第十八話:心霊スポットの魔法陣
約4ヶ月ぶりの更新となります。
これからは更新を途切れず週一程度で更新できるようになりたいので何卒よろしくお願いします。
「彼女が、近頃不審者として目撃されている『ヒカマスさん』の正体よ」
式部先輩の唐突なその発言に、俺は困惑を隠せなかった。
「…どういう意味だ?」
それはアゼルも同様のようだった。
式部先輩は、ベッドで眠りについている女の子の元へ近づき、彼女の頭を撫でながら答える。
「最初は偶然だったの。一週間ほど前、薄木市で不審者が出没し出した日、当時別件でこの病院に訪れたら彼女の事を見つけたの」
「今はもう希薄だけど、その時は高い魔力の残滓をこの病室、特にこの少女の体から感じた。何らかの魔法攻撃を受けた事は直ぐに理解できた」
「詳しく調べると本来あるべき物がそこにはなかった」
「彼女の魂よ」
淡々と説明をおこなう式部先輩。
「…それがどうやって死霊魔法の件と繋がるんだ」
結論を急かすかのように、アゼルの声に力が強まる。
「当然最初は神奈川一帯の不審者騒ぎと少女の魂の2つは別件だと考えていたわ。だけど実際に『ヒカマスさん』と接触してみて、彼女が発する魔力の質や微弱な術式の痕跡から病室の魔力の残滓と同一のものを感じた。それで『ヒカマスさん』という死霊の素材として彼女の魂が引き抜かれたのではいう仮説を立てた」
「死霊がなぜ『ヒカマスさん』と呼ばれているか知っているかしら」
唐突に式部先輩からアゼルへ質問が投げ掛けられる。
「…知らないな」
アゼルはわざとなのか本当なのかわからないがそのように答えた。
反応がないので確実ではないが、今日のホームルームで玲奈が話してくれた「ヒカマスさん」の由来をアゼルも聞いている筈だった。
「彼女は仕切りに謎の言葉を呟くわ。それが元で『ヒカマスさん』という名前がついた」
そこまで聞いてアゼルは鼻で笑う。
「ハッ!!まさかお前、こいつの名前が『増田光』だから『ヒカマスさん』ってか!お前ら本気で言ってるのか?」
ベッドで眠りにつく少女を指差しながらそう言い放つ。
確かに本当にそうだったら俺もアホらしい理由だと思うが、別にそこまで馬鹿にしなくても良いではないか。
そんなアゼルの態度も意に返さず、式部先輩はそのまま話を続ける。
「『ヒカマスさん』。彼女は魔法によって無理矢理肉体と魂を引き剥がされた存在よ。その魂が本来の身体を求めて悲痛の叫びと共に自身の名を呼び彷徨っていると、私達は思っているわよ」
「…ハッ」
その話を聞いて俺は違和感を覚える。
俺とアゼルが今日初めてヒカマスさんと対峙した際、彼女が俺達の直ぐ後ろで呟いた言葉。それは決して名前を呟いているとは思えなかった。
あの時は聞いても声が掠れていて何を言っているかわからなかったが、「増田光」という少女の名を聞いて今思い返してみると「ひかりをしっていますか」と言っていたような気がする。
なのになぜアゼルはその事を指摘しない。アゼルもあの場でヒカマスさんの声を聞いていた筈だ。
おい!何であの事を式部先輩達に言わないんだよ。
『……』
脳内でアゼルにそう呼びかけるも無視された。一体どういうつもりなんだ。
仕方がないので俺の口から彼女達に話そうとしてアゼルから主導権を奪い口を動かそうと努力する。
「‥‥‥」
…口が開かない。まるで口を手で塞がれているかのように声を発する事ができない。
多分だが、アゼルが必死に肉体の主導権を俺に取られないよう抵抗しているのだろう。
アゼルは何としてもあの事を式部先輩達に伝える気はないようだ。
何故そうするのか俺には理解できない。
『今こいつらに俺らの知っている情報を無闇に開示する必要はない。相手側が知らないのなら尚更な』
俺の疑問に脳内でアゼルが答える。
なんでだよ。今から協力しようってなら情報は共有しといたほうが良いじゃないか。今回の問題解決の糸口に繋がるかも知れないのに。
『馬鹿が。たとえどんな些細な情報でも、こいつらにタダで提供するつもりはない』
その返答に対し、俺は更に反論しようとした時、
「根拠はそれだけではない」
今度はベルハルクがどこからかタブレット端末を取り出し話し出した。
タブレット端末を慣れた手つきで操作すること十数秒。タブレットの画面をこちら側へ見せてきた。
「これは‥‥」
そう言ってアゼルは画面に映し出された画像をまじまじと覗き込む。
タブレットの液晶パネルには日本地図の画像が映し出されていた。
そしてその日本地図には幾つかの点が記されていた。
まず九州に一つ。そして関東の一部分にいくつもの点が集中的に存在していた。
なんの点だこれ?
「何なんだ?」
俺の意見を代弁してくれたかのようにこの日本地図に記された点について聞くアゼル。
「これは、例の死霊女性が目撃された場所と日付を記したものだ」
ベルハルクがそう言うとパネルに映る日本地図の九州部分をズームさせていく。
点のある方へ地図が拡大されていくと、地図内に細かく県や市が表示される。そして点が記された箇所の横に日付が現れる。
「4月25日、福岡県秋人市。この場所は増田光ちゃんの出生地でもある。ヒカマスさんが目撃された記録が1番古く残っているのがここだ」
そう言って次に画面の右側を映すために指をスライドさせて動かす。
「4月27日、神奈川県海崎市玉区。同日、薄木市。海星高校で不審者騒ぎが出始めたのがこの頃からだ。ちなみに玉区には彼女の実家がある」
「4月28日、薄木市。同日砂利ヶ前市。29日以降も同様に薄木市と砂利ヶ前市で目撃情報が頻発している」
「アゼル•バイジャン。ここまで聞いてこれが何を意味しているか君にはわかるか?」
ベルハルクはタブレット端末を病室に備え付けられている棚の上に置き、アゼルへ問い掛ける。
えーと‥‥最初に目撃されたのが福岡県で、次は神奈川の海崎から薄木へ砂利ヶ前に目撃情報が移動していってるんだよな‥‥
で、福岡はここの病室で眠ってる増田光って子の出生地で、海崎は彼女の今の家があるから‥‥
「死霊がこの女とゆかりがある場所のみに出没してるって訳か」
俺が結論に至るよりも早くアゼルが答える。
「その通りだ。因みに彼女は元々海星高校の一年生だった。母親との事件がなければ今は高校二年生という訳だ。これで何故彼女が海星高校周辺を彷徨っているのか説明もつく」
そういう事か‥‥つまりヒカマスさんの正体がこの増田光ちゃんだとすれば、海星高校前に現れる理由は彼女の母校だからと説明がつく。
でもそれだと1つ疑問が残る。
「ならなぜあの死霊は無空高校の方へも来た?」
アゼルが俺も思った疑問点を質問してくれた。
「その行動については私達も解明できていない。だが彼女が出没しているのは無空高校に限らず他の小中高周辺にも現れている。事実だけを見れば、彼女の魂は出生の地から巡り、現在は自身の生活圏を徘徊しているように見える。」
「生活圏とは言うが、括りが広すぎるだろ。最初はその女の人生に所縁のある地のみに現れていた筈なのに、途中から法則性が無くなっている。いくら実体を持っているとは言え、いや、実体を持つ死霊だからこそ、その行動には術式の制限があるはずだ」
アゼルの疑問に対し、ベルハルクと入れ替わるかのように
式部先輩が口を開く。
「確かに死霊の行動目的や術式の解明がこの問題を解決に導く1番の手とは理解しているわ。ただ、それを紐解く時間的余裕はない。先程も言ったけれど今日明日がリミットよ」
「だから今日の深夜、それら諸々の問題を解決する為に調査、いえ、魔法陣の破壊に向かうわ」
その言葉を聞きアゼルは眉を吊り上げる。
「その言い方だと大規模魔法行使がどこで行われているか既にわかってるといった感じだな。ここまでの移動中に話してた内容じゃどこで行われているか場所は特定できてないような口ぶりだったのに」
そう言って式部先輩に鋭い目を向ける。
それに対し彼女は特に物怖じせずに答える。
「勿論場所の特定までには至っていないわ。ただ、一昨日の段階で怪しい場所を3箇所までに絞ったわ。昨日までそこを張っていたけれどそれらしい人物は現れなかった。けれど、術式の効果を継続させる気なら今日明日中には姿を現すはずよ」
「3箇所に絞ったって‥‥俺ですらここ数日魔法発動の反応を探知していないのに、お前らはどうやって見つけ出したんだ?」
「確かに私達も魔力反応を感じる事は出来なかった。けれど別の方法で的を絞る事は出来るわ」
「なんだと?」
アゼルはその返答に少し驚く。
自称天才魔導師のアゼルにとって、式部先輩達魔導騎士団を魔法の分野においては若干格下に見ているようだが、それだけに彼自身も知らない手段や方法を彼らが有している事に若干気に食わないようだった。
「簡単な話よ。魔法発動時特有の魔力反応は感じられない。けど、何らかの大規模魔法を使用すればその場、土地の魔力に変動が起きる。この神奈川の土地の大気の魔力量を常にチェックしてる私達はここ数日で魔力量が大きく変動した場所を絞り込んだだけよ」
「!!…なるほど。確かに時間は掛かるが簡単な手だな。そして俺みたいにこの世界に来て日が浅い人間には使えない手法だ」
俺には式部先輩が何を言っているのかさっぱり理解できなかったが、アゼルはさっきの不機嫌な態度とは打って変わって感心した様子だ。
要は水質調査的な事だろうか?いや、それだと意味合いが違うか…うーん、わからん。
だが、何故式部先輩達がこの県の魔力量を常時調べているのか気に掛かった。
別に神奈川県だけでなく全国、世界全体の魔力の流れをチェックしているのかもしれないが、今の話の流れだと神奈川県のみ調査している様にも聞こえた。
その場合、アゼルの言う「俺の住む街周辺に『最上の魔法』があるのではないか」という仮説がまた信憑性を増してしまいそうで怖い。
仮に俺の住む周辺の地域に『最上の魔法』があったならば、街は戦場になるだろう。
そして俺はアゼルに身体を貸している以上、多かれ少なかれその戦いの中心にいる事になるだろう。
……
よくある異世界物小説のように、チートスキルを手に入れて、それを駆使して問題を解決し、周りから持て囃される。
あり得ない事とはいえ、そんな事を多少は夢見ていた俺にとって、今の状況に多少の高揚感を覚えている事は否定しない。
そして今後起きるであろう状況が俺にとって嬉しい事なのか、恐ろしい事なのかはわからない。
ただ綺麗事では片付けられない何かをしでかしてしまうのではないかという直感だけがあった。
どちらにしろ、今はアゼルが俺に一言も喋らせようとしないため、その真偽を彼女達に確かめる事はできない。
「ここ数日で魔力量に変化があった場所、1箇所目は阿賀見原市のホテルムーンヒルズ阿賀見湖跡地。2箇所目が大和市の沼の森ふれあい広場。3箇所目、私達が本命と踏んでいる立間市の芹川市民公園。この3箇所の内2箇所は、術式の存在を隠す為のブラフの可能性もある。又はこれら3箇所を中心に発動する術式かもしれない。どちらにしろ三手に分かれ調査を行い、魔法陣を見付け次第各個撃破していく必要があるわ」
「ホテル阿賀見湖跡に団長が、沼の森に私が、芹川公園にはスバルが向かうつもりよ。あなたは本命である芹川公園にスバルと一緒に同行してもらうけれど、良いかしら?」
俺が考え事をしている中、式部先輩の話は進んでいた。
阿賀見原に立間に大和か…同じ神奈川県に住んでいてもそこら辺は普段行かないからよく分からないな…
「…了解した」
アゼルは渋々ながらもすんなり受け入れた。
「が、今この場で俺のする質問に全て答えたらだ。それが同行する際の約束だからな」
そんなことはなかった。しっかり自分の利益を考えていた。
まあ、ここまで来る間に聞いた内容は『ヒカマスさん』の件についてと聖教会という組織の存在についてだけだからな。これだけの情報で彼女達に協力するには割に合わないと思う気持ちは俺にもわかる。
「ええ、わかってるわ」
「なら一番最初に本題を聞くが…」
そう切り出すとアゼルは真剣な面持ちで
「お前ら、『最上の魔法』の在処について知っているのか」
その質問を口にした直後、病室内の空気が重くなった。
そりゃあそうだろう…この話題は今触れたらまずいやつだ。
これから協力しようという関係とは言えアゼルと式部先輩達は言わば競争相手又は商売敵。双方の目的である『最上の魔法』の入手について仮に彼女達が何か知っていたとしてもアゼルに対し素直に情報を話すわけがない。
なのに何故アゼルはこの質問をしたのか。3人の挙動や表情から何か手掛かりを掴もうとしているのか、定かではない。最悪、今目の前にいる3人とこの場で戦闘になってもおかしくないかもしれないのに…
一瞬、魔導騎士団3人の顔が強張ったように思えたが、直様式部先輩が余裕の表情で答え始めた。
「この1年半、私達も総力を上げて探し回っているけれど手掛かりすら掴めないわね。そもそも科学技術の発展したこの世界の日常で魔法のまの字すら聞くことはない。『魔法』という概念は、この現代社会においては古い歴史の伝聞や、創作の物語における空想の中での存在でしかない。最早『最上の魔法』と呼ばれるものが本当に実在するのか怪しい」
「私達の世界の常識から見ればこの世界は、未知の存在の数々が取り巻くある意味で『最上の世界』、楽園のような場所だけれど、それとこれとは話が違うしね」
「ただ、この世界で聖教会が保有する神具…いえ
、聖遺物と呼ばれるアーティファクトの中に私達の求めるものがあるのでは、とは一応考えているわ。現状は聖教会の内情について調査を進めつつかの組織がどのような能力の聖遺物を有しているかの把握と、聖教会の管轄にない聖遺物、又はそれに相応する技術の捜索が私達の予定よ」
「……」
式部先輩の話ぶりからは嘘をついているようには見えない。が、全て真実を言っているようにも見えない。
前にアゼルも言っていたが、なぜ彼ら魔導騎士団はこの世界での活動拠点を日本に置いているのか?更に首都の東京ではなく、一つ隣の神奈川なのか。それを考えた時に何かこの土地に居座るべき特別な理由があるのではないかと思ってしまう。
まあ、アゼルみたいにこの地域に『最上の魔法』があるなんてぶっ飛んだ考えには流石に至らないが、今話した内容でそこについて全く言及がなかった事を考えると『最上の魔法』関係なく何か隠したい理由はありそうだ。
「聖教会」という組織が世界のどこにあるのかはわからないが、調査をしたいと言うなら尚更日本の学生として過ごしているのは効率が悪い。
アゼルも俺と同じような事を考えているのか、アゼルの式部先輩達に対する疑心が俺にも伝わってきた。
「…まあ、今はそれでいいだろ。今はな」
何か含みのある言い方をするアゼル。
求める答えは得られなかったが、それを追求する事は今はしないでやる。と暗に彼女らに伝えているようにも感じる。
俺としてはさっきのような殺伐とした雰囲気には戻ってほしくないのでこの話題はさっさと締めてほしい限りである。
「じゃあ次の質問だ。お前ら魔導騎士団の中に魔眼持ちでもいるのか?」
「…そう思うのはなぜ?」
「人の魂を視れるのは『魂視眼』の特殊能力持ちだけだ。さっきの話でこの部屋でこの女を見つけた時、お前は魂がなかったと言ったよな?なら生きた人間の魂も視えているという事だ。俺も『死者蘇生の禁呪』と『転生の禁呪』を修得して人の魂が視えるようになったが、死霊魔法専門の使い手が後天的に視えるようになったりするらしい。そうなればお前ら魔導騎士団の中に死霊魔導師か魔眼の特殊能力持ちがいるかのどっちかだ。魔法剣士が基本のお前らが汎用性の乏しい死霊魔法を極めるとも思えんから先天的な特殊能力持ちがいると思っただけだ」
こ…こんしがん?いきなり次の質問をしたと思ったらさっきの『最上の魔法』の話題とは全く関係ないことを話し始めた。何を言っているのかさっぱりわからん。
それを聞いた式部先輩は一瞬隣にいたベルハルクの方へ顔を向ける。
ベルハルクが何かに頷くのを見た彼女はすぐさまこちらに顔を戻し
「ええその通り。私が『魂視眼』のスキル持ちよ」
とだけ答えた。
「ほーん…お前が魔眼持ちの風には見えなかったが…
まあ今はいいとしようか」
彼女の返答に何か含みを持たせた口振りなアゼル。
確かに彼女達とアゼルは本来敵同士なのだから額面通りに内容を信じる行為は隙を作りかねないと、つい先程の緊迫したやり取りで考えを少し改めたが、そう一々疑っていては話が進まない。
と思うや否やアゼルはすぐに次の質問を口にする。
「じゃあ次だ。この地域の魔力量の増減について聞きたいんだが…」
そんな感じでアゼルの質問攻めが小一時間ほど続いた。
内容が専門的…というかラノベ大好き厨二病患っていた俺でも病室内で連発されるイタい単語の数々に遂に耐えられなくなり耳をシャットダウンしてしまった。
なのでどういった内容を話していたのかは俺にはわからないが、話の雰囲気的には式場先輩達がこの世界に来てから得た情報の擦り合わせをしている様だった。
〈キャラ紹介〉
名前:鐘堂明日武(本名:ベルハルク•アストロム)(29)♂
職業:聖騎士
所属:神聖ラモウ帝国帝国聖騎士団第4師団(師団長)→皇帝陛下直属魔導騎士団(団長)
スキル:【???】
聖帝流剣術 皆伝
武器:帝国騎士の聖鎧
清浄剣




