身体はお前でも殺すのは俺だ。少年は見ていれば良い」
いや!!そうだとしても俺の身体で人を殺めるのは流石に罪悪感が!!
そう念じようとすると何処からかサイレンの音が響き渡る。
「…何だ?」
サイレンがこちらに近づいて行く。もしかしてさっきから音や衝撃が激しかったから近所に通報されたか?
まずい!!警察が来る!!早く立ち去ろう!!
「何だケイサツとは?」
良いから早く逃げよう!!捕まったら面倒くさい事になるぞ!!
「だが、何処に逃げれば…」
兎に角俺の家に行こう!!話はそれからだ!!
俺は焦りながらアゼルに逃げるよう心の中で伝える。
「わかった」
そう言ってアゼルは近くに横たわっている本来の自分の身体を担ぎ、足早にその場を立ち去った。
「ところで、少年の家というのはどこなんだ?」
えーと、その道を右です!!
そうやって心の中で彼に自分の家までの帰路を伝えていた。
それよりそろそろ俺の身体の主導権返してくれませんか?その方が一々指示しなくても良いですし。
「それも良いが、俺の身体、荷物も含めて結構重いぞ?」
そう言うアゼルは自身の肉体を背中に担ぎながら軽い足行きで走っていた。多分魔法使って肉体を強化しているのだろう。
「それよりも少年の名前は何だ?」
アゼルが聞いてきた。
確かにここまで自分の名前を名乗る事を忘れてしまっていた。
俺は斎藤僧間です。
「サイトウか…変な名前だな」
いやそっちは苗字です。
「そうなのか。サイトウソウマ…ソウマか」
そう言って何か納得したように
「これからよろしく頼むぞ。ソウマ」
はい、こちらこそよろしくお願いします。
って何を!?
こうして俺と自称最強の異世界出身の魔導師との奇妙な共同生活は始まった。




