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第一話:出会い

 最近、世の中は物騒だ。


日本各地で身元不明な遺体が数多く出てきたり、快晴の日に雷が民家の屋根に落ちるなど、不可解な事が続いていた。


今日もケータイでSNSのニュース欄を覗くと、バラバラ殺人記事がトップで掲載されていた。


「おい、ソーマ!!さっきニュースでやってた事件砂利ヶ前(ざりがまえ)市で起きてるって!!」


そう言って俺の前の人の席に無断で座って話しかけてくるのはクラスの友人の海斗。


海斗とは高校からの付き合いだがオタクの俺と違い髪をミルクティーベージュに染め、耳にピアスも開けている。


うちの学校は染髪は原則禁止、ピアスの着用も禁止。


だが海斗は、ピアスは普段穴を塞がない用の透明な物を身につけているものの、髪だけは最初指導されれば数日スプレーで黒くしてくるが、またすぐ元の色に戻っているので、担任や生活指導の教師から怒られている光景をよく見る。


「さっき見た。警官のバラバラ殺人だってな。ここも最近物騒になって来たな」


ついこの前も自分の住む市では小学生児童が数人行方不明になる事件が起こっていた。小学校前で不審者の目撃情報もあり、その事件を受けて周囲の小中学校は今現在午前のみの授業で集団下校をさせているという話を母から聞いた。


今回の警官が殺害された事件もこれと関係があるのだろうか。


「犯人はまだ捕まってないみたいだし、今日早く帰れんじゃね?」


そうウキウキで言ってくる海斗に愛想笑いを浮かべながら


「それなら嬉しいけど、あんま期待してると普通に授業あった時萎えるぞ」


「もうすぐゴールデンウィークだしこのまま休みになってくれたりしねえかなあ」


「ないない」


そんな当たり障りのない雑談を10分休憩の間2人でしていると始業のチャイムが鳴る。


「海斗、早く自分の席戻ってよ」


そう言う女性の声がする先を見ると、自分の前の席の住人、玲奈が目の前に立っていた。


彼女はさっきまで女子グループに混ざって教室の一角で話していたが、チャイムが鳴ったため自身の席へ戻って来た。


「悪い黒崎」


そう言って海斗は席を立ち上がり席を譲った。


そのまま海斗も自身の席へ戻って行った。


俺も次の授業の準備を急いで済ませて科目担当の今日の教師が来るまで待っていた。


「ねえ、安西先生来るの遅くない?」


前の席に座る玲奈が話しかけてくる。


気づくとチャイムが鳴ってからもう5分近く経っていた。


「入るクラス間違えたとかじゃね」


「それにしても遅くない?」


「やっぱ今日早く帰れるんじゃね!?」


その声が発せられた方を振り向くと、自分の席に戻っていたはずの海斗が、いつの間にか俺の席の隣に来ていた。


「あー、今会議とかしてるのかもな」


「何の話?」


玲奈が訳わからなそうにしている。


「実はさっきこの辺で…」


そう言って俺と海斗はさっき話していたニュースの話を聞かせる。


「え、ヤバそれ」


玲奈から大袈裟な反応が返ってくる。まあ、実際犯人がまだ捕まっていないので結構危ないのは事実だ。


先生が来ない為、クラス全体が休み時間のような空気になり、方々から話し声が聞こえ始める。


俺も2人と話しながら時間を潰していた。


それから先生が来たのは本来の授業開始時間から30分すぎてからだった。






 「おーい、今日これから遊ばね?」


結局、今日は例の事件が起こった為、午前中で学校は終わり、全生徒一斉下校となった。


「何すんの?」


「カラオケ」


「パス」


「何でさ」


「お前芽衣奈さん達と一緒に行こうとしてるだろ。俺女子の前で歌える曲のレパートリー多くないから」


ホームルームが終わってから、海斗がいつも遊んでいる女子メンバーに声を掛けているのは遠目で見ていた。


「あー、お前基本アニソンしか歌わないもんなあ」


「そゆこと」


俺は一般的には「オタク」と言われる人種でゲーム大好き、アニメ大好きの陰キャ高校生だ。


対する海斗はザ•陽キャのような性格でSNSで流行りの数十秒程度のショート動画を投稿して将来の黒歴史を作っているぐらいには活動的で女子の友人も多い。


そんな俺たちだが、高校入学時に同じクラスになった事がきっかけで友達付き合いをしている。


「お前の好きな黒崎さんも来るんだけどなー」


そうわざとらしい言い方で俺も来るよう煽ってくる。


「ちょ、大声で言うなって!!」


「わぷっ!!」


慌てて海斗の口を塞ぐ。


黒崎玲奈。彼女も1年生の時に海斗と同様に同じクラスで、2年に上がった現在も同じクラスだった。


厨二病を拗らせて女子と上手く話せなかった中学時代を過ごした俺は、高校でも女子と積極的に関わろうとしなかった。


が、そんな俺に対しても彼女は優しく話しかけて来てくれた。


女子の中心グループにいながら、誰にでも分け隔てなく気さくに接してくれる彼女に、俺は内心思いを寄せていた。


海斗を通じて女子グループに混ざり友人として仲良くなる事はできたが、未だ告白できずにいた。


「おい、窒息するだろ!」


海斗は俺の口を塞ごうとした手をどける。


「悪い悪い」


「で、今日来る?」


「いや、それでも無理だわ。今金ないし」


「お前もそろそろバイト始めろよぉ」


「えー、めんどくさいしいいよ」


「バイト始めれば自由に使える金もっと増えて」


「バイトしてるマウントいいから。聞き飽きたから」


確かに部活にも入っていないので、バイトぐらいした方が良いと俺も思うのだが、あがり症と人見知りの性格が一歩を踏み出せないでいた。


「まあ、そこまで言うならまた今度な」


「ああ、じゃあな」


そう言って海斗と別れて教室を出る。


海斗との付き合いを断ったのは実際は別の理由があった。


俺はその足である場所に向かった。






 「…いやぁ、めっちゃ面白かったわ…」


学校の帰り、俺は砂利ヶ前駅近くにある映画館で映画を見ていた。


元々今日は午前授業にならなくとも帰りに映画を見に行こうと決めていた。


もちろん金はなかった。もしカラオケに使っていたら映画は見れなかっただろう。


見た映画は自分の好きな深夜アニメシリーズの劇場版だった。先週から放映開始だったが、土日は家に引き篭もるため数日遅れての視聴となった。


時刻は16時半過ぎ。もう少ししたら日が落ち始めようとしている時間帯だった。


俺は家に帰ろうと駅前の駐輪場に行こうとする。


街を歩いていると、目の前に妙な人間がいるのが見えた


身長は180ぐらいだろうか、顔立ちはヨーロッパ系で白髪に眼帯、瞳の色は赤く、魔法使いぽい装飾のローブと背中に水晶がはまった杖3本を背負っている。


見るからに何かのアニメキャラのコスプレをしている男性が、すぐ隣のショッピングモールを物珍しそうに見上げていた。


ここが東京なら兎も角、神奈川のちょっと栄えた街にこんなゴリゴリのコスプレした外国人が来るなんて珍しいもんだ。


それにしても何のコスプレなんだろう…


ジロジロ見ては行けないと思うもその男性のすぐ横を通るまで横目で見てしまっていた。


その男性のすぐ横を通り、そのまま駐輪場まで行こうとした時、いきなり後ろから肩を掴まれる。


「うおっ!?」


びっくりして変な声を出してしまう。


何だと思い後ろを振り向く。


見るとさっきのコスプレ外人が俺の肩を掴んでいた。


そしてその男性は何事かをペラペラと話し始めた。


英語なのかなんなのかわからない言語でいきなり話しかけれて俺はちょっとしたパニックになる。


どうしよう…外人さんは道でも聞かれているんだろうか?…英語なんて話せないしどうしたら…


そんな不安の表情を顔に出していると、男性も話す事をやめ何事か考え始めた。


これは好機と思い、少し申し訳ないながらも退散する事にした。


「あ、アイムソーリー…アイキャンノットスパークイングリッシュ…」


そう片言で適当にお詫びの言葉を言いながら立ち去ろうとした時、


『少年、訪ねたい事があるのだが』


いきなり俺の脳内に低い男性の声が響き渡る。


バッと後ろを振り返る。


さっきの外人の男性はまだ目の前にいた。


そしてその男性が口を開くと同時に、


『良かった。どうやら通じているようだな』


またも脳内に声が響き渡る。


え?今この人が話したのか?でもこの頭から響いてくる声はなんなんだ?


俺はパニックになって叫び声を上げそうになっていた。だが、上手く声が出ない。


『おい、聞いているか?少年』


そう男性が口を開くと同時に頭に低い男性の声が聞こえてくる。


「あ、あなたが…喋っているんですか?」


自分でも何を言っているか分からなかったが、声を振り絞って目の前にいる男性に話しかける。


『良かった。やはり通じているな。やはり精神感応魔法(テレパス)は魂の相性が良い人間としか交信が出来ないから不便だな全く』


俺の問いかけに対して脳内の声が返事をして来た。


「あ…あ、あ」


最早どんな状況なのか検討もつかず、発狂してしまいたい心境だった。


『少年、一つ聞きたいのだが、ここら辺で酒場か食事処はないか?喉が乾いているので飲み物を貰いたいのだが』


又もや男性が喋りだすと同時に脳に声が響く。


「あ、あなたは一体…誰なんですか…?」


なんとか声を振り絞り、男性が何者なのかを聞く。


『ああ、自己紹介がまだだったな。俺の名はアゼル•バイジャン•ホーエンハイム。コペパ王国の宮廷魔導師をしている。この世界には最上の魔法を探す為にやって来た』


彼の言う事に何一つ理解する事が出来なかった。






 砂利ヶ前駅近くのショッピングモール一階のフードコート。そこで俺と、あともう一名は空いている席を探していた。


俺に付いてくる男性は、その身なりの異質さからフードコートにいる客達から奇異の目で見られていた。


その視線を一緒に浴びなければいけない俺も些か居心地の悪さを感じていた。


さっきなんて自動ドアに一々ビビってて、色んな人達に変な目で見られてしまった。


「そこに座っててください。何か食べますか?あんまりお金はないですけど」


そう言うと男性は席に座り、


『いや、水だけ貰えればそれでいい』


またしても頭に声が響く。


「じゃあ、水取ってくるのでちょっと待っててください」


そう言って俺は席を離れてウォーターサーバーの方へ向かった。


なぜあの怪しい男性と一緒にいるかと言えば、一種の好奇心である。


一見すれば頭のおかしい変質者だが、現に俺は脳内から響いてくる声を聞いている。


この事実だけは俺自身が身を持って体験している。頭がおかしくなったとすれば逆に俺の方かもしれないが、俺は至って正常だ。多分。


そして彼が話した中で気になっている事があった。彼は「この世界に来た」と言っていたつまり彼は異世界の住人という事ではないだろうか?妄想の類でなければ。


自分もいくつかの異世界転生モノのアニメを見てきたが、まさか現実で異世界の人間がやって来たというこの現状に一種の興奮を覚えていた。


普段の日常がひっくり返り、アニメやゲームのような非日常がいきなり現実に飛び込んできて、そんな状況のただ中に今俺はいると思うと高揚してくる。


『ほう。それはどうやって水が出ているんだ?』


脳内で声がして後ろを振り向くと彼が俺が水を入れている所を覗き込んでいた。


「ついて来てたんですか」


『いや、すまない。つい気になってしまって』


俺は彼と一緒に元の席に戻る。


「で、アゼル…さんは、この世界の人間ではないと?」


早速自称異世界人に質問してみる事に。我ながら馬鹿みたいな事を聞いているのは承知の上だ。


『アゼルでいい。俺は少年とは別の世界「メルヴェルト」から来たんだ。ん、この水美味いな』


そう言って一気に水を飲み干すアゼル。


本人から再度異世界から来た事を告げられ俺は内心興奮していた。


「何しにこの世界にやって来たんですか?それとどうやってこっちの世界に来たのかも」


次々と彼に質問をする。


『俺の世界には、最近異世界へと繋がる扉なる物があってな。それを通ったらここはやって来た。表向きは国王の命で調査に来たわけだが、俺の目的は別にある』


『俺は「最上の魔法」という全ての事象を操る事ができる魔法を探してこの世界にやってきたのだが、少年は何か知らないか?』


普段聞けば笑い飛ばしそうになる話を真顔でするアゼルに俺も真剣に聞き入っていた。


「いや、そのサイジョウノマホウ?って言うのが何か分かりませんが、そもそもこの世界では魔法なんて御伽噺の存在ですよ」


『そうなのか!?ならさっき水はどこから出て来たんだ?あの勝手にあく透明なガラスの扉はどうやって開いているんだ?』


逆に俺が質問攻めを受ける


「さっきの水もそういう水が出てくる機械ですし、自動ドアもセンサーが反応して開いてるだけですし」


『ジドウドア?センサー?とはなんだ?もっと教えてくれないか!?』


そんな訳で自分の知る限りアゼルにこの世界について教えていった。







 「で、これからどうするんですか?アゼルはお金ないよね」


『まあ、どうやらこの世界は水に困らないらしいし、後は寝るところさえあれば文句はないさ』


「食事は良いんですか?」


『…ああ、食事に関しては問題ない。』


そう答えるアゼルの顔はかなりゲッソリとしている。


今俺たちは、フードコートから場所を移し近場の公園に移動して話を続けていた。


現在公園内には俺とアゼルの2人しかいない。小さな公園なのでこの時間はもう遊ぶ子供もいないのだろう。


アゼルの見た目や服装はかなり目立つ。話してても変な周囲に変な目で見られないから都合が良い。


『まずはこの世界についてよく知らないといけないな。少年はこの世界には魔法なんて空想の存在だと言うが、俺からすればこの世界の大気はマナに満ち溢れている!現地民には分からなくとも異世界人である俺なら発見できる物があるかもしれない』


そう言いながらアゼルは周囲を眺める。


『それにしてもこの世界は見た事がない物ばかりだ。今までこの世界に行った魔導師や冒険者が誰一人返って来ないと聞いたもんだからどんな魔獣の巣かと想像していたが、これならこの世界に住み着いてる奴らもいそうだな』


アゼルの世界の文化レベルがどれほどかわからないが、テンプレートな中世的な異世界ならば、異世界からこっちに来た人間はあまりの快適さに住み着いてしまうかもしれないという話はあるかもと思ってしまう。


「ところでアゼルはどうやって元の世界に帰るんです?」


それを聞いた瞬間、アゼルが一瞬固まる。


『……』


「まさかアゼルの世界の人間が帰って来れないのって、単純に元の世界への帰還方法がわからないだけでは?」


『……気づいた時には扉が何処にも無かったんだ…てっきり扉はそのままだと…こんな事なら帰還方法をしっかり用意してくれば良かった…』


そう言って頭を抱えるアゼル。


『…まあ、帰還方法は追々考えるさ。まだこの世界でやる事もあるし、俺の推測だがこの世界にも「メルヴェルト」に繋がる扉が何処かにあるはずだ。多分』


アゼルは座っていたベンチから腰を上げ


『色々教えてくれてありがとう少年。引き止めてしまい悪かったな』


そう言って公園を立ち去ろうとする。


俺は引き止めたい気持ちとこのまま見送るかでせめぎ合っていた。


もうこの訳もわからない男と関わらない方が良いと思う気持ちもあれば、せっかく舞い込んできた「非日常」を手放して良いものかと惜しい気持ちもある。どうするか迷っていた。


「あの、この世界の事を知りたいなら図書館という場所に行くと良いですよ。あ、でもまず日本語覚えないといけませんね」


結局、彼とこの場で別れる事にした。


この脳に語りかけてくる現象は魔法だとしてもただそれだけだ。異世界だ魔法だなんてこの世界に実際にある訳はない。


さっきまでは映画を見た後の興奮からつい異世界人という単語に飛びついたが、そんな話はあるはずない。そう、そんなものはない。妄想だ。


『ありがとう。参考にさせてもらう』


そう言って立ち去ろうとするアゼルが振り向いた瞬間、


「まさかこんな所でアンタみたいな大物と出くわすとはな」


後ろからまたもや聞いたのない言語を話す男の声が聞こえてきた。









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