九、質問
人生では、常に選択を迫られている。
見るか、見ないか……
何かをするか、何もしないか……
自分でやるのか、他人に頼るのか……
今回、この三つに当て嵌めて考えたとき、自分にとっての最善の選択はどちらか……
答えは全て前者だ。
目を背けてはいけない。現実をしっかりと見なければならない。
自分のことなのだ。思考を放棄するなんてありえない。
ベンジャミンさんに自分のことを決めて貰うなんて以ての外だ。小学生でも自分のことは自分で決めている。
だが、ハヤテはそこまでしか決めていなかった。
肝心なことについては何も決めていなかった。
日没まで、あと約一時間ある。いや、一時間しかない。
朝からずっと考えているのに、決めることができていない。その事実がハヤテを焦らせる。
「焦って考える必要はないからな。落ち着いて考えろ。」
心の中の苛立ちが顔に現れていたのだろうか。
ベンジャミンさんが声を掛けてくれる。
「はい。」
ベンジャミンさんの言うとおりだ。焦って良いことが起こったことがない。
焦って登校したら、宿題を忘れたり……
焦って跳び箱を跳んだら、床と顔面がキスするはめになったり……
アニメ見ながらゲームしていたときに、ゲームでやらかして焦ったら、アニメの伏線を見ていなかったり……
うん、焦って良いことはないな。特に最後のは最悪だ。
よし、落ち着いて情報を整理しよう。
まずは神域についてだ。
神域とは何か。昨日のベンジャミンさんの話を思い出す。
『神域とは、三大大国の一つ、神国の初代国王が創造した特殊次元領域のことだ。当時は軍事的な目的で使われていたが、現在は孤児院として機能している。神域出身の者ーーー神の子は特殊な訓練により、常人よりも強い力を持つことができる。たがその反面、神域に一度踏み込むと、制約が課せられる。有名なのは、《一度踏み込むと三年間は神域の外に出ることができない》という制約だな。』
ベンジャミンさんによると、制約は人道に反する行動を制限したり、どこの国家にも属すことができないなど、いろいろあるらしい。
『神域に行くと誰しもが変わる。良くも悪くも。できることも、できないことも増えるからな。俺も神の子だから、だいたいのことを知っているが、制約によって詳しいことは話せない。』
『お前の取れる選択肢は二つだ。
一つ目はお前と嬢ちゃん以外の施設に囚われていた子達と同じように神域に行くこと。
二つ目は自分自身の力でこの世界を生きていくこと。安心しろ、近くの都市までは送ってやる。
明日、日が沈む頃に神域へと連れていってくれるイケメンがくる。それまでに考えろ。』
神域に行くと力がつく。やっぱり強い男は憧れる。但し、制約が付く。そして水無瀬さんにも三年間は確実に会えない。
自分自身の力でこの世界を生きる。制約も付かないし、水無瀬さんにも会おうとすれば会える。問題は一人でこの世界を生きていくことが本当にできるのか……
水無瀬さんはベンジャミンさんに剣を教わるらしい。何故かは知らないが……
水無瀬さんも、神域に行った子供達も、しっかりと自分で決めたそうだ。
「ハヤテ、決まったか?」
いつの間にか空は茜色に染まっていた。恐る恐るベンジャミンさんと水無瀬さんの方を向くと、そこにはイケメンがいた。この人が神域へと連れていってくれる人なのだろう。頭の角が気になる。
ベンジャミンさんも、水無瀬さんも、俺が真剣に考えていることに気を使って、最低限の会話しかしないようにしていた。
それは、俺が答えを出すと信じていたからなのだろう。
期待を裏切りたくない。けれどもまだ結論は出ていない。もう適当に決めよう、そう思ったとき、
『好きなように生きなさい。』
母さんの声が聞こえた気がした。
そうか。利点とか、デメリットとか、そういうことしか考えていなかった。
要は自分がどうしたいかなのだ。
利点とか、デメリットは二の次だ。
自分に正直に……
「僕は――――――――――――――
面白かったら、星やブクマなどをして頂けると嬉しいです。