第十話:激突 『十二階位:第二階位』対『大陸最強の魔導師』
砂利ヶ前駅と連結するように繋がるビナワークの広場で、2人の男が今この瞬間から殺し合おうとしていた。
その内の1人、高校生斎藤僧間の頭の中に居座る異世界人。『大陸最強の魔導師』アゼル•バイジャン•ホーエンハイム。
相対するは、現代社会から神話時代から残る神秘を隠匿する為、影で異世界人を抹殺する代行者。聖教会特別執行機関『十二階位:第二階位』セルジオ•ヴォーティガス。
些細な出会いから戦う事になった彼らだが、各出身の世界から自他共に認める世界最高峰の実力を有している。
先進国の島国日本、都市部から少し離れたとある街で今、この惑星史上始まって以来の大魔法合戦が始まろうとしていた。
ー
「話が通じねえ野郎だな…いいぜ!!俺と戦った事を後悔させてやるぜ!!!!」
その言葉と同時に俺とアゼルの意識は完全に入れ替わる。
男性もその気配を察してか、即座に腰を低く落とし両手で槍を構える。
まず最初に動き出したのはアゼルであった。
自らの右足を大袈裟に振り上げ、地面を力強く踏む。
その瞬間、踏んだ事による轟音と共にコンクリートタイルの地面に大きな衝撃が走る。
周囲の大地は大きく揺れ、アゼルを中心にコンクリートの地面にヒビが入り、そのまま大きく割れ崩れた。
これは…!!片足で地面を踏んだだけで地震に地割れって…!!どんな馬鹿力だよ!!
『ハッ!!剣や槍を使う相手なら先ず足場を狙う!!剣士は腰の重心を地面に垂直に落とし固定する事で居合の構えを作り、通常の何倍もの威力で剣を振る。足場を崩してやれば隙だらけだ!!』
脳内で鼻高々に解説するアゼルの言う通り、地面が割れた事により男性は体制を崩す。
それと同時にアゼルは男性の頭上高く飛ぶ。
そのまま男性の下に落下しながら拳を振り上げる。
アゼルの十八番である【力の禁呪】による無限倍威力のパンチが駆り出されようとしていた。
『勝負あったな!!』
男性はすぐさま体制を立て直し、槍で拳を受け止めようとした。
だがアゼルの強化した拳の前にはどんな障害物も意味を成さない。このまま本当に勝負がつくと思った。
が、
「…何?」
アゼルの拳が槍に触れるも何の衝撃も起こらない。
一瞬、さっきまで見ていた眼鏡の魔導師と男性の戦いにおいて、眼鏡の魔導師も何か詠唱らしきものを唱えていたが何も起こらず男性の槍で胴体が貫かれていた事が脳裏によぎる。
「くッ…!!」
アゼルもそれを警戒したのか咄嗟に後ろへと飛び去る。
何が起きたんだ!?
『…わからん!だが禁呪の力を使った筈なのに発動した感覚はなかった…』
流石のアゼルも動揺していた。
広場には数秒沈黙が起きる。
「解析…不能。類似術式検索。124件ヲ発見。統合術式展開。支援ノ為合計243件ノ術式ヲ統合。術式対消滅ヲ確認…だと…!」
アゼルの動揺とは別に、どうやら男性も驚いてる様だった。
「…貴様の使う力、この『智慧の槍』ですら解析できない技術とは…一体どういった代物だ?」
男性がアゼルへ問い掛ける。
「俺こそ聞きたいぜ!お前こそさっき何をした!」
同じくアゼルも問い掛けるが、両者が答えを易々と口にするわけはなかった。
またしても沈黙の後、再度男性が槍を構え直す。
さっきの場面、それにその前に戦っていた魔導師の事も考えると…相手は魔法を無効化するのか?
『…だろうな。さっきの眼鏡も詠唱を唱え終わっていながら魔法発動の気配すらなかった。…魔法無効。魔法の術式と真逆の反術式を発動する事で魔法の発動そのものをなかった事にする…本当に使う奴がいるとはな…」
如何にも「面倒くさい相手に当たってしまった…」といった口調で話すアゼル。
確かに相手が魔法を無効化してくるならこの上なく脅威だ。どんなアニメや漫画においても能力無効化スキル持ちは主役敵問わず強キャラと相場が決まっている。
今この殺し合いの場でそんな軽口を叩けるほど楽観視できる状況ではないが…
『魔法無効は単純な相性属性の相殺とは訳が違う。普通に魔法を使う事より難しい技術を使ってまで発動自体をわざわざ無効化する人間はまずいない。…だが、あの槍。あの槍の力で容易に可能としているのなら、あいつは俺達の世界の魔導師にとって天敵みたいな相手だな』
そんな悠長に解説してる場合じゃないだろ!!ヤバくないかそれ?
『騒ぐな。魔法が無効されるのは確かに脅威だが、突く隙はある』
隙?魔法が使えなきゃ武器を持つあっちの方が有利だろ。俺の身体は平々凡々だし勝ち目ないぞ。
『仮定だが、確かにあいつは魔法を無効化できる。だがそれはあいつが持つ槍が直に触れた場合、もしくは槍から近い範囲での魔法しか無効に出来ないと俺は考える。』
『一番最初に地割れを起こした時を思い出せ。何故あの段階で魔法を無効にしなかった?そうすれば身体を貫いて一発で終わっていたのに何故しなかった』
確かに。
『つまりあの魔法無効は近距離で発動したもののみに有効と言う訳だ。それがわかれば幾らでも戦いようはある』
だけどアゼルの【力の禁呪】は基本的に肉体の強化や拳や足の力を倍化して戦う接近前提の魔法なのに、無効にされちゃあ意味ないぞ。
『フッ…まあ見ていろ』
そう脳内で囁くと、アゼルは両腕を大きく振り始めた。
ブン!!ブン!!と無造作に両腕を振って風を起こしていた。
やがて腕を振る事をやめると、周囲で揺れていた風が強くなって行くのを感じる。
その風はどんどん動きを付けていき、まるで自分の左右に竜巻が起きているかの如く風に靡かれる。
本来ならそのまま吹っ飛ばされそうな風力だが、アゼルの肉体強化により俺自身の身体は地面に根を張っているかのように微動だにしなかった。
アゼルの視界から左右に目を向ける。
ッ!!!!
俺の身体の左右両方に大きな小竜巻のようなものが出来ていた。あまりの風の強さに広場に設置されている出店のテントや店の看板が飛ばされそうになっていた。
『【力の禁呪】と言っても、ただ自身の肉体のパワーを強化するだけが取り柄ではない!!『風力操作』、と言うと大袈裟だが、俺は俺自身の周囲にかかる『力』を操る事ができる。当然空気にかかる力も同様にだ。後は気圧の流れを調整してやればこんな芸当造作もない!!』
脳内でそう声高々に説明するアゼル。
マジかよ…もう何でもありじゃん【力の禁呪】。
アゼルが2つの小竜巻に挟まれる中、男性はその光景を見ても表情を変える事はなかった。
アゼルが小竜巻を発生させたと同時に彼は構えた槍を空へ向ける。
「術式検索。発見。術式起動【嵐風】」
その言葉と共に雲一つなかった空がいきなり曇り出す。
そして男性の周囲にも大きな突風が起き、その風が円を描くようにグルグルと吹き始める。
雨が降り始める。深夜にかけて雨が降るなんて予報は出ていなかった筈だ。
強風も相まって、雨粒が強く身体を打ちつけてくる。
男性が何かを唱えた数秒のうちに辺りは強風と豪雨に見舞われ、男性の正面にはアゼルが作った2つの小竜巻よりも大きな竜巻が出来ていた。
「風属性超級魔法をこうも簡単に使うなんて…奴にはそんな事ができる魔力はない筈だ…」
流石のアゼルもこれには驚いていた。
「考えられるならあの槍…どういう能力だ…?」
アゼルのぼやきを聞き男性の持つ黄金の槍を見る。
精巧な装飾が施された大きな槍だが、それ以外に何か特別な力があるとは思えなかった。
そもそもこの世界に特殊な力を有した武器が存在する事が疑問である。
と言う事はあれは異世界から流入した武器?
でもそれならアゼルが何か知っているだろうし謎は深まる。
「…行くぞ」
男性のその一言で竜巻はこちらへ向かって動き出す。
「ッ!!…クソッ!!」
アゼルも1テンポ遅れて2つの小竜巻を男性へぶつけようと放つ。
互いの発生させた竜巻が近づき、暴風により辺り一体の建物の屋根や看板が外れ空の上を舞う。
当然人間なんて直様吹っ飛ばされてしまう威力だが、さっきと同様に俺の肉体は衝撃に微動だにしていなかった。
男性も風に押され後退しながらも直立を保っていた。
双方の竜巻が衝突する。それと同時に今まで体験した事がないほどの突風を身体に一心へ受ける。気流によって雲の上まで吹っ飛んでしまいそうな勢いだ。
「チッ…」
さっきは微動だにしてなかったアゼルだが、流石にこれだけの威力に耐えられなくなったのか、風の流れに乗るように数mほど宙に浮いた後風の威力が弱まると同時に地面へと着地した。
2人が起こした竜巻は、互いに衝突して激しい突風と共に対消滅した。
先程まで台風の目の中にいたように風が吹き荒んでいた光景が嘘のように止み、広場一体に静寂が戻った。
だが広場周辺の建物の屋根やガラス窓、店の看板、野外ショーのステージ台が破壊されていた。地割れした地面も相まってまるで大地震が起きた後のような惨状となった。
アゼルが男性の方へ目を向ける。
「…無傷か」
ついさっきいた位置からは十数mほど離れていたが、男性は何事もなかったかのように立っていた。
対するアゼルも特にダメージを受けていない。あれだけの大技を繰り出しておきながらお互いに効果はなかったようだ。
だがはっきりした事がある。
直前の眼鏡の魔導師でも使用していたが、男性は魔法無効の槍の他に通常の魔法攻撃も行える。
それが槍の力なのか男性の力なのかは不明だが、こちら側が最大威力の攻撃を封じられている状況であちら側は魔法無効に加え攻撃の手数も多いと来た。状況的に俺達の方が不利だった。
『この俺が不利だと?馬鹿言うな。まだまだこれからだ』
そう脳内で響くアゼルの声音は冷静なものだったが、俺には逆にその冷静さが余裕の無さを感じさせた。
アゼルは次の行動へ移った。
先ず自身の足元に落ちていた掌サイズのコンクリートの塊を拾い上げる。
その塊を片手で握り、強化した握力で握りつぶし粉々にした。
そのまま粉々にしたコンクリート片を持った腕を上げ片足を前に突き出した。ピッチャーが投球するような格好に近かったがフォームはおざなりだった。
アゼルはその体制のまま拳を振り落とし、男性目掛けてコンクリート片を投げつけた。
音速。
と言うと大袈裟だが、コンクリート片を投げた直後、凄まじい衝撃の風圧が俺の身体へ押し寄せ、1テンポ遅れて轟音が鳴り響いた。
数十、数百のコンクリート片は男性の周囲に見事に着弾する。
男性のいた周囲はコンクリート片を投げた事によって辺りは砂埃による煙が立ち込めていた。
広場に数秒の静寂が流れる。
……やったか?
なんて考えてしまうとフラグになってしまうが、正直俺は成功していないで欲しかった。
直撃なら男性は数十のコンクリート片が肉体を貫通している事になる。大怪我では済まない。致命傷だろう。
こんな殺し合いの場で生ぬるいことを言っているかもしれないが、アゼルがおこなったとはいえ俺の身体で人を殺める事はしたくなかった。
だが今アゼルに身体を貸している時点で、俺も男性が傷つく事を容認している事になる。
それで殺すのは嫌だと駄々をこねるのは虫が良すぎると心の何処かではわかっていた。
だが覚悟が出来ていなかった。異世界人と関わる意味、アゼルに身体を貸す事の意味に対して。
こんな状況下でも未だ興味本位の見物人感覚が抜けていない俺自身に少し嫌気が差しそうになる。
そんな事を考えていると段々と煙が薄れていき男性のシルエットが浮かび上がった。
ブゥンッ!!という何か棒状の物が振られる音と同時に煙が断ち消えた。
男性の姿が見え始める。
「…なんだ…それは」
アゼルは驚愕しているような声を出す。
俺の瞳にも男性の奇妙な姿が映し出されていおり、アゼルが驚く意味が理解できた。
男性の全身に白い毛皮のようなものが張り付いていた。
どうやらアゼルが投げつけたコンクリート片の全てはその毛皮が受け止めたようであり、ボロボロと破片が溢れ落ちていた。
「戻れ、フニキ」
男性のその言葉と同時に彼を包んでいた毛皮が離れ始め、男性本来の姿が表れた。
毛皮は男性から離れ地面に落ちると形を変えた。
白い毛皮は狼のような見た目になり、そのまま淡い光と共にその場から消え去った。
「精霊魔法まで使うとは…何でもありだな」
そう悪態をつくアゼル。
精霊魔法とは?とアゼルに聞こうとした時
「今度はこちらから行かせてもらう」
男性がそう言い槍先を俺達へ向ける。
「術式起動【蒼炎】」
そう唱えると同時に槍先から青色の炎が噴き出し俺達を襲う。
普通の人間ならば即座に逃げるところだが、アゼルの事だ。拳の風圧などで打ち消してしまうと思っていた。
だがアゼルは炎を喰らう着前に身を捩らせて横へ飛び去って襲いくる炎を躱した。
俺は違和感を覚えた。
別に躱そうが打ち消そうが攻撃を喰らわないので変わらないが、攻撃をわざわざ躱す行動を取るアゼルが普段の自分の力に絶対的自信を持っているイメージとそぐわなかった。
「…野郎。たった数発撃ち合っただけで俺の弱点に気付くなんて」
攻撃を躱すためしゃがみ込んだ身体を起こしながらアゼルは呟く。
弱点ってどういう意味だよ?
『確かに俺は【力の禁呪】によって絶大なスピードとパワーを持っている。だがそれの弊害によって俺は呪いで禁呪以外の他の魔法を使えない。だから状態異常攻撃には滅法弱い』
そう言って炎が着弾した方へ目を向ける。
未だに青い炎は消える事なくゆらゆらと燃え盛っていた。
『【蒼炎】は威力はないが粘着性があり数分間は決して消える事のない火属性上級魔法。たとえ風圧で掻き消そうとも分散して身体への直撃は免れない。だから躱した。火傷を負えばそれだけ体力を消耗する。長期的に見てあいつと比べて未熟なお前の身体じゃスタミナ負けして終わりだ』
なるほど…所謂「スリップダメージ」というやつか。
消耗戦になれば、明らかに鍛えていてスタミナもありそうな相手側の勝利は明白だ。
相手の男性の体つきの良さはスーツ越しでもわかる。それに加え高身長でリーチも長い。
対する俺は特に鍛えているわけでもない標準的な高校生の身体。
今はアゼルの魔法で超パワーを得ているがそれは瞬間的なもので、別に俺自身が強くなっているわけではない。肉体が限界を迎えればアゼルも魔法を行使できなくなる。
なら回復能力とかないのか?ほら、『治癒力』を強化するみたいな…
『そんな事は出来ん。傷口を塞いだり血流の流れを一時的に止める事は出来ても治癒能力そのものを強化する事は出来ん。さっきも言ったが【力の禁呪】は俺の周囲にかかる力を操作するだけだ』
そうはっきりと言われてしまった。
だが、脳内でそんな会話を悠長にしているほど余裕のある状況ではなかった。
「術式複数起動【火炎】【氷結】【氷雪】」
男性は次々と魔法を詠唱していき攻撃の手を緩めない。
アゼルは風を操り、気流の壁により俺の身体に直撃する事はなかった。
「術式複数起動【蒼炎】【火炎】」
続け様に男性は魔法を放ってくる。詠唱らしき文言が続け様に聞こえてくる。
双炎が襲ってくるもさっき同様アゼルが作った気流の壁により直撃する事はない。
だが青い炎だけは消える事なく気流の壁にぶつかり大半は分散し後方に流れていくも、風の隙間を超えて自分が着ているシャツの一部に青い火が付着してしまう。
おい!!服燃えてるぞ!!
咄嗟に脳内でアゼルに呼びかける。
「わかっているッ!!」
そう言ってアゼルは直様シャツを脱ぎ捨てた。
「術式複数起動【斬風】【地獄炎】」
続け様に魔法が放たれる。今度は風属性魔法で気流の壁に一瞬孔を開け、そこから高火力の爆炎をお見舞いしてくる。
「くっ…!!」
空いた気流の孔から無尽蔵の炎が目の前は流れ込んで来る。瞬間、肉体がバーナーで炙られているかのような熱さが全身に舞い込んでくる。
直様開け放たれた孔を気流の壁を操り塞ぐアゼル。
男性が放った炎は、先程使用された火属性魔法と比較にならないほど広範囲及び長時間放出された。
炎自体は風圧で押し返したが、今まで1番の火力に広場の辺り一体が火の海と化す。
周囲が燃え盛る事によって息苦しくなってくる。
心なしか肌もヒリヒリとして皮膚が焼かれているような気がした。
「…チッ!!あいつ、大型魔法の連発で俺を膠着状態にしてスタミナ切れを狙いにきやがって…!!」
ここ数十秒の間にアゼルの余裕は既に無くなっていた。
現状両者共に無傷だが、男性の魔法攻撃の猛攻にこちらは防戦一方となっていた。
一瞬、男性からの魔法攻撃の合間にアゼルが握りつぶしを作り、何もない空間を殴りつけた。
「フンッ!!」
威力を数千倍、数万倍にも強化して殴った拳からは凄まじい風圧が男性に向かって押し寄せた。
「くッ…!!」
突然の事だったからか、男性は槍で突風を受け止めるも数mほど後退、男性の魔法攻撃の連打の流れを止める事ができた。
「チッ!!やはり直接拳を当てなければ大したダメージにはならんか…」
だがアゼルもこの流れを易々見過ごす訳はなかった。
直ぐさま地面に落ちた地面の破片を拾い上げ男性に向かって投げつけた。もちろんその速さは銃の弾丸よりも上だ。
男性もこれには反応できなかったのか投げつけたコンクリート片が直撃し、彼の左肩を抉った。
「ぐッ…!!!!」
男性は一瞬苦痛の表情で顔を歪め、膝を地面に着ける。
「チッ!!外したか…!!」
アゼルは男の胴体目掛けて狙ったつもりだが、彼もプロの野球選手ではない。素人の投球コントロールでは当たっただけでも僥倖と言える。
それに男性の方も1秒もない一瞬で身体の急所を外す様体制をずらしていた。
「……術式起動…【治癒】」
直ぐに何かを唱え、男性は何もなかったかのような顔で立ち上がる。
その後すぐに片手で槍を構え直した。何か治癒魔法を掛けた様に見えたが、男性の闘志にみなぎる鋭い表情とは裏腹に左肩からは血が流れていた。
「チッ…、大した精神力だな」
今の一撃は確実にダメージを与える事ができたと思った俺とアゼルだが、即座に戦闘体制に戻った男性を見て落胆した。
「…来い!!フギン!!ムニン!!」
男性がそう叫ぶと、男性の周りにいくつもの黄緑色の火の玉のようなモノが漂い始める。
「…?今度は何をする気だ…」
黄緑色に光る火の玉は形を変え、鳥のような姿へと変わっていく。
男性の周りに、数十羽の火の鳥が一斉に現れた。
「…そろそろ決着を着けさせてもらう」
男性の一言と共に、火の鳥達は俺達へ襲い掛かって来た。
さ
「こいつ、どれだけ手を隠しているんだ…!!」
アゼルはそう悪態をつき、火の鳥の攻撃から避けようと後方へ下がった。
深夜に繰り広げられる最強同士の戦いは、未だ終わる事をない。
〈聖遺物紹介〉
•『智慧の槍』
ある神話の大神が使用していたとされる槍。紀元前に古代ローマ帝国が入手し、その後紆余曲折あり10年前まで聖教会の元に保管されていた。今は約2000年振りの適格者であるセルジオに授けられている。聖教会唯一のSSランク聖遺物。『奇跡の子』を殺した事により神殺しの槍としての逸話も残されている。
智慧の槍にはこの世界の全ての知識が収納されており、この槍の使用者は失われた神話の魔術を全て扱う事が出来る。また、未知の事象に対して『解析』、新たな知識として蓄積する機能を持つ。これによりセルジオが抹消した異世界人68人から解析した異世界の魔法を全て使用する事が可能。それを用いてセルジオは、解析と同時に直様反術式を発動する事で魔法の発動を打ち消す戦法を取る。
智慧の槍には「フギン」「ムニン」「ゲリ」「フニキ」「スレイプニル」という動物霊から昇華された5体の神霊が眠っており、「降霊魔術」を介して現実世界に召喚する事が可能。